第十八話 輝く神の信奉者

 ――――この世界では、神の名を呼ぶことは禁忌とされている。


 理由は酷く単純なものだ。

 この世に溶け合い、現象としてその姿を人に見せる神々は、遍く人々の声に耳を傾けることができる。

 故に、用も無いのに呼ばれてしまっては不都合であるとして、神々の王である天空神は人々に神の名を呼ぶことを禁じた。

 その名を呼んでよいのは、神と人とを橋渡しする神官のみ。

 彼らがその生涯を神に捧げることを誓って初めて、力ある言葉と共に神の名を口にすることが許されるのである。

 そのため、この世界の人々は名ではなく、権能によって神を呼ぶ。

 天空神てんくうしん旅神たびがみ酒宴神しゅえんしん森神もりがみ炎神えんじん鉄岩神てつがんしん――――そのように。


 ……であればこそ、その男は異常である。

 “輝けるアポロン”?

 それが神の名であるとすれば、大罪だ。

 みだりに神の名を呼ぶ者は天空神の裁き、即ち雷霆らいていをその身に受ける。

 だがそのようなことは起こりえない。

 輝けるアポロンなどという名の神はこの世界に存在せず、であればこそ観衆は彼が奉ずる偉人英傑の類であろうと認識した。

 己が一族の開祖や、偉大なる英雄に信仰を捧げ誓いを立てることはさほど珍しくはない。

 だが問題は、それが異界の神の名であり――――それを知る者が、この場に二人いたことだった。


「………………アポロンっつったよな」


 観衆詰めかける広場の端で、そこからでもよく見える赤毛の男の演説を聞いていた黄色は、隣のエミリオに呆れ顔を向けた。


「……ああ、残念だ。オレの耳がおかしくなったわけじゃないらしい」


 エミリオも苦笑し、肩を竦める。


「なんじゃお主ら。どうかしたのか」


 ただ唯一、出身の時代と地域の関係で事情を理解できていない村正だけが怪訝そうな顔をしていた。

 なお彼女は背が低いせいで観衆に邪魔されて罪人の姿が見えず、仕方ないので黄色に肩車をさせていた。苛立ち混じりに「小童。見えん。乗せろ」などと師匠に言われて断れる弟子がいようか。いやいない。逆らうと怖いし。ちなみにめちゃくちゃ軽かった。


「あー……南蛮の神様の名前でさ」

「ルネサンスの出身、じゃ無いんだろうな……」


 アポロン――――言わずと知れた、古代ギリシャの神の名である。

 光、法律、医術、疫病、神託などを司り、後世では太陽神の性質も得た男性神。

 絵画や彫刻などでも頻繁にモチーフにされ、近代では最初に月面に降り立った宇宙船として世界中に名を馳せた。

 黄色も“古代ギリシャの太陽神”程度の認識しかしていないが――――いずれにせよ、この世界の神の名ではないことはわかる。そもそも神の名を呼んではいけない事情はアンナに聞いていたし。

