ポトショップで現実加工したいもの!

ちびまるフォイ

大事なものは目に見えるもの

「ついに! ついに、現実加工アプリを手に入れたーー!!」


バイト三昧の日々から解放されてついに、

現実加工アプリ『ポトショップ』を手に入れた。

友達にも連絡すると、さっそくコメントが返ってきた。


>今日出かけるから、晴れにしてくれる?


「お安い御用よ」


スマホのカメラに向けながらアプリを起動する。

曇り空の上に指を動かして青空に塗り替えれば、晴れ間の完成。


「はい、完了。これさえあればいつも好きな時に天候を変えられるわ」


「あれ、明美。なにやってるの?」


「ポトショップを試してるところ。何かやってほしいことある?」


「あーー、じゃあ寝癖直してくれる?

 朝時間なくてそのまま来ちゃったんだよね」


「オッケー」


カメラで友達を映して、飛び跳ねている髪の毛を加工してなだらかにする。


「すごい。本当にあっという間に直せるんだね」


「いいでしょ。結構高かったけど、買ってよかった」


それからもアプリの使い方を覚えつつ、友達の頼みを解消してあげた。

しだいに加工技術もどんどん上昇していくにつれ、ふと試したいことができた。


「そういえば、自分自身の加工ってできるのかな」


鏡の前に立って、鏡に向かってスマホを構える。

反射して映っている自分の顔を美人に加工した。


「姉ちゃん、鏡の前に立ってなにしてるの?」


「ねぇ、私の顔で変わったところない?」


「別に。いつもと同じだよ」


「ホントに? 加工したんだけどなぁ」


弟の瞳に映る自分は鏡の自分とは別の顔になっていた。

別の鏡に移動すると、やっぱり元の顔のままになっていた。


「あーー、やっぱり自分自身の加工はできないのかぁ」


鏡を加工することはできても、加工するにはちゃんと直でカメラに映す必要がある。


誰かに自分のスマホを渡して加工してもらうことも考えたが、

アプリを使い込んでいる自分と、ド素人の人の加工では技術の差が大きすぎる。


出来上がった自分の顔が、へんてこりんになることはわかっていた。


「ねぇ、ポトショップ持ってる?」

「あんな高いの買わないよ」


誰に聞いても持っていない。

持っていないからアプリの使い方を知らない人ばかり。


これでは自分の美形加工計画はちっとも進まなかった。


「こうなったら、いっそ自撮りで無理やりにでも……」


カメラを自撮りモードにして、無理な態勢で加工しようとアプリを起動した。


「君、なにしてるの?」


それを見ていた人が声をかけた。


「ポトショップで自分を加工しようかと……。目を大きくしたいんです」


「自撮りでやるなんて無茶だ。手が震えておかしな加工になる可能性がある。

 私にまかせてくれないか?」


「あなたは?」


「ポトショップ専用の加工職人だよ。

 ポトショップを買うことはできなくても加工依頼を受けている」


「ホントですか!?」


ついにアプリに精通している人を見つけることができた。

スマホを渡してどこをどう加工したいかを細かく伝えた。


「それで、こんな風になりたいんです」


最後に、鏡で加工した自分の写真を見せた。

まるで美容室で雑誌を見せるように。


「これでもプロだからね。必ず依頼通りに加工してみせるよ」


加工師は慣れた手つきでスマホをすらすらと操作していく。

出来上がって鏡に映った自分は、自分が下降するよりもずっと理想に近かった。


「ありがとうございます! 料金はいくらですか!?」


「今回は君のポトショップを使ったから、料金なんていらないよ。

 あとはもう大丈夫かい?」


「そういわれると……」


最初は特に気にならなかったが、自分加工後に他の部分が気になってくる。

頭のてっぺんからつま先まで、加工後の顔に合うような理想の自分へと加工したくなる。


「全身加工お願いできますか?」


「そうなるお客さんって結構多いからね。まかせてよ」


加工師の仕事が終わるころには、体型はモデルのようにスリムに加工された。

もう何も変える部分がないほどに完璧。


「全身87か所を加工したよ。気に入ってもらえたかな?」


「はい! 今の自分が大好きになりました! ありがとうございます!」


