ライトウィング・ペイトリオッツ・コリアンファッカー


 国粋主義的リリックで愛国を歌うことで知られるヒップホップ・グループ、「コリアン・ファッカー」のリーダー、木牟田くん。わたくしエメーリャエンコ・モロゾフと木牟田くんは、愛国ポルノの代表的作家であるヒャクタ・ナオキ先生のサイン会で知り合ってからというもの、毎日愛国主義的メッセージを〈LINE〉と呼ばれるコミュニケーション・サービス――そのサービスを運営するのは韓国企業だが、それは愛国者にとっても大変便利なので愛国主義的だ――で交換しあうほどの仲であるが、そんな木牟田くんから、「実は今まで隠してたことがあるんだ」と相談を受けたのは昨年の冬のことである。「これは誰にも言ってないことだがモロゾフ、きみだけには言っておきたい」と木牟田くんは言った。「実は俺、木牟田じゃなくてキムっていう名前だったんだ」


 小学生のころ、社会のテストで「1945年、日本はポツダム宣言を(   )し、第二次世界大戦は(   )した」という空欄埋め問題が出ると、木牟田くんは必ず次のように答えた。「1945年、日本はポツダム宣言を(拒否)し、第二次世界大戦は(日本優勢のまま継続。日本は原子爆弾を開発し、ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京へ投下。連合国を火の海にし、日本が圧倒的勝利を収める形で終結)した」。当然テストは0点だったが、木牟田くんにとってそんなことはどうでもよかった。むしろ、木牟田くんにとって、学校のテストで高得点を取るということは、売国主義的洗脳的教育下において、教師の教えに従い日教組の従順な狗になりさがることを意味した。真実を知っているのは自分だけで、教師も含めてみんな馬鹿だと木牟田くんは考えていた。「こんなシステムの中で競い合って偉くなっていくなんて、俺はまっぴらだった」と木牟田くんは、右翼専門誌『第五次産業革命』による「コリアン・ファッカー」へのインタビュー中で語っている。「俺は真実を知っていたし、俺だけが真実を知っていた。そこにはシステムがあった。俺以外の誰もがそれに取り込まれていたんだ。みんな騙されてるんだって、目を覚ませって思ったんだよ。俺は、当時周りにいた友達とかにはちゃんとそう言ったんだけど、誰もまともに聞いてくれやしなかった。みんな俺のことを馬鹿だと言った、どいつもこいつも、「騙されてるのはお前のほうだ」とか、「それって陰謀論ってやつじゃね?」とか、「ネトウヨかよ、ウケるんだが?」なんて言って、真実に目を向けようとしなかった。言っても無駄だと思ったよ。自分には人を動かすだけの力がないんだと思った。でも、あきらめたくはなかったんだよ。絶対にね。だから、それだけの力を手に入れようと思った。いろいろやったよ。ブログもやったし演説もしたしデモもした。それからヒップホップに出会った。そのとき「これだ!」と思ったんだよ。ヒップホップが俺に力をくれたんだ」


 木牟田くんは生まれてこのかた36年間、ずっと日本人として育ってきた。日本人として正しく健全に、日本語を話し米を食べ産経新聞と小林よしのりに心酔し、ゼロ年代以降は左翼へと転向した小林を非国民と罵倒した。「コリアン・ファッカー」結成前、ネトウヨ系論客として2ちゃんねるを中心とする各種大規模掲示板系メディアにおいて、独自の右翼言説を展開していた木牟田くんの代表的論考が、次のようなものである。