 そして改めてその男の服装を見てみれば、まぁ古代ギリシャ人って確かああいう感じのチュニック着てたよなぁ、という納得感もあった。

 異世界にいるはずもない、古代ギリシャ人。


「ふむ。つまり――――」

「――――――――犬士、だな……」


 ただ今絶賛演説中の、処刑直前のあの男性は、黄色たちと同じく魔王を倒して世界を救うためにこの世界にやってきた八人の勇者のひとりであるようだった。なにやってんだ。

 いやほんとなにやってんだ。

 というかなにやったんだ。普通に処刑を受け入れようとしてるんじゃない。

 このまま演説を聞いていても仕方なさそうなので、隣で同じく演説を聞いていた男性に事情を聞いてみる。


「あ、あの、すいません。あの人、なにやったんです?」

「ん? ああ……最近来た旅人さんかい?」

「ええ、まぁ」

「いや……なんと言うべきかな。今、市長が新しい事業を始めるために土地の接収なんかをやってるんだがね」

「はぁ」


 ……土地の接収。

 つまり、この家は新しい事業に使うので政府に譲りなさい、みたいな話か。

 この街の政治体系はわからないが、中々反発のありそうな話である。


「どうもその手口が強引でね……揉め事も多かったんだが、三番通りの冒険者宿であのお兄さんが立ち退き要求に来た兵士と派手な口論になってね」

「……あんな感じで?」

「……そう、丁度あんな感じだったらしい」


 視線をちらと櫓にやれば、罪人は高らかに演説を続けていた。


「まぁその場はあのお兄さんが勝って兵士は帰ってったらしいんだが、何を思ったかその足で広場まで来て演説を始めてねぇ」


 ……なんとなくどんな演説だったかは想像がついた。

 それが表情でも伝わったのか、男性は苦笑する。


「お察しの通り、独裁者がどうのこうのとか、市民は立ち上がるべきだとか、そんな話さ。で、騒乱罪だの反逆罪だのでしょっぴかれて今に至るってわけだ」

「うわぁ……」

「筋金入りじゃの」


 あまりにも当然の流れであった。

 説明してくれた男性に礼を告げ、改めてエミリオと微妙そうな視線を交差させる。

 多分、肩車をしている村正も頭の上で同じような顔をしているだろう。


「……で、どうすんだ?」

「まぁ……見殺しにするのもなぁ」


 悪行によって処刑されそうになっているならまだしも、どうも悪い領主に逆らって捕まった状況のようだし。

 いや領主の行いも詳しく調べてみないことにはまだなんとも言えないのだが、少なくとも市民のために立ち上がり演説をした罪で殺されるというのは、まぁ同情の余地は十分にありそうではある。


 大体、彼が八人の勇者のひとりだと言うのなら、最終的には共に魔王を討つ仲間ということになる。

 それを考えれば、ここで彼の処刑を見過ごせば魔王に対抗する戦力が減るわけで…………無謀にもワームに挑んだ黄色や単騎で山賊を相手取ろうとしたエミリオが言えることではないが、彼も大概考えなしなのは間違い無さそうである。


「助けたいよ。……つってもどうするか……」


 周辺は観衆だらけで、櫓は兵士がガッチリと警護している。

 バレないようにコッソリというのはどう考えても無理だし、強行突破も罪人が三人増えるだけの結果になりかねない。

 無策で飛び込んで大立ち回り、というだけでも相当の困難が予測される上、仮に成功してもお尋ね者になるのは避けられまい。そうなれば、無事にこの街を抜け出すのは至難となるだろう。


