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穏やかな潮騒の音が耳に心地いい。
空の色を反射した青い海はキラキラと輝き、水平線の彼方まで見渡せるいい天気だった。
「海沿いの学校ってのもいいもんだな」
アスファルトで舗装された道を踏みしめながら、隣を歩く静佳にそう話しかける。
「この島に住んでれば、海なんてすぐ見飽きますよ」
「確かに、実際そんなもんなのかもな」
彼女のクールな返答に俺は苦笑を返す。
本土から遠く離れた田舎の小さな島。ここには聖霊を操れる素質を持った生徒を集め、この国を盗賊から護る為のガーディアンを育成する教育機関がある。
ガーディアン・スクール、全寮制の女子高であり静佳の通っている学校でもある。
とは言えガーディアンの選定は狭き門。この学校に通う聖霊術師の中でも、将来ガーディアンになれるのは一握りのエリートだけと聞く。
この学校に通う生徒達は、栄えあるガーディアンの仕事に就くために日々切磋琢磨しているというわけだ。さっき静佳が森で特訓していたのもその一環だろう。
そしてこの学校こそ俺の目的地でもある。
森を出た俺は静佳の案内の元、学校を目指していた。
少し歩くと、道の先に校門が見えてくる。
金属製の門扉は解放されており、その先にはグラウンドが広がっている。
遠目にもそのグラウンドに制服姿の少女達が大勢集まっているのがわかった。
「随分賑やかだな。今日はなにかイベントでもあんの?」
隣を歩く静佳にそう訊いてみる。
「ええ、ありますよ。この学校の生徒なら無視できないビッグイベントが」
そんなやりとりをしながら俺達は校庭に足を踏み入れる。
静佳に話の続きを促そうと思ったところで、元気一杯の声が横から割り込んできた。
「静佳さーん!」
声の方を見ると制服姿の少女の一人がこちらに手を降って駆け寄ってくる。
ワイシャツの上にクリーム色のセーターを纏い、赤いチェックのスカートと同じく赤いリボンネクタイが印象的な制服。
あれだね、みんな制服だから私服姿の静佳が浮くよね。
少女の背丈は静佳と同じくらいだろうか? ゆるふわなウェーブのかかった長い髪と天真爛漫に輝く瞳、元気に満ち溢れたその姿は見ていて頬が緩む。
そんな彼女が俺達の前で足を止めると、俺の顔を見て、はっと息を呑んだ。
「し、静佳さんが眼鏡のカッコいいお兄さんをナンパしてます! ズルいです!」
「してない」
呆れた様子で静佳はそう否定する。
しかし、ゆるふわ少女のテンションはヒートアップするばかりだ。
「じゃあナンパされてます! どっちにしろうらやまけしからんです!」
両拳を握りしめ楽しそうにきゃあきゃあ騒ぐ少女を見て、静佳は溜め息をひとつ吐くと状況を説明した。
「この人は学校に用があるらしいから、ここまで案内してきただけ」
そろそろ、ぼーっと見てないで会話に加わるべきだろうと思った俺は見知らぬ少女に挨拶をする。
「どうも、超カッコいいと評判のイケメン、相馬幸平です。キミは静佳のお友達かな」
そう訊くとゆるふわ少女は、朗らかに笑って自己紹介を返した。
「はい、私は
俺達のそんなやりとりを見届けると、静佳がこちらに言葉を向ける。
「相馬さん、案内はここまでで十分ですか?」
「うーん、俺としては職員室まで教えて欲しかったんだが」
「だったらその子を好きに使ってください。私はこれから試合があるので失礼します」
言って軽く会釈すると彼女は踵を返しその場から離れる。
「ほんとクールね、あの子」
去っていく静佳の背中を見ながら、率直な感想が俺の口から漏れた。
俺への対応はまだ親切と呼べるけど、友達の紗雪ちゃんに対しては冷たいというか、素っ気ないというか。
「仕方ないですよ」
紗雪がそこに言葉を挟む。諦観の籠った寂しげな顔で続く台詞を吐き出す。
「私は静佳さんに嫌われてますから」
嫌われてる?
「それって大丈夫なのか? ルームメイトってもっと仲良しこよしで百合百合な関係だと思ってたのに」
「いえ、冷えきった熟年夫婦のような関係ですね。寮でも静佳さんからは殆ど話しかけられないですし、明日にも離婚届を突きつけられても驚かないような温度感です」
いやー、と頭をかきながら紗雪はそう吐き出す。
茶化して言ってるけど、それが本当なら結構可哀想な話だよな。
紗雪の方は静佳と仲良くなりたそうなのに。何か嫌われる原因でもあったのだろうか?
なんてことを口に出して訊くのは初対面にしては踏み込みすぎだろう。
俺は代わりに別の話題を持ち出すことにする。
「さっき静佳が言ってた試合ってのは何のことなんだ?」
恐らく校庭に沢山の生徒が集まっていることと何か関係があるのだろう。
紗雪はよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりにグラウンドの中心を指差し説明してくれる。
「それはあれです。今日は生徒会選挙の日なんですよ」
紗雪の指差す先にはプロレスかなにかでよく見る四角いリングが設置されている。
彼女が話すにはこの学校の生徒会役員は聖霊術師として誰よりも優れ、誰よりも強い生徒が選ばれるらしい、選挙の方法は候補者同士の直接対決で決められる。
そこまでの説明を聞いたところでグラウンドに集まった生徒達が黄色い歓声を上げた。
どうやらこれから戦う候補者が集まったらしい。
四角いリングの四隅から制服姿の女生徒が三人、そして私服姿の静佳、計四人がリングに上がる。
なるほど、静佳も生徒会役員の椅子を狙っているわけか。
「ルールは簡単です。あのリングから落ちたら脱落」
紗雪がそう解説してくれる。
じゃあ最後の一人になるまで戦うのかと思ったがそうでもないらしい。
「リングから落ちたら負けるルールはおまけみたいなものですね。本当の決着方法は生徒の投票で決まります」
言って彼女はベストのポケットから玩具のナイフを取り出す。
「これが生徒一人一人に与えられた選挙剣です。自分の応援したい候補者に投票するには」
言って彼女はリングの方を指差す。そこには四体のぬいぐるみが杭に磔にされていた。
少女を模したそのぬいぐるみは生徒会立候補者それぞれを元にデザインされてるのだろう。静佳をデフォルメしたぬいぐるみを見つけ、俺はほんわかする。
「こうやって投票するんです」
言葉と共に紗雪は楽しげにナイフを投擲する。
ナイフはグラウンドに集まった生徒達の頭上を飛び越え静佳ぬいぐるみの額に突き刺さった!
ぎゃああああああ! 可愛らしいぬいぐるみさんがショッキングなことに!
「まっ、ルールはざっとこんな感じですね」
こんな感じじゃないよ! 誰だよこの投票形式考えたの! 女子高の闇を感じるよ!
そこで進行役らしき女生徒がこちらに注意を飛ばしてくる。
「冬野さん、まだ試合は始まってませんよ」
「はい、すいません! 私の静佳さんへの愛がオーバーフローを起こし、青い情動が暴発してしまいました!」
テンション高くそう宣言する彼女に反省の色は一切見えない。
リング上の静佳はこちらをチラリと見ると、頭痛を堪えるようにコメカミを押えていた。
なんか、紗雪が嫌われてる理由がわかった気がした。
進行役の少女がマイクを手に声を張り上げる。
「それでは、これより生徒会選挙Aブロック予選を開始します! レディー、ファイッ!」
いよいよ試合が始まるようだ。
試合開始の宣言を受け、リングに立つ少女達は両手を前に突きだして虚空に赤い魔方陣を描き出す。
聖霊術師同士の力比べは是非とも見てみたいと思っていた。
静佳を応援しつつ、じっくり試合観戦させてもらうとしよう。
静佳は聖霊を操ることに苦手意識を持っていたが、森での特訓で見事聖霊のポテンシャルを引き出して見せた。
いけ、静佳! 今こそ特訓の成果を見せる時だ!