「現在、我が国において、〈本当の日本人〉がどれだけいるか、みなさんはご存知だろうか。周知のとおり、我が国には、日本人のふりをした非日本人がたくさんいる。テレビや新聞など、いろんなメディアにおいて、この一年間で非日本人――〈在日外国人〉――がどれだけ報道されてきたのか。数はよくわからないが、いっぱい、あるいはたくさんである。朝日新聞や毎日新聞といった洗脳主義的左派メディアは〈在日外国人〉の権利を認め、彼らを支援する動きを報道することが好きなようですが、違和感を覚えざるをえません。発行部数から言ったら、朝日新聞の影響は、かなり大きいはずだろう。最近の報道の背後にうかがわれるのは、彼ら彼女らの権利を守ることに加えて、〈在日外国人〉への差別をなくし、その生きづらさを解消してあげよう、そして多様な生き方を認めてあげようという考え方である。しかし、〈在日外国人〉だからと言って、実際そんなに差別されているものでしょうか。当然〈本当の日本人〉とは違う扱うを受けるかもしれませんが、それは違う民族なのだから、当然のことでしょう。そうではない、と主張する根拠が、一体どこにあるというのか? 日本の社会は寛容な社会です。外国人だからと言って虐殺したり追放したりしたという歴史はなく、むしろ、寛容なほうだったことがうかがえるはずだ。それでも、どうしても日本のマスメディアは、欧米がこうしているから日本も見習うべきだ、という論調が目立つ。(中略)日本でも、ヨーロッパやアメリカなどのリベラルな場所と同じように、相手のルールがどうあっても同じように接せよ、という雰囲気がはびこっているのですが、そもそも欧米と日本とでは、根本的な社会構造が違う。だからわたしはこう思う。欧米が欧米の道を行くように、日本は日本の道を行くべきなのだ」

 この論考は、論旨は通らず主張は雑で、文章としてはかなり終わっているものであるものの、その一方で迸る感情がそのまま叩きつけられたような力強い文体を持つ、愛国ポルノの名文であると知られている。たとえばかの有名なスギタミオ議員の「LGBT論文」はこれを参考に――というかほとんど引き写すことで――書かれたものであり、ほぼ全文が引用に近い文章であるもかかわらず参考文献表をつけ忘れたことで問題となった。この、スギタミオによる論文盗用問題では、「法的な問題ではなく、文学への態度の問題だ」との批判が多く見られたが、スギタミオ氏自身は記者会見において、「インターネット上でわたしに対して批判的なコメントをしている人々がいますが、彼ら彼女らのほとんどは、自動投稿するように設定されたbotであり人ではありません。これはわたしを貶めようとする少数の批判者による陰謀であり、わたしはこうした悪と、徹底的に戦い続けます!」と言って何かに向かって強く反論し、その後三時間にわたり大粒の涙を流し続けた。


 そんな木牟田くん――否、以降は正しく「キムくん」としよう――だが、その名が木牟田ではなくキムであることが判明した経緯は次のようなものだった。

「別に経緯ってほどのことでもないんだが、モロゾフ。少し長くなるが聞いてほしい。唐突だけど去年、彼女ができた。彼女は付き合うなら結婚を前提にしてほしいと言ってきた。俺はぶっちゃけダルいと思った。けど、なあモロゾフ、俺たちももうアラフォーだ。人生の半分くらいがもう過ぎた(俺はスギタミオに文章をパクられたことがあるけど、これは別に「過ぎた」と「スギタ」でかけたわけじゃないよ。俺はラッパーだけど、いつもラップしてるわけじゃない。わかるよな?)。そろそろ潮時なんだ。だからモロゾフ、俺は結婚を覚悟した。互いの親に挨拶をして、親も含めて飯を食って酒を飲んだよ。幸いなことに彼女の両親は二人とも愛国者だった。俺たちは気が合ったよ。「コリアン・ファッカー」のことは知らなかったけど、「良いグループ名だね」って言ってくれた。「itunesにもあるのかい? すぐにダウンロードして聴いてみるよ」とも言ってくれた。俺は舞い上がった。彼女も嬉しそうだった。俺たちは幸せだった。翌日になって、俺達は豊島区役所まで歩いていって、そこで婚姻届を出そうとしたんだよ。そして、そこで窓口のバイトみたいなカス野郎に言われたんだ。「あれ、木牟田さん、木牟田って本当にご本名でしょうか?」ってね。「は?」って俺は答えたよ。本当に何を言ってるかわからなかったからね。そいつはキチガイかモノホンのアホか、どっちかだって思った。「何言ってんだオメー、ちゃんと調べてんのか?」と俺は言った。カスはしょぼい顔をうかべながらパソコンをカチカチさわるばかりで何も答えなかったよ。「おいおいオメーら税金で飯食ってる寄生虫だろーが、こっちは毎日必死にラップ・バトルでしのぎを削ってるっていうのに、お前らはそれに寄生してるってわけだよナァ? こういうときくらいちゃんと仕事してくれヨォ、頼むぜぇ、せっかくの幸せな門出なんだからヨォ……、なあ? 水差さないでさっさとやってくれやボケナスくんがヨォ……」みたいなことを俺は言ってたと思うんだけど――まあ俺はそのとき片耳にイヤホンをして「コリアン・ファッカー」の新譜デモのでき具合をチェックしてたからぶっちゃけあんまり覚えてないんだけど――まあとにかくけっこうな時間が経ってたってわけ。そのあいだずっと、そのボケナスくんは「おかしいな……おかしいな……」なんて言いながら首をかしげてカチカチやってるわけ。「オメーさっきからカチカチやってっけどヨォー、ちゃんと進んでんのかよ? オメー今何調べてるわけ?」って俺は訊いたよ。もう待ちきれなくてね。それで、ボケナスくんはこう言ったってわけ。「木牟田さん。現在の木牟田さんの国籍ですが、韓国にありますね。韓国籍の名前は、金さんとなっています。婚姻届はこちらの表記での受理となりますが、そちらで問題ありませんか?」」


「ウケるじゃん」と、そこまで読んだわたくしエメーリャエンコ・モロゾフは、〈LINE〉と呼ばれるコミュニケーション・サービスを用いてメッセージを返信した。「それ、めちゃくちゃおもろいからみんなに言ったほうがいいよ」

「は? マジで言ってんの?」とキム。「そんなことになったら俺もうマジで生きていけねえよ……。新聞にも書かれるし、ツイッターで炎上しちゃうよ……」

「それでいいんじゃないの」とモロゾフ。「炎上マーケティングってやつだよ。愛国者はみんなやってる。ほら、ちょろっと公文書改ざんしてみたりとか。まああれはなぜかあんま炎上しなかったけど。公文書改ざんとか、近代国家の成立基盤を根本的に否定してるのにね。あれ、炎上っていうかふつうに法令違反なんじゃないの?」

「あれは改ざんじゃないよ。改訂だよ。改ざんっていうのは朝日の陰謀だよ」とキム。

「なるほど」とモロゾフ。「まあいいや。とにかくさ、愛国ヒップホップ・グループ、「コリアン・ファッカー」の木牟田が実はキムだった、なんてすげえ盛り上がるって。わかりやすいしさー、めっちゃおもろいやん。すげえいけると思うよ。炎上っていうか、バズだよね。バズいけるよバズ。10万RTくらい狙っていこう。音源も売れるよ。前炎上してたRADWIMPSのHINOMARUとか、あれめちゃ売れたらしいよ? itunesの週間ランキングでずっと1位だったって。炎上すると有名になるし売れるんだよ。今までは国民的愛国キャラでやってたけど、これからは非国民的愛国キャラでやってけばいいじゃん。新しいし、ブルーオーシャンって感じじゃない? 非国民的愛国キャラって、俺もよくわかんねえけど、ハハハ」

「そういう問題じゃねえよ!」とキム。「俺は心の底から、頭の先から指の先まで全部日本人だと思ってた。でもそうじゃなかった。それにさ、俺、今まで言ってなかったけど、童貞なんだよ……」

「そうなの?」

「うん」

「それはマズイんじゃないの? ラッパーが童貞って……」

「本物の保守は、妻としか交わらないんだよ。北一輝がそう言ってるって中学のときに2ちゃんで見てから、俺、童貞は結婚するまでとっておくって決めてたんだよ」

「かっこいいじゃん」

「だろ? でもさ、自分が本物の日本人じゃないって思ったら、彼女に申し訳なくなっちゃってさ。ほら、彼女も保守だろ? 俺が彼女だったら、自分が韓国人に抱かれるなんて思ったら発狂しちゃうよ。だからさ、モロゾフ。俺、どうしたらいいか……」

「なるほどね」とモロゾフ。「わかったよ。じゃあこうしよう、キム。今は12月、もうすぐ天皇誕生日だ。きみは韓国人で、そしてきみは童貞だ。だからきみは、天皇誕生日に日本人の女を抱いて、韓国人としての童貞を捨てて、日本人に生まれ変わるんだ。女は誰だっていい。きみが抱くのは女そのものじゃない。きみは女をとおして天皇を抱き、日本という概念を抱くんだよ。それできみは日本人になれる。良い考えだろ?」