「……助けたいか」


 念を押すように問うたのは、エミリオだった。


「……助けられるなら」


 目の前で人が死ぬのを楽しんで見れるような精神構造を、黄色は持ち合わせていない。

 彼が義憤によって立ち上がった人間だとするなら……なおさらだ。

 なにも殺されることは無い。

 そう答えれば、エミリオは肩を竦めて帽子を目深に被った。


「そうかい。なら――――仕方ない。お前さんには借りがあるからな。オレはまぁ、あのやたら口が回る旦那のことはわりとどうでもいいんだが」

「ほう。なんぞ策でもあるのかの?」

「まぁね。ここはオレに任せときな。こういうのはアウトローの領分だろ?」


 彼女はニィと笑って、黄色の肩を軽く叩いた。

 そのまま、人込みを抜けてどこかへ去ろうとする。


「お、おい、どこ行くんだ?」

「後で探して合流する。ティータイムでも楽しみながら待ってるんだな」

「答えになってないよなそれ!?」


 ひらひらと手を振る彼女の背中は、あっという間に見えなくなった。

 ……この人込みをよくああも簡単に抜けられるものだ。広場の端の方とはいえ、結構な人がいるのだが。


「……どうする?」

「見ておればよいわ。何かしら考えがあるんじゃろ」

「ええ……」


 頭上の村正は呆れ半分に鼻を鳴らした。

 別にエミリオを信用していないわけではないが、なにせ山賊相手に単騎駆けの前科がある。

 まさかこの場で正面から突撃、なんてことはしないと思うが……歯噛みしながら櫓へと視線を移せば、一通り演説を終えたらしき罪人が堂々と立っていた。

 ……まるで王か何かのような態度だ。

 彼は罪人で、今から彼の後ろで辟易した顔をしている兵士によって処刑されるはずなのだが。

 そんなことは知ったことではないと、彼は堂々と立って観衆を睥睨している。

 逞しく鍛え上げられた肉体も相まって、その姿はもはや彫刻のようですらあった。


「……にしても中々始まらないな、処刑」

「ふむ。兵の方も随分苛立っておるようじゃし、なんぞあったのかもしれんの」

「苛立ってるのは、単純に演説がうるさかっただけな気もするけどな……」


 ……と。

 仕方なしに雑談をしていれば――――




 ――――――――――――ざわめく観衆の声を掻き消す、竜の咆哮。




「っ!?」


 轟音。

 その音を、

 観衆が慌てふためき、何が起きたのかと騒ぎ出す。

 誰もが音の主を探す。

 兵も必死に。怯えと困惑。

 ただ罪人である男だけが、彼も相応に驚いてはいた様子だったが、努めて冷静に音の方向を見据えていた。


「あそこだ!」


 誰かが叫ぶ。

 示された方向。

 広場の入り口のひとつに佇む、人影の姿。

 つば広のキャトルマン・ハット。

 首元から腿までをすっぽりと覆うポンチョ。

 ベージュのジーンズ。

 拍車の付いた頑健なブーツ。

 そして――――その左手は布で覆われ、顔も同じく布が巻かれて隠されている。


「あの馬鹿……っ!」


 エミリオである。

 どう見てもエミリオで、そしてこれはどう見ても正面突破である。

 馬鹿なのか。

 あのアウトロー、賢そうに見えて意外と馬鹿なのか。

 どう考えても単騎で特攻かけていい状況でもあるまいに、馬鹿なのか。


「――――そんなに見つめるなよ紳士淑女! 照れるだろ?」


 布に覆われていささかくぐもった声で、彼女は叫んだ。


「悪いが道を開けてくれ! 殺して通るのは面倒でね!」


 一拍遅れて、言葉の意味を理解した観衆が慌てて道を開ける。

 櫓までの一直線。

 当然、兵士たちが割って入った。


「何者だ貴様!」

「レジスタンスのメンバーか!?」

「ハ、通りすがりだよ」


 槍を構え、開いた道を駆けていく。

 エミリオは布の下でヒュウと口笛ひとつ。

 布で覆われた左手が突き出され――――――――再度、轟音。

 前を進んでいた兵士の槍が、半ばから折れ砕けた。


「なっ……!?」

「オレの左手はちょいと特別製でね。小さな竜を飼ってるのさ。……あーいや、“ドラグーン”だとコルトだな。まぁ“鍛冶師スミス”の細工だよ」


 兵たちの足が止まる。