期待を込めて俺が見守る視線の先、他の少女達が魔方陣を展開する中、ただ一人静佳は魔方陣を作る様子を見せず床を蹴って近くにいた女生徒に接近した。
魔方陣を展開中の少女が驚きに目を見開いたのは一瞬のこと。次の瞬間、静佳の飛び蹴りが彼女の顎を捉え、リングから叩き落していた。
ちょ、ちょっと静佳さん? 貴方、森での特訓で聖霊術師としての戦い方を学んだ筈では?
残った二人の少女は警戒した様子で、静佳の方へ魔方陣を向ける。
すぐに静佳はもう片方の少女へと狙いを定め、そちらへ駆け出す。
静佳に狙われた少女の魔方陣が赤い輝きを放ち、そこから斧を持った牛頭の魔人が飛び出した。
牛頭の怪物は静佳の前に立ちふさがると、斧を振りかぶり彼女の頭部へ振り下ろす。
静佳はそれに怯むことなく、拳を振り上げ斧を殴りつけた。
瞬間、静佳の拳をぶつけられた斧に罅が入り、砕け散る。
続いて静佳の蹴りが魔人の顔面を捉え、怪物の体を弾き飛ばす。
リングへ叩きつけられた魔人の体は、粒子となって崩れていく。
そちらに目を向けることなく、静佳は魔人を召喚した少女へと迫り、恐怖に歪む彼女の顔に拳を叩き込み、リングから追い出した。
「おい、なんだあの出鱈目な強さは」
だって斧だよ。普通の人間は大怪我するよ? なんで逆にパンチで斧を粉砕してるの?
霊力か何かを使って静佳が自分の体を強化しているならまだ納得できたが、彼女にそんな器用なことができるとは思えない。
ならば静佳のあの強さは霊力とか聖霊とか関係なしに、純粋なフィジカルの頑丈さということだろう。
「あーあ、やっちゃいましたね。まあこれでこそいつもの静佳さんですよ」
紗雪が苦笑を浮かべながら、そう吐き出す。
どうやら静佳は普段からこんな感じらしい。聖霊術師同士の戦いを格闘戦で制圧するような滅茶苦茶な少女。
それが深山静佳という生徒のここでの評価だ。
リングの上では最後に残った少女と静佳の一騎打ちが始まっていた。
女生徒の召喚した大量の狼達が静佳を包囲し、彼女の動きを止める。
狼使いの少女は悔し気に顔を歪めながら静佳に言葉をぶつける。
「なんなのよアンタ! 私達は聖霊術師としての腕を磨くためにこの学校に来たのよ! 聖霊も使わず野蛮な戦い方ばかりして、アンタに聖霊術師としての誇りはないの?」
おお、まさかの正論攻撃だ。
だがそんな言葉をぶつけられても、静佳は涼しい顔を崩さず相手を見つめ返す。
「野蛮? 貴方は戦いにお上品さを求めているんですか?」
静佳の冷たい視線に、狼使いの少女は怯んだ様に息を呑んだ。
静佳は拳を握り締め、言葉を紡ぐ。
「私達は将来、ガーディアンとして盗賊と戦う為に鍛錬してるんです。戦いに上品も下品もない、必要なのは強さだけ。弱ければ死ぬ」
静かにそう吐き出して、彼女はリングの床に拳を振り下ろす。
「そしてこれが私の出した答え! 聖霊よりも私の方が強い!」
言葉と共に静佳のパンチがリングの床に叩き込まれ、大きく地面が揺れる。
リングの床が砕け、衝撃で狼軍団が吹き飛ばされていく。
離れている俺達ですらこれだけの揺れを感じるのだ、実際にリングで戦っている相手はひとたまりもないだろう。
狼使いの少女は風圧であっさりとリングの外へ放り出され、集まっていた観客の生徒達にキャッチされる。
もはや投票などするまでもなかった。四人の立候補者の内、リングに残ったのはただ一人。
「試合しゅーりょー! Aブロック予選勝者は深山静佳さんです!」
進行役の女生徒がマイクを手にそう宣言する。
「きゃあああああ! 静佳さん、おめでとうございます!」