多少使い慣れてるとはいえプロの仕事はさすがだった。

加工後の自分で街に出ると、信号待ちのたびに声をかけられる。


モテるようになって、自分に自信がつくとますますアクティブになっていった。


「それで、明美は彼氏とは最近どうなの?」


「もう私にぞっこんって感じ。

 私が食べたいものはすぐに買ってきてくれるし、

 私が欲しいものはいつも準備してくれるの」


「だいぶ女王様な感じなんだね」


「ま、美人を連れまわせるステータスを手に入れるのなら

 男にとってもメリットがあるんじゃないの?」


友達と話して別れた後、メールが1通届いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ポトショップ株式会社からのお知らせ】


アプリライセンス期限が迫っています。

今後の使用をするためには規定額の振り込みをお願いします。

納付されない場合はライセンス終了後に、加工は失われます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ライセンス料!? アプリ代金とは別なの!?」


アプリを買ったときにはライセンスも付属していたので気づかなかった。

加工後のキレイな自分を維持するためには、ライセンスを払い続けなければならない。

払わなければ加工のメッキがはがれて元に戻る。


「そんなの絶対イヤ! 今さら戻れるわけない!

 でも、こんな金額急に払うなんて……」


高額なライセンス料を準備するにはまたバイトをたくさん入れる必要がある。

それでも期限には間に合わない。


バイト中にメッキが剥がれるイメージを考えただけで背筋が凍る。

どうすればいいのか。悩んだ挙句に頼ったのは、加工師のところだった。


「お願いします! ライセンスが切れる前に、加工してください!」


「それはいいけど、今度はお金をもらうよ?

 あなたのポトショップじゃないから、今度は商売になるし」


「うっ……や、やっぱり……」


これではライセンス料を払うのとほぼ同じ。


「お願いです。ライセンス料を払わずに美人でいられる方法はないですか?」


「そんな無茶な……」


「彼氏に嫌われたくないんです!!」


加工師は少し悩んでから答えた。


「方法がないこともないけど、自分の希望通りじゃないかもよ?」


「どういうことですか?」


「加工アプリを起動して、ファイルを開くって、選択してみて」


指示通りにアプリを操作すると、画面にはいくつかの美人パターンが登録されていた。


「ここのプリセット加工から選べば、ライセンスが切れてもキープできるよ。

 とはいえ、プリセットだから100%自分の思い通りには――」


「全然かまいません!! ありがとうございます!!」


プリセットはどれも美人ばかり。

ここから選べば、本来の顔がバレて捨てられることもない。


ライセンス期限の日、プリセットの中で一番自分の系統に合ったのを選択した。


鏡の前でチェックすると、ライセンスが切れても加工後の状態がキープされていた。


「ああ、よかった。本来の自分に戻っていない」


安心して、彼氏とのデートに行くことができる。

けれど、彼氏は私の顔を見て、すぐに答えを出した。


「……別れよう」


「えっ?! どうして!? なんで急に!?

 前の顔のほうが良かったの!? でも今だって美人でしょ!?」


「そういうことじゃない」


「だったら、お金をためてライセンス料を再度買ってくるから!

 それでまた、前の顔に戻せばそれでいいでしょ!? ね!?」


「実は、君より好きな人ができたんだ」


「……はぁ!?」


あれだけ面食いだった彼氏に別の人が出てくるなんて。


「そんな! それじゃ私より美人の人を見つけたっていうの?!

 そんなの女優でもなくちゃあり得ない! 私と別れるための口実でしょ!?」


「連れてきているんだ。紹介するよ」


彼氏が手招きをすると、奥から女がやってきた。

その顔は、私が選んだプリセットと同じ顔をしていた。


美人に分類される、整った同じ顔だった。



「同じ顔と体なら……、やっぱり性格がいいほうが良いだろ?」

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