 正体不明の攻撃。

 轟音が鳴り、遠間から武器が折れ砕ける。

 如何なる魔法か。それは目には見えぬ。


「こんな具合にな」


 続けて轟音……二度、三度。

 兵たちの武器が次々と弾かれ、あるいは破壊されて行く。

 ジリ、と無意識に兵たちが後ずさった。

 それを見たエミリオが、大仰に肩を竦める。



「さて――――それじゃあ本物のレジスタンスにご登場願おうかね!」



 その声と同時に、上がる歓声があった。

 歓声。喚声。喊声。

 舗装された大地を踏み鳴らし、建物の陰から現れる――――人、人、人。

 彼らは一様に武器を手に持ち、エミリオと同じように顔を覆面や仮面で隠している。

 ――――レジスタンス。

 それが広場へと勢いよく足を踏み入れ、兵士たちを制圧していく。

 武装集団の登場に観衆は大慌てだ。

 我先にと逃げ出し始め、広場は混乱に包まれた。


「うおっ……む、村正、一旦“変わって”くれ!」

「む。あいわかった」


 観衆に紛れて様子を伺っていた黄色も、当然渦中だ。

 次々と人が右に左に押し寄せる中で、肩車などと不安定な体勢を取っている場合ではない。

 幸い周囲の人々の注意はこちらには向いていない。

 黄色は村正を肩から降ろすと、同時に刀へと変えて腰に佩いた。

 人型のまま行動して離れ離れになってしまうのは危険だったし、これが一番安全だ。

 それでどうする。

 混ざるか。退くか。

 レジスタンスに混ざり、エミリオに加勢するか。

 それとも民衆に紛れ、一旦退くか。


「おい、退くぞ小童。ここは彼奴あやつに任せておけ」


 村正の声。

 ……エミリオは、任せろと言った。

 顔を隠さずに飛び込むのもマズいか。


「……わかった!」


 返事ひとつ、人の流れに逆らわずに撤退を開始する。

 ちらと後ろを振り向けば、エミリオ含むレジスタンスが櫓に到達し、銀腕の男を解放している姿が見えた。

 処刑阻止は成功したらしい。胸を撫でおろす。

 あとは一旦退いて、エミリオと合流するだけ――――


「――――ええい、道を開けろ! 罪人を逃がすわけには行かん!」


 ……黄色の進行方向。

 声を荒げる男たちの姿が見えた。

 鎧。武器。守るように周囲を兵で固められた、杖を持つ男。

 増援か。

 あるいは、処刑人か。

 逃げ惑う民をかき分け、次第に彼らのために道が開けられる。

 彼らは彼らでなんらかの戦闘行為があったらしく、着衣の乱れなどが見受けられたが――――もう一度後ろを見る。

 まだエミリオたちはいた。


 ――――――――ええい離せ! 私は独裁者には屈さないが、暴力によって命を惜しもうとは思わん! 抗うならば法を敷き直す形で抗うべきだ!

 ――――――――言ってる場合かよ旦那! ここは一旦、俺らを助けると思って!

 ――――――――アー、じゃあこうしようぜ。従わないと脳天ブチ抜く。誘拐だよ誘拐。

 ――――――――ぬぅ……!


 うわっ揉めてる。罪人めっちゃ抵抗してる。

 ……意を決した。

 転がり出る。


「むっ……ええい貴様も邪魔だ! 通さんと貴様も牢にブチ込むぞ!」


 文字通り、黄色は転がり出た。

 増援の前に転がり出て、必死に肩で息をする。

 それから慌てたように周囲を二度、三度と見て、縋るような顔で兵を見上げた。


「あのっ!」


 意は決している。

 あとは、やるだけだ。




「――――――――――――妹、見ませんでしたかッ!?」




「……はぁ?」

「あの、銀髪で、このぐらいの身長で……いないんです! さっきまでいたのに! 手を繋いでたのに……!」

「お、おい、わけのわからんことを……」


 困惑しながら、兵たちが黄色を起こそうとする。

 その手を掴んだ。力強く。両手で。


「たったひとりの妹なんです! 俺が守ってやらなきゃいけなかったのに! 俺が、俺が父さんの代わりに守ってやらなきゃいけなかったのに、俺はッ!」

「お、落ち着けキミ。いいからちょっと、ここを通して……」

「クソッ! 何やってんだよ俺は……!」


 地面を叩く。力いっぱい。

 ……妹とはぐれて錯乱している少年に、見えるだろうか?