そう言って黄色い歓声を上げるのは紗雪ただ一人だ。
他の生徒達は恐怖さえ感じさせる静佳の戦いを見て、ただ凍り付いていた。
この学校のトップを決める戦いを見に来た生徒達は、華麗な聖霊同士のバトルを期待していたのだろう。まさかこんなバイオレンスで血生臭い戦いを見せられるとは夢にも思わなかったに違いない。
なにあの子、何でも地元では有名な喧嘩番長だったらしいよ、こわーい、なんてヒソヒソ話がちらほら聞こえてくるし。
そんなお嬢様達にドン引きされているのを知ってか知らずか、すました様子で静佳はリングから下りて観客の中へと混じっていった。
後に残されたのは床に大きな亀裂の入ったリングだけだ。
「ではこれよりBブロックの予選を始めたいと思いますが、ええと、このリングどうしましょう?」
壊れたリングを直さないまま次の試合に移っていいものか、進行役の少女が困惑しているとそこへ一人の女生徒が声をかけた。
「修理するのも大変ですし、そのまま続けましょう」
それはとても目立つ少女だった。
太陽のように美しく輝く黄金色の髪は、赤い紐のリボンで蝶結びにして結わえツーサイドアップに纏められている。
海よりも深いサファイア色の双眸、モデルのようにスラリとした高身長のその少女はまるで絵画の中から出てきたかのように完成された造形美を保っていた。
進行役の少女はその言葉を受け、姫宮さんが言うなら、と納得する。
どうもあの金髪美少女はそれなりの発言力を持っているらしい。
「あの子は?」
その子の正体が気になり、隣の紗雪に聞いてみる。
すると彼女は得意げに説明してくれた。
「あの人は前生徒会長の
なるほど、それは発言力もあるわけだ。
それに前生徒会長というくらいには相当強いんだろうな。
「それではこれよりBブロック予選を開始します」
進行役の少女がマイクに向けてそう告げると共に立候補者達がリングに上がる。
姫宮星観とその他三名。
リング前に磔にされていた投票用ぬいぐるみも新しい候補者のものに入れ換えられる。
投票したのは紗雪一人だったけど。
姫宮さんはBブロックで戦うわけね。
しかし、と俺は大きな亀裂の入ったリングを眺める。
「あんな状態で戦いになるのかね」
「大丈夫じゃないですかね」
俺の呟きに答えたのは紗雪だ。なんか口に含んでるみたいに滑舌が怪しかったのでそちらを見ると彼女は白い棒状のものを咥えていた。
なにあれ、煙草? 煙草なの?
未成年者の喫煙は許さないわよ、って注意した方がいいのかな?
でも煙出てないし、火も点いてないみたいだし。
そう悩んでると彼女が、ニヤリと笑いながらこちらを向く。
「リングの真ん中までは誰も行けませんよ。星観さんが戦ったら勝負は一瞬ですから」
はい? それはどういうこっちゃ?
「それではBブロック予選、レディーファイッ!」
俺が疑問符を浮かべている横で試合開始の宣言が下される。
そしてその後は紗雪の言った通り一瞬だった。
他の三人が魔方陣を展開する中、姫宮星観はそれを描く姿すら見せず、彼女の右手が眩く光った次の瞬間には聖霊が召喚されていた。
黄金に輝くタテガミを靡かせた美しき獅子が姫宮星観の隣に姿を現す。
「
静かに、姫宮は自分の前に呼び出した聖霊の名を呼ぶ。
「
言葉と共にさっきまで晴天だった空に暗雲が集い始める。それが雨雲でなく雷雲だと俺が気づいた時、暗雲から三本の閃光が放たれ轟音とともにリングを襲った。
三つの雷は姫宮以外の三人の候補者の頭上に落とされる。
至近距離への落雷に、観客達もパニックを起こし悲鳴が響く。
あの子、まさか天候を操れるのか?
