十年恋慕

 幼馴染み。それがアタシとユメの関係の全て。

 中学に上がったくらいから、周囲からは付き合っているのかって聞かれることが多くなったけど、そんなことはなくて。ただの腐れ縁と答えながら過ごしてきた。そしてそれは、高校に入った今でも変わらない。


 本当は今も昔もユメの事が好きなのに、無駄に意地を張るから、その事を伝えられない。そんなアタシの片想いは、もう十年になる。

 その十年の間、ユメは見違えるほど格好良くなっていた。高身長で、落ち着いた雰囲気。甘いマスクが女心をくすぐって、今やすっかりモテ男子だ。

 それに比べてアタシは、ショートカットの似合う、元気のいい系女子。彼女にしたいというよりは、男友達に近いってよく言われる。よけいなお世話だ!


 そんなアタシとユメは、何の因果か小中高と同じ学校に通っている。家を出る時間は二人とも同じだから、一緒に登校できるのが密かに嬉しい。

 今日も二人で青いブレザーの制服を着て、白泉高校の門を潜る。それはそうと……眠い。


「ハナ、欠伸する時は、口に手くらい当てなよ」

「いいでしょ別に。見られて困る訳じゃないんだし」


 代わり映えしない、いつものやり取り。だけど内心、しまったと思っていた。こんな無防備な姿を、ユメに見られてしまった。呆れられていないかと心配しているのに、なぜこうも素っ気ない態度をとってしまうのかは自分でも分からない。


「まあ確かに俺は見慣れてるけどさ。欠伸どころか、寝癖だらけでだらし無い姿だってしょっちゅう……いてっ!」

「余計なお世話!」



 どついてやったけど、正直耳が痛い。寝坊助のアタシは時折、髪をろくに整えないまま学校に行くこともある。いつも一緒に登校しているユメは、当然それを目にしているわけで……

 好きな男子にそんな姿をよく見られるって、どうなんだろう?


「俺はいいけどさ、他の奴には見せたくないから」

「えっ?」


 それって、アタシの無防備な姿を見ていいのは俺だけだってこと?

 膨らんだ妄想に、思わず胸がキュンと鳴く。だけどいつまでも都合のいい考えに浸れるほど、現実が見えていないわけではない。


 ……違うか、アタシがだらし無かったら、一緒にいる自分まで恥ずかしいってことだよね。

 そっちの方がよほどしっくり来る。


 一人で舞い上がって、勝手に落ち込んで。そんな百面相をしていると、ポンと背中を叩かれた。


「おはよう、ご両人」

「……ララ」


 挨拶をしてきたのは、同じクラスの女の子、藤村晃。

 名前は男の子ぽいけど、アタシはいつもあだ名で呼んでいる。苗字と名前の最後の文字をとって、『ララ』。


 長い髪に眼鏡をかけた、パッと見いかにも真面目そうな彼女。だけど実際はどこか掴み所がない、独特な性格をしている。


「今日も朝から仲がよくていい。見ていて羨ましくなる」

「普通じゃないの?」

「普通だってば」


 アタシとユメの声が重なる。だけどそれを聞いたララは、「息ピッタリだ」と言ってクスクスと笑う。


「本当に付き合っていないのかい?君達のようにアダ名で呼び会う男女は、大抵付き合っているものだが?」

「それはほら、昔からの癖がとれないだけだから」

「今更無理に変えることもないしね」


 別段おかしなことなんて無いはず。まあアタシとしてはそうなっても良いんだけどね。けどそんな事は、口が裂けても言えない。


「登下校だって、毎日一緒にしてるじゃないか」

「そんなんじゃないってば。それに登校はともかく、下校はいつも一緒って訳じゃないよ。昨日だってユメ、用事があるって先帰っちゃったし」

「バイトの面接行ってたからなあ。これからは放課後にバイト入れることが多くなるから、益々一緒に帰ることもなくなるだろうし」

「そうそう、その通り……って、バイト?」


 そんな話聞いてない。用事があるとは言っていたけど、バイトって……


「初耳なんだけど」

「初めて言ったからね。別にハナに報告しなくたっていいだろ」

「そりゃそうだけど……」


 それでも、何だか隠し事をされてたみたいでスッキリしない。昔は何だって話してくれたのになあ。十年も経てば、やっぱり同じじゃいられないのかな?

 アタシはこんなに好きなのに、やっぱりユメはそうでは無いのだろう。一人で考えて、一人でしょげる。さらにもう一つ、これからは一緒に帰れなくなるという事に気付いて、更に寂しさを覚えた。

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