 この世界の成人基準はともかく、黄色は年若い少年には違いない。

 それが妹とはぐれて錯乱して――――……これは賭けだった。

 兵たちの良心に期待した、賭けだ。

 なにせ独裁者の街(仮)だ。

 もしも兵たちが人を人とも思わない悪人揃いなら、黄色は一蹴されただろう。

 けれど、彼らが少しでも人としての善良さを持ち合わせているのなら――――この芝居には、勝算があった。


「お願いです! 妹を、妹を探してください!」

「わかった、わかったから! 一旦どいてくれ!」

「あぁっ!」


 必死に兵に縋りついていた黄色は、多少乱暴に振りほどかれた。

 大げさに地面を転がって見せる。痛くはない。ちゃんと受け身も取った。

 だが派手に転がったのは、やはり兵の気が咎めたようで。


「す、すまない。大丈夫か?」

「いいから! 構うな! 行くぞ!」

「あ、ああ……すまない少年。後で必ず!」


 兵は後ろ髪を引かれる思いを如実に表情に出しながら、ようやく広場への行進を再開した。

 ……一部始終を見守っていた民衆が、おずおずと黄色に声をかける。


「……お、おい。大丈夫か、兄ちゃん?」

「…………はい。どうにか」


 服の汚れを払い、ゆっくりと立ち上がる。

 まぁ――――――――こんなところか。

 もう一度後ろを振り向けば、既にレジスタンスは撤収を終えていた。

 時間稼ぎとしては十分な働きだったらしい。増援が地団太を踏み、必死の追跡を行っているのが見える。

 善良な兵の良心を利用したのはいささか気が咎めたが……まぁ、そんな善良な兵がレジスタンスとの交戦で傷付かなかったことを喜ぶことにしよう。

 黄色は周辺の民衆に対して“妹を探す兄”の演技を続けながら、広場を離れて行った。

 ……腰の村正が、小さくため息をついた気がした。




   ◆   ◆   ◆




 それから数刻。

 無事に妹との感動の再開シーンも演出した黄色は、村正と共に適当な酒場に入っていた。

 あれだけ目立つ行動を取ったのだから、エミリオがこちらを探すのも容易だろう。

 結局完食し損ねた昼食の続きとして、鶏の串焼きを食べながら待つ。


「……しかしまーよくも舌が回るものじゃのーお主」

「ああいうのはある程度定型なんだよ。……でも、村正の妹ぶりも中々だったぜ?」

「たわけ。まったく、師匠を芝居に付き合わせるとは……」


 不機嫌に頬を膨らませる村正。

 黄色はくつくつと笑いながら、串焼きを小皿に取り分けてテーブルの上を滑らせた。


「いやぁ申し訳ない。村正師匠におかれましては、なにとぞこれでおひとつお許しいただければ……」

「お主儂をなんじゃと思っとるんじゃ!?」

「ははは、冗談冗談」

「たわけっ!」


 なんのかんのと言いつつ、奪うように串焼きを頬張る村正である。

 食事が必要ないとはいえ、別に味覚が無いわけでは無いのだ。食事も立派な娯楽なのだから。


「まぁ悪かったって。実際助かったよ。ありがとな」

「ふん。まぁばいんばれいから引き続き、ではあるがの」


 昼頃にサーベラスにも話したが、兄妹設定は継続中だ。

 子供を連れて旅をしているということに関して、それが最も説明しやすい。あるいは探せばこの世界にも人に変身する武器ぐらいあるのかもしれないが、その確認が取れるまでは兄妹設定で通した方が都合がいいだろうというのが両者の総意である。

 村正が変身できない状況に備えて、予備の剣も持っておくべきだろうか……という話をしたら、村正に思い切り脛を蹴られたのは余談とする。


「……しかし、大丈夫かなエミリオの奴」

「じき夕刻か。宿待ちかもしれんのう……ぱるちばるを預けた宿に戻ってみるか?」

「その方がいいかもな」


 街に入った時、荷馬であるパルツィヴァルを既に宿に預けてある。

 思えば合流場所としてはそこが一番適当ではあるし、最初からそちらで待つべきだったか。

 そう思いながら、最後の串焼きを平らげようと手を伸ばしたところで――――横合いから伸びた手に、素早く串焼きを奪われる。


「あっ!?」

「……ふむ。まぁ流石に肉はどこで焼いてもそんなに味は変わらないもんだな」


 視線を横にやる。

 そこにいたのは……女性だった。

 肩の長さの赤みがかった金髪を小さくポニーテールにし、胸元の大きく開いたシャツを着て。

 レザーグローブで手を覆った、鋭い目つきの女性。

 その右耳では、茶褐色のイヤリングが揺れている。


「おいテメェ、人の飯を勝手に持ってくのはこの街じゃ合法だったりすんのか!?」

「さぁ? 知ったことじゃあないね。そんな街の話は聞いたことも無いが」


 女性は……何故か不機嫌そうにツンとそっぽを向く。

 なんだこいつ。

 なんで急に人の飯を奪って、それで勝手に不機嫌になってるんだ。

 そもそも誰だこいつ。

 どこかで見たことのあるような顔ではあるが、この世界の知り合いは決して多くない。


「クク、馬子にも衣装じゃの」

「うるせぇ。オレ……オホン。アタシも不本意だよ。極めてね」


 怪訝な視線を向ける黄色とは裏腹に、村正は自然と女性と会話をしている。

 ……なんでだ。

 ……………………いや待て。まさか。


「……あ? まさかお前さん、気付いてないのか?」

「――――お前、まさか、あっ、ああっ」


 よく見てみれば。

 ショートパンツとそこから伸びる黒タイツ……そして、腰に巻かれた

 赤みの強い金髪。

 鋭い美貌。

 レザーグローブ。

 茶褐色のイヤリング。

 ……あと、グラマラスなプロポーション。

 繋がる符合。ぱくぱくと口を開ける黄色に対し、女性は不機嫌に鼻を鳴らした。




「――――――――――――今はだ。ジロジロ見てると頭に風穴が空くぜ、“虫食い野郎ワームスレイヤー”」




 ――――アウトローは、己の姿にご立腹の様子だった。

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