「モロゾフ」とキム。「さてはきみ、天才だな?」


 そうして木牟田くんことキムは、2018年12月23日の日曜日――〈天皇誕生日〉の夜に池袋のソープランド〈働き方改革〉へと向かった。

 キムは受付カウンターで代金の45000円を払い、爪のチェックや店のルールなどの説明を受けた。初めてのことで説明のほとんどが頭の中に入ってこなかった。受付の男が話し終わると、キムは廊下を抜けて部屋の中へと通された。ドアを開け、いよいよお待ちかねのユートピアへと足を踏み入れると、中で待っていたのはすべすべの肌を黒く光り輝かせた黒ギャル。童貞のキムは非日常的な空間に身を置いた緊張もあり、その時点でぎんぎんだった。「はじめましてー!」と黒ギャルは言った。「わあ! 若い人だあ☆ 今日はおじさんばっかりで嫌になってたんだよね。よろしくね!」。そうしてキムは最初の射精をした。


 キムは、発射したての賢者タイムに入ったことに加え、自分の前の客――そしておそらくはその前の客も、さらにその前の客もおじさんだっただろうことを思い、性欲は消え失せ、果たして〈本当の保守〉とはどのようなものだろうか? というようなことを考え始めた。しかし黒ギャルは、おっぱいの先、つまり乳頭が彼の胸に少し触れるか触れないかぐらいの距離でペニスを洗ったので、彼はすぐに勃起してしまい、〈本当の保守〉に関する考察は、その瞬間から彼の頭から消え失せた。キムのポケット・モンスター〈棒〉は、再び二段階飛ばし級の進化を遂げたのだった。

 プレイが始まり、黒ギャルはキムの全身をぬるぬると舐め始めた。柔らかな愛のこもった仕方で、手の指から腕へ、胸へ腹へと舌がなぞっていき、ペニスを飛ばして今度はふともも、膝の裏、足の指と、くまなく舐めつくしてくれた。

「ねえ、お尻の穴も舐めていい?」

 とろんとした目で黒ギャルが言ってきたので、彼は膝を折ってお尻の穴を差し出した。じゅばじゅばといやらしい音を立てながら、黒ギャルは尻の穴に舌を思い切り突っ込んだ。キムは、あまりの気持ちよさに再び射精してしまいそうだったが、天皇の顔を思い出して我慢した。そのとき黒ギャルの舌はするりと前方に移動し、ついにペニスをくわえ出した。黒ギャルは、舌の先でペニスの細部まで丁寧に掃除し、彼のポケットモンスター〈棒〉は、もう本当にバッキバキの爆発寸前という感じだった。

「待って、ちょっと待って」とキムは言った。

「なあに?」と黒ギャルは言った。

「これは一つの提案なのだが、し、シックス・ナインというのは、どうだろうか?」とキムは言った。

 黒ギャルは綺麗でかわいい尻を、キムの顔の前に差し出した。キムは夢中で初めてのおまんこにむしゃぶりついた。柔らかな愛を唾液にたっぷり含ませて、優しく舌を動かした。黒ギャルは「う、うんうぅ!」とかわいらしい声を上げながら、一生懸命にポケットモンスターをしゃぶっている。舌先で、おまんこを強めに刺激するとその動きが少し鈍くなったりするあたりが、またなんとも言えず良い、と彼は思った。

 キムが、たっぷりとその中にたくわえていた精液を、黒ギャルの口内に発射したところで、ピピピピピ、と時間切れを示すベルが鳴った。俺は天皇を抱いた、俺は日本を抱いた! とキムは思った。俺は今、〈日本人〉になったんだ! キムは涙を流した。


 黒ギャルが精液を拭き終わると、キムは帰る準備をした。服を着ながら、キムと黒ギャルは雑談を交わした。

「お客さん、出身は東京?」と黒ギャルは言った。

「いや、自分は山形っすね」とキムは言った。

「へえー、そうなんだ。東北のほうなんだねぇ」

「おねえさんは? 西?」

「そうだね、西と言えば西だね」

「へー」とキムは言った。「どのへん? 大阪とか?」

「ううん」と黒ギャルは言った。「実はね、日本じゃないんだ。近いけどね。お隣の国、台湾よ。あたし、日本には留学で来てるの。お客さん、台湾は好き?」

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