うらがみ様

青出インディゴ

※他言無用でお願いします

 東北地方のある小さな町の噂です。


 この町には、「うらがみ様」と呼ばれる神様のようなものが住まわっていると言われています。


 町には特に全国的な名物があるわけではないのですが、お盆が終わったころに開催されるお祭りが、年に一度の大きな行事です。お祭り自体はちょっとしたお神輿が練り歩き、お囃子が演奏されたり、花火が上がったり、夜店が出たりするといった、どこの町にでもあるようなごくごく普通のお祭りです。近隣の地域の人も多く見物に来て、一種の町おこしイベントのようになっています。


 うらがみ様はちょうどこの時期に姿を現すのです。他地域から遊びに来た人たちにはお祭りの名前は単なる「〇〇町祭り」だと伝えられていますが、実際住んでいる人たちは、お祭りの本当の名前が「うらがみ様祭り」であることを知っています。


 夜9時にもなると花火が終わり、夜店も閉まって、お客さんたちは帰っていくのですが、このお祭りは実はここからが本番です。夜更けを過ぎると、住人たちは日中のにぎわいが嘘のようにサーッと町から消えていなくなり、自宅に閉じこもってしまいます。なぜなら、うらがみ様が町を通るからです。通ると言っても、歩いて通るのか、それとも走って通るのか、乗り物にでも乗っているのか、わかりません。今までにその姿を見た人は一人もいないからです。うらがみ様を見てしまうと、見た人に恐ろしい不幸が降りかかると言われています。


 うらがみ様は一晩かけて、ゆっくりゆっくりと、一方の町境から一方の町境へと通り抜けていきます。住人たちは息をひそめて、うらがみ様が町を通るのを待つのみです。このとき、家族は誰も寝てはいけません。しかし灯りをつけてもいけません。起きてはいても、あくまでその場にいない風を装うのです。家に人がいることをうらがみ様に知られてしまうと、その家はつぶれると言われています。


 町をうらがみ様が通る方角は毎年変わり、その方角は12年ごとに一巡するのです。ちなみに、今年は北東から南西に向かって歩く年です。その年のお祭りでうらがみ様が通る方角は、お祭りを司る神社の宮司さんが町民だけに教えてくれます。神社は表向きは〇〇様(『古事記』にも出ている由緒正しい神様ですが、念のため伏せておきます。全国的に祭っている神社が多い神様です)を祭っていることになっていますが、実際にはうらがみ様を祭っているのだと言われています。


 ところで、最初にうらがみ様のことを、「神様のようなもの」と表現しましたが、お祭りごとにうらがみ様が来るからといって、何かご利益があるといった話は聞きません。ただ、お祭りの夜にうらがみ様という何者かが町を通り抜ける、そのあいだ住人は家にこもり、通り過ぎるのを待たなければならない。そんな習わしがあるだけです。うらがみ様がなんなのかわかりません。ただ一つ言えるのは、毎年うらがみ様が向かった方角の地域で、何かしら大きな異変が起こるということです。


 これらの話を、私はその町に住む友人から聞きました。

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