いやいや、それより他の三人だ。雷が直撃なんてしたら大変なことになる。
そんな風に焦りながらリングに目をやる。
他の三人は雷に貫かれているわけではなかった。
代わりに
檻の中の生徒達に怪我した様子はない。
ただ圧倒的な実力差に呆然とし、戦意を喪失していた。
まあ仮に戦う意思が残っていても、あの檻に閉じ込められた状態ではどうしようもないだろう。姫宮が指一本動かすだけで、あの檻の中に閉じ込めた相手を電撃攻めにすることができる。もはやコメカミに銃口を突きつけられた状況に等しい。
怪我をさせなかったのは彼女の慈悲。
姫宮は圧倒的な力を持ちながらも無傷で三人の候補者を無力化して見せたのだ。
彼女はニコリと穏やかに笑いながら言葉を紡ぐ。
「これで勝負はつきましたね」
次の瞬間、観客が沸き立つ。
きゃあああ、星観様ステキ、なんて歓声と共に大量の選挙剣が星観ちゃんぬいぐるみを串刺しにしていく。いつ見てもショッキングな光景だ。
やがて進行役がこの試合の決着を告げる。
「試合終了、Bブロックを制したのは姫宮選手です! 決勝戦は一週間後! Aブロック勝者の深山静佳対Bブロック勝者の姫宮星観、勝った方が新しい生徒会長です!」
その言葉と共にこの日の生徒会選挙予選は幕を閉じた。
既に日は落ち、窓の外は夜の帳に包まれている。
その日の晩、俺は学校が用意した寮の個室に案内され、一人になったところでベッドに腰掛け大きく息を吐き出した。
やっとここまできた。準備にかけたこの半年間はとても長かったように感じる。
ベッドに寝転がると、片手でスマホを操作し待受画面を表示させる。
画面に写っているのは、向日葵のように明るく笑う紫紺の髪の少女。
肩ほどまで届くセミロングの髪を両サイドで細三つ編みにして結わえており、頭に載せたセーラー帽が彼女の純真無垢な可愛さを引き立てる。
先程紗雪や星観達が着ていたのと同じ制服姿の写真は、昔彼女が帰省した時に撮ったものだ。
いや、正確には妹とは呼ばないのかもしれない。凛音は幼い頃に家族を失ってウチで預かることになった経緯があるが、彼女の苗字は前の家のままだし。戸籍上は別に兄妹にはなってないのだろうけど、俺にとっては大事な家族だ。
そんな彼女は夢と希望を抱いてこの学校の門を叩き、半年前に姿を消した。
凛音が行方不明になったという事務的な電話を受けた時、俺は動揺を抑えられず色々問い返した。
だが詳しい状況は調査中ですの一点張りで詳細は一切教えてもらえなかった。
その後の学校側の対応も誠実とは言えない。
学校側は形ばかり捜索願を出すも、警察が学校敷地内を調べることを拒否したという。
この学校にはガーディアンが守護すべき地下迷宮がある。
だから聖霊術師でもない部外者を入れることはできないということらしい。
家族が突然行方不明になった上、まともな捜索も行われないなんて当然納得できるはずがない。
やり場のない怒りを持て余し途方に暮れていた時、俺はある人の助言によりこの学校に潜入する作戦を立てた。
そして様々な裏工作を経て、ようやくこの学校に入れたのだ。
この学校のどこかに凛音がいる。絶対に彼女を見つけて助け出す。俺はそう固く誓った。
朝の喧騒に包まれた廊下を歩き、教室の扉の前で足を止める。
いよいよここから始まるのだ、俺の計画が。
ガラリと音を立てて目の前の扉を開く。
室内で思い思いに過ごしていた女生徒達は、突然の闖入者に驚きこちらに注目した。
俺は教壇に立つと、そんな彼女達を見渡しながら言葉を投げる。
「みんな初めまして、今日からこのクラスの担任を務める相馬幸平だ」
そして、ニッと笑い続く言葉を吐き出す。
「これから宜しくな」
教室には見知った顔がちらほら見られた。
ポカンと口を開けて驚きを表現している黒髪の武闘派少女、深山静佳。
おや、と小首を傾げて興味深そうにこちらを眺める金髪お嬢様、