インチキ教師と少女の懺悔
8
涼風恭介は自分と自分の家族が世界一幸せだと信じていた。
仲の良い父と母、そして可愛い妹の凛音とともに何ひとつ不自由なく暮らしていた。
だが彼が十歳の時、悲劇は突然訪れた。
ある日を境に母は人が変わってしまった。まるで何かに取り憑かれたように。
凛音と一緒に隠れていろと言った父の切羽詰まった顔を今でも覚えている。
それが父の最期の言葉となったのだから。
父は母に刺され、命を落とした。
逃亡と言っても所詮個人所有のボートで移動できる距離には限界がある。
俺はガーディアン・スクールのあった島から離れ、隣の島で宿をとっていた。
勿論、ここに用があるというのもあるが。
それにしてもこれからどうするかね。
昨夜のことが脳裏をよぎる。あの時の静佳の泣き顔は未だ脳裏に焼き付いて離れない。
女の子の涙は苦手だ。遠い昔、凛音が家族を失ってウチに引き取られたばかりの頃、ずっと泣いていたのを思い出す。
泣いてる女の子を置き去りにする罪悪感には一生慣れることはないだろう。
そしてもう一つ、あの後俺の船に乗り込んできた紗雪のことも考えないといけない。
昨夜の彼女との会話を思い出す。
「お前、俺が何をしたか知ってるのか?」
彼女は何のつもりで俺の前に現れたのか、ひょっとしたら俺のことを捕まえに来たのかもしれないと警戒しながら真意を問う。
それに対して、紗雪は曇りのない笑顔で言葉を返す。
「はい、静佳さんを騙して夢幻の鍵を奪ってきたんですよね。悪い盗賊さんですね」
そこまで知っていたか。
「そうだ。盗賊ってのはガーディアンの敵だ。勿論ガーディアンの卵であるお前にとってもな」
俺達は相入れない存在だとはっきりと告げる。
だが彼女はあっけらかんととんでもない宣言をしてきた。
「じゃ、私学校を辞めます。せんせーに弟子入りして盗賊になります!」
「はあっ?」
いつもの調子で元気一杯にそう吐き出す紗雪を見て、俺は言葉を失った。
結局、夜の海に放り出すなんてこともできる筈なくここまで連れてきてしまった。
彼女はどこまで本気なのだろう?
紗雪はガーディアンになんてなりたくないと言っていたし、静佳との関係も最悪の状態だったから学校から逃げてきたとしても不思議じゃない。
つまり俺は、居場所を失った紗雪が唯一縋れる相手ってことなのかもな。
紗雪が静佳達と繋がっていて、俺を捕らえる為に監視しているという説も否定はできないが、正直その可能性は低いと思ってる。
「おーい、紗雪」
民宿の紗雪の部屋に向けて声をかける。
すぐに返事と共に解錠の音が響き、扉が開いた。
「はいはい、なんでしょうせんせー」
フリフリの白いキャミソールに青のホットパンツ姿の紗雪が姿を見せる。
こいつ、ちゃっかりと着替えや諸々の荷物を用意してたんだよな。
俺が逃亡することを見越して事前に荷造りしていたみたいな。
流石に俺が夢幻の鍵を奪って逃げることを予測されてたとは考え難い。予知能力でもない限りはね。
ひとまず俺は俺の目的を果たそう。
「俺、ちょっと用事あるから一時間ほど外に出てくる」
「わかりました。お留守番してますね」
ニコニコと楽しそうに彼女はそう答える。妙に聞き分けがいいな。ついてくると言われた日にはなんて言って断ろうか考えてたのに。
俺はニヤリと意地悪く笑って彼女に問いかける。
「いいのか? 俺を一人にして。お前を置いて逃げるかもしれないぜ?」
こいつは俺の弟子になりたいなんて言ったが、逃亡中の俺が押し掛け弟子を受け入れるメリットなんて皆無に等しい。こいつを引き離して姿を眩ましたいと思うのが普通の心理だし、こいつの立場なら俺を捕まえておくべきだろう。
そう思っていたが、紗雪は微笑みを崩さず自信に満ちた答えを吐き出す。
「そんなこと思ってませんよ。せんせーは私を裏切らないですから。絶対に」
いってらっしゃい、と言われ彼女に見送られた。
俺ってそんなにいい先生やってたかね? どうしてあの子にこんなに慕われてるんだろう。ラブコメの鈍感主人公じゃないけど、こんなに好かれる心当たりがなかった。
一応未成年の俺がバーに入るのは些か緊張する。
静かなバーのカウンター席に座ると、眼鏡をかけた白髪のマスターはサービスだと言って、グラスを俺の前に置いた。グラスに注がれた白い液体は一見ただのミルクに見える。
「これ酒?」と俺は訊く。
「飲めば判るよ」と老紳士は優しく笑った。
ははっ、相変わらずユニークな爺さんだぜ。
今は真っ昼間であり、この酒場も営業時間外だ。
他の客の姿がないのは、これから密談をするのに都合がいい。
「調べて欲しいものがある」
言って俺は蝶の装飾が施された鍵を取り出す。
それを見てマスターは軽く驚いたように目を丸くした。
「夢幻の鍵か、まさか本当に盗んでくるとは。これでお前さんも立派な盗賊だね」
「まあ、俺ってイケメンだし? 潜入ミッションはお手の物って言うか」
「確かに、女の子を騙すことのは得意そうだし納得ではあるね」
やめてよ人聞きが悪い。でも事実だから反論できない。
「とにかく、こいつを調べてくれ」
「ああ、ポセードくんからも頼まれてるしね」
言ってマスターは鍵を受け取り、カウンターの下から銀色の皿を取り出してそこに置く。
そして少し離れた場所でノートPCを開き、何やら操作を始めた。
夢幻の鍵は高度な技術で作られた情報記録媒体でもある。
あの迷宮への入退場した者の情報や、迷宮内の警備ゴーレムの管理など色々なデータが詰まっている。ただしそれを解析できる技術を持っているような人間は限られている。
夢幻の鍵のようなアーティファクトは一般人にはまずお目にかかれないし、そんなものを解析する技術などあっても役立つ機会がほぼないからだ。
ただこの爺さんは情報屋としての顔を持っているので、この手のことは得意らしい。
ふむ、とマスターは頷く。
「キミの妹さんが行方不明になったのはいつだったかな?」
「去年の十月だ」
それを聞くと爺さんは、なるほどと呟いた。
「十月の二十日に迷宮への入場記録があるね。スクールの生徒みたいだ。生徒番号は――」
その数字を聞いて俺は息を呑んだ。
「それ、凛音の番号だ」
しかも凛音が行方不明になった時期に近い。彼女の失踪と地下迷宮に何らかの関係があるという兄貴の推測は正しかったのか。
やはり凛音の行方を追うには、地下迷宮を調べる必要があるようだ。
そこで爺さんは、首を傾げながら吐き出す。
「しかし不思議だねえ。キミの妹さんは生徒会役員だったのかい?」
「いや、そんな話は聞いてないけど」
そうか、とマスターは首を振ってパソコンの画面を眺める。
「どうも彼女は夢幻の鍵を使って迷宮に入ってるらしいんだ。生徒会役員じゃないなら普通、この鍵を使わせてもらえないだろう?」
確かに。去年の十月頃なら星観を会長とした前生徒会が活動していた時期だ。
凛音が夢幻の鍵を使って迷宮に入ったというのはおかしな話だ。星観と一緒に入ったならまだわかるが。
そう考えて、俺は疑問をぶつけてみる。
「凛音と一緒に迷宮に入った人間はいるか?」
「一緒には入ってないね。ただ後から三人の生徒が入ってきてる」
後からか、凛音が鍵を開けた後なら誰でも入ってこれるし、そこまで変な話じゃないが。
「その三人の生徒番号を教えてくれ」
学校に潜入したとき、学生のデータも俺は手に入れている。自分のデータベースから生徒番号を照合することも可能だ。そうして爺さんは三人の生徒番号を読み上げる。
俺は手元のスマホを操作しながら、その生徒番号に該当する人物を調べた。
結果わかったのは、深山静佳、冬野紗雪、姫宮星観。この三人が凛音の後に迷宮に入ったという事実だった。
あの三人が、凛音の失踪に関わっていると?
そして衝撃はそれだけでは終わらなかった。
「四人は全員地下二階に下りてるね。その後、迷宮から出ているようだ」
迷宮から出た。ということは凛音は迷宮内で姿を消したわけではないのか。だが地下二階と言えば。
――魔神はもう地下二階まで来てます
静佳の言葉を思い出す。もし半年前の時点で魔神が地下二階まで上がってきていたとしたら、凛音達四人は魔神と関わっていた可能性が高い。
いや、関わっていたのだろう。だから静佳は魔神の居場所を知っていたのだ。
静佳は何かの目的の為にあの魔神を倒すという使命感を抱いていた。ひょっとしたら彼女は半年前に魔神と戦っていたのかもしれない。
人類では決して勝てないと言われた化け物に。
もしそうなら生きて帰れただけでも奇跡に近い。
そして迷宮から出た凛音はその数日後に姿を消した。
静佳、紗雪、星観。まさか凛音の事件に関わる重要人物が全員俺のクラスにいたとは。こんなことならもっと彼女達から情報を引き出しておくんだった。
いや、静佳と星観にはもう会えないが、紗雪になら今からでも話を聞くことができるか。
そう考えると、俺はいてもたってもいられなくなった。
「サンキュー爺さん、夢幻の鍵を返してくれ」
「おや、もういいのかい? もうちょっと調べることもできるけど」
それはまたの機会にしておこう。今は紗雪に直接話を聞きたい。
その時、店の入り口が開き見知った顔が姿を現す。
「幸平が帰ってきたらしいな。マスター」
肩にかかるまで伸ばされた紫の長髪。獲物を狙う鷹のように威圧的な眼。
歳は詳しく知らないが、二十歳そこらだろう。俺より頭一つ高い長身はいつ見ても存在感がある。耳には十字架のピアスをつけ、トレードマークの黒いマントを羽織った青年。
彼を見て俺は自然と背筋が伸び、息を呑んだ。
「兄貴」
裏の世界で名を馳せる盗賊四皇帝の一人、海賊王ポセード。ポセイドン海賊団を率いるキャプテンであり、俺をガーディアン・スクールに送り込んだ張本人でもある。
半年前、凛音が失踪して途方にくれていた俺の前にこの人はふらりと現れた。
当時、自暴自棄だった俺は彼の不思議な魅力に惹かれ自分の事情を話していた。
そして彼はスクールに潜入して凛音の行方を追うという道を示してくれた。
平凡な学生だった俺はそれから彼に盗賊になるための訓練を受けた。
誰もが恐れる海賊王が何故俺のような赤の他人に手助けしてくれるのか、俺を助ける彼のメリットはなんなのか。一度それを疑問に思って本人に聞いてみたことがある。
返ってきたのはたった一言、お前は夢幻の鍵を手に入れてくればいい、そう言われた。
彼は俺の姿を認めるとこちらに近づき言葉を吐き出す。
「夢幻の鍵は無事手に入ったようだな」
喜びも驚きもなく、淡々とそう告げる。
「ああ、楽勝だったよ」
俺は笑ってそう返す。逃亡しようとしたところでオマケがついてきたことは黙ってよう。
そこで兄貴の後に続いて入口から団体さんが入ってくる。
兄貴の海賊団の部下かと思ったがすぐに違うと悟る。
彼らは海賊と呼ぶにはあまりに異色な顔ぶれだった。
「彼がポセードくん自慢の愛弟子ですか。お噂はかねがね」
モノクルをかけシルクハットを被ったタキシード姿の青年が俺に笑いかける。
「貴方は」
「おや、自己紹介が遅れましたね」
彼はシルクハットをとると慇懃に頭を下げる。
だが自己紹介など待たずとも俺はその正体を知っていた。
「怪盗、アラネア」
「おや、ご存知でしたか。ワタクシの名も少しは広まってるようで幸いです」
控えめに言ってはいるが彼は世界的に有名な怪盗だ。
高価な美術品などを狙って、厳重な警備を掻い潜り芸術的なトリックを用いてお宝を盗み去る。一説には彼は自分のトリックを披露する為に盗みを行っている犯罪芸術家なのではとも噂されている。狙ったお宝は必ず盗む。絶対に逃れられない蜘蛛の糸の使い手、それが怪盗アラネアである。
さらにその後ろから小柄な影が駆け込んでくる。
狭い店内で走ったら危ないぞ、と言う暇もなく影は俺の胸にぶつかって来た。
衝撃でその子が手に持っていたライオンのパペットが床に転がる。
やべえ! すぐに俺はパペットを拾い上げると軽く埃を払って、目の前の彼女へ差し出した。
「お嬢ちゃん、お店の中ではもうちょっと静かに歩こうな。ほら、友達落ちちゃったぞ」
紺のパーカーワンピースに身を包んだ細身の少女だ。
フードを目深に被って顔はよく見えないが、そこから伸びる銀髪が彼女が何者なのか教えてくれる。
俺は別にフェミニスト精神を発揮してパペットを拾ってあげたわけじゃない。
彼女を怒らせれば大変な目に遭うと思って、咄嗟にご機嫌を窺ったのだ
少女はパペットを受け取って右手に装着するとその口を動かした。
「あー痛い痛い! お兄さん気をつけてよ。カストルが怪我でもしたらその舌と歯を全部引っこ抜くよ」
やたら低い声で腹話術を披露するこの少女も裏の世界では有名な盗賊である。
無慈悲で残酷な竜使いの少女、カストル。
噂では竜の大群を操り、某国の軍隊を一人で壊滅させたとか。
彼女を敵に回せば命がいくらあっても足りない。
明らかにぶつかってきたのは相手の方なのだが、それは飲み込んで俺は低姿勢に謝る。
「いやー、ゴメンゴメン! お詫びに何か奢るから」
とは言え相手は、見た感じ俺より年下の少女だ。酒を振舞うわけにもいかんし、ジュース辺りが妥当かな。
そう思ってると今度は腹話術でなく、彼女の口から言葉が吐き出される。
「らないで」
ん? よく聞こえなかったなと思ったら、彼女は俺をジロリと睨み言葉をぶつけてきた。
「汚い手でポルクスに触らないで」
とんでもなく不機嫌そうな声が返ってきた。
ちなみにポルクスというのはこの不思議ちゃんの持つライオンのパペットの名らしい。
彼女がカウンター席に腰かけると、マスターはニコリと営業スマイルを向ける。
「ご注文は?」
その質問に間髪入れず少女は答えた。
「キッズハンバーグプレート」
いや、ないだろ。ここ普通のバーなんだから。
そう思っていたのだが、マスターは迷いなく言葉を返す。
「はい、畏まりました」
言ってカウンター奥へ姿を消す。えっ、作れるの?
暫くしてマスターがアニメキャラのプリントされた食器にハンバーグやポテトサラダ、ライスにスープの乗ったプレートを持ってきて彼女の前に置く。
めっちゃ準備いいな。この早さからして作り置きしてただろ。
とりあえず奢ると言った手前、爺さんに値段を聞いて財布から紙幣を出す。
その間、カストルちゃんはノンビリとお子様ランチを食していた。
まあ食べてる間は大人しくしてくれるか。この子、マジで何歳なんだろ?
そう思っていると食事に夢中のカストルの背中に野太い声が降ってくる。
「相変わらずお嬢は小食じゃな。そんなんじゃでかくなれんぞ」
それを聞いて、カストルの顔に不機嫌そうな色が浮かぶ。
彼女は右手のパペットを動かし、腹話術で言葉を返した。
「煩いなー。キミみたいな筋肉ダルマと一緒にしないでよ。その口縫い付けられたい?」
カストルの毒舌を返されても、男はガッハッハと笑って見せる。
筋肉ダルマという表現は的確で、なんと言ってもその男は逞しい体つきをしていた。
筋骨隆々という言葉がふさわしい、太くがっしりとした手足。黒帯を締めた空手道着姿がよく似合っていた。
その身長は二メートルに届くんじゃないかという大男。彼の名は豪腕の拳闘士、武蔵。
各地のガーディアンや聖霊を素手で制圧して財宝を強奪したとか、銃を持った警官百人に囲まれながらも拳一つで全員を打ち倒したとか、この男も様々な武勇伝を持つ盗賊だ。
俺は改めてこの場に揃った四人を見渡す。
海賊王ポセード、怪盗アラネア、竜使いのカストル、豪腕の拳闘士武蔵。
悪名高い盗賊四皇帝の勢揃いだ。四皇帝は各々が恐ろしい盗賊だが、今まで四皇帝同士で協力し合うなんてことはなかった筈だ。
それが何故一堂に会しているのか? 俺はそれを兄貴に訊くことにした。
「すげえ面子だな。これ、兄貴が集めたのか?」
「ああ、これから大きな祭りがあるからな」
祭り? これだけの戦力を集めて兄貴は何をするつもりなんだ? 穏やかなことでないことは確かだが。それを聞こうとしたところで、兄貴の方から言葉を挟んできた。
「幸平、夢幻の鍵を渡せ」
冷たい瞳が俺を射抜く。やっぱりそう来るか。
兄貴は夢幻の鍵を手に入れる為に今まで俺を手助けしてくれた。
全てが終わったら、恩返しの意味も込めてこの鍵は兄貴に渡すべきだろう。だがそれは今じゃない。俺は愛想笑いを彼に返す。
「わりい兄貴、まだ凛音のことを調べてる最中なんだ。それが調べ終わったら鍵を渡すからちょっと待ってくれ」
それだけ言うと俺は兄貴の返事を待たず、店の出口へ足を向ける。
逃げるように、という表現がぴったりだろう。実際逃げてるのだから。
店から出たところで俺は額の汗を拭う。
相変わらず兄貴の威圧感は凄まじかった。話してるだけでプレッシャーを感じる。
あの人の要求を突っぱねるなんて心臓が持たねえよ。
早めに宿に戻って紗雪に話を聞くことにしよう。そう思って俺は寂れた田舎町へ足を踏み出した。
幸平が出ていった後の店内で、マスターはグラス磨きながら楽しげに言葉を吐き出す。
「逃げられてしまったね。ポセードくんが怖がらせるから」
ふん、とポセードが鼻を鳴らすと、隣に立つ大男が問いかけてきた。
「どうするんじゃポセード。夢幻の鍵がなけりゃこちらの計画も進まんぞ」
ポセードは幸平の去っていった出口を睨みながら冷たく言い放つ。
「アイツは用済みだ。とっとと夢幻の鍵を奪いとるぞ」
「奪いとるとは随分強引ですね」
そこに口を挟んだのはタキシード姿の青年だ。ポセードはそちらに視線を向ける。
「何が言いたい?」
氷のように冷たい眼差しを受けてもアラネアは涼しい顔を崩すことなく告げる。
「怪盗たる者、宝を奪うにも美しくなければいけません。芸術的なトリックを披露し、華麗に宝を盗み去る。それが私の美学です」
自分に酔ったように語りながら、アラネアはニコリと微笑んで見せる。
「ここは私にお任せください」
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