別冊ハナとユメ 2

 ユメが私以外の子とアレコレが無くて良かった。

 だけどホッとしたのも束の間。ララが険しい顔をする。


「確かに今回は何もなかった。しかし、これから先もそうとは限らないのではないか?」

「まさかー。少し前ならまだしも、今は私と付き合ってるんだよ。何かあるわけが……」

「ほう?ならば付き合ってから今まで、恋人らしいことをどれだけしてきた?」


 う、痛いところを突かれる。私達の場合元々一緒にいる時間が長かったせいか、実は付き合い出してからもこれといって特別な事をしようとはしていないのだ。家に遊びに来るとか、一緒に帰る等は今まででもあったし。


「あ、でもこの前、休みの日にどこかに出掛けないかって誘われはしたかな」

「なんと、それは初耳だ。それで、いったいどこに行ったんだ?」

「ええと……それがね」


 目を反らして言い淀む私を見て、ララは何かを察した様子。とたんに表情を曇らせてくる。


「まさか、結局どこにも行かなかったのではあるまいな?」

「だ、だってその時、ユメったらバイト続きで疲れていたし。休みの日くらいゆっくりさせてあげたいかなっていう私なりの優しさで……」

「破局する気か!優しさの使い所を激しく間違っている!」


 激昂するララ。返す言葉がありません。

 私としては気遣いのできる優しい彼女を演じたかったんだけど、疲れてるだろうから無理しなくてもいいって言ったあの時のユメの悲しそうな表情ときたら……やっぱり、マズかったかな?


 できることなら、あの時の私をぶん殴ってやりたい。するとララは、そんな私を見て深いため息をつく。


「まったく。ハナのことだから、こんなことだろうと思ったよ。いや、予想以上か」

「ごめんララ~」

「私に謝ってどうする?まあいい、そんな君に良い物をくれてやろう」


 そう言ってララはスカートのポケットから、二枚の紙を取り出した。


「まだデートもしたことないのだろ。次の休みにでも、二人で行ってくるといい」


 そうして差し出されたのは、なんと遊園地のペアチケット。

 ここから程近い山の上にある遊園地で、私も昔は何度か行ったことがあるけれど、中学に上がったくらいからすっかりご無沙汰している。

 だけどデートスポットとして人気があり、うちの学校のカップル御用達の場所であることは、私もよく知っていた。そんな遊園地のチケットがなぜ?


「ララ、いったいこれどうしたの?」

「遠慮することは無い。商店街の福引きで当たったんだが、私はくじ運が良くてな。ワンパターンな景品であるこのチケットは過去に何度も当てている」


 何度も当てているの?私なんてポケットティッシュしか当たったことが無いのに。


「だから一人でジェットコースターや観覧車に乗るのにも飽きているんだ。いつも一人で来る女として、係員にも顔を覚えられる始末だ」

「いつも一人で行ってたの⁉せっかくのペアチケットなんだから、誰か誘おうよ!」

「今は私の話なんてどうでもいい。それよりも、夏目君とそこに行きたくはないか?」


 突きつけられたチケットを手に取り、考える。

 週末にはお小遣いも入るし、たしかユメもバイトは無いって言っていた。タイミングバッチリじゃない。


「ラ、ララ様。そのチケットを私目に、どうか私目にお譲りください」

「よろしい。ただし、絶対にデートは成功させること。それが条件だ」

「ありがとう。任せてよ、必ず成功させてみせるから!」


 そうと決まれば後でユメに声をかけて、どんなアトラクションがあるか事前に調べて……

 何しろ小学校以来行って無いから、様変わりしているかもしれない。入念に下調べしておかないと。


「ユメ、昔はコーヒカップやメリーゴーランドに乗ってたけど、この歳でそれは無いか。ララ、何かお勧めのアトラクションってない?」

「そうだな。君に全てを任せるのも不安だし、愛と平和のために力を貸すとしよう」


 私じゃ不安って、どういう意味よ?

 そう突っ込みたかったけど、せっかく助言してくれるというのだから、ここは素直に好意を受け取ろう。かくして念願の初デートを成功させるため、一大作戦が動き出したのだった。


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