第2話
東京には『異能によって秘匿された異能者たちの大都市』が五つ存在する。
冬鷹たちは暮しているのはその一つ、東京北部に位置する『
異能界は独立自治が基本とされている。故に各街が治安組織を有している。
重陽町の治安組織の名は『帝都北方自警軍』――通称『軍』。
重陽町中央区に構える帝都北方自警軍本部。
建物内には防衛、隔離、避難、訓練などのための各種施設を備えている。
その中の一つ、第一闘技訓練室。
平地戦闘を想定した、約五十メートル四方の闘技区画が中心にあるだけのシンプルな作りだ。有事の際には避難所としても活用される。
そんな場所が今は物々しい数の隊員で埋め尽くされている。
ざっと見た限りで五十は超える。その全員が装備を整えていた。
――が、その半数近くが今は床に倒れている。
一人、また一人、と。戦場ならば屍が増えてゆくだろう光景だ。
その仮想死体の山を作っているのは、中央でたった一人、他を圧倒する女性。
猛禽類を思わせる鋭い眼光。猛々しさを感じさせる外にはねたセミディヘア。そして出会った頃より、美しく、大人らしく成長した背格好――
『一人』対『その他大勢』の形式で開始された特別訓練だが、形勢は予想通り『その他大勢が劣勢』と言わざるを得ない。
――と、冬鷹が状況を整理している間にもベテラン隊員たちが一瞬で四人倒された。
「冬鷹君、一斉にしかけよぅ」
隣から眠たげな声をかけられる。冬鷹のバディで先輩隊員である根本だ。こんな状況にも関わらず、平時通り
と、その時、〈
弾道を追うと、喉を抑え今まさに倒れ込もうとする隊員の姿があった。
彼の頭上には、〈火球〉がバランスボール大に膨れ上がっている――が、瞬く間に乾いた泥団子のようにボロボロと崩れ去った。
詠唱中に撃たれた。つまり、恐らく〈魔術〉で形成されたのだろう。術者を失い散ったのだ。
――そう気付く頃には、佐也加は別の誰かを戦闘不能にしていた。
数名の隊員が取り囲むように一斉に攻め込んだ。
佐也加は床に落ちる倒れた隊員の武器の
佐也加は手薄になったエリアに踏み込む。
一人の隊員を一刀の峰打ちで素早く沈めると、返す刀で自らの刀を背面の頭上に向け放った。
――と同時に、今しがた沈めた隊員から銃と剣を素早く奪い、後方から攻める三人の中央にいる隊員に斬りかかる。
隊員は佐也加の一刀を受け止めた。そして逆に一刀を返す。
佐也加は意外にもあっさりと引き下がる
――が、突然飛び上がった。
――かと思えば、先程宙に放った自らの刀を足の指で掴み、踵落としの要領で振り下ろす。
――と同時に右手の剣で男の首に強烈な一撃を入れた。
隊員は軍用配備品である防壁生成
倒れる仲間に目もくれず、左右にいる隊員が空中にいる佐也加へ攻撃を放とうとしていた。
右にいる巨漢の隊員は巨大なパイルバンカーを向ける。だが佐也加は〈パラーレ〉を、空中にある自身の足元に発生させた。
逃げるのか――と頭で言葉にする間も無く、佐也加は冬鷹の予想を裏切る。
彼女は『壁』を足場とし、逆足でパイルバンカーに蹴りを放った。
パイルバンカーは軌道が逸れた形で発射される。その先にはもう一人の隊員が。
身体をくの字に曲げる隊員からヌンチャク状の双剣を奪うと、鎖部分を素早くパイルバンカーの主の首に巻き付け意識を飛ばした。
「あの、根本先輩。今の御三方ってみんな戦闘ランク[B+]以上の上級隊員ですよね?」
「そうだねぇ。うーん……早めに行かないと、郡司佐也加副本部長の武器が増えるだけだねぇ」
戦場に持ち主の不在の武器が増えれば、それだけ佐也加の選択肢が増えてしまう。
冬鷹は意を決した。簡単に打ち合わせると数十秒後、根本と戦地へと飛び込んだ。
さらに数秒後、冬鷹は意識を失った。特に何も出来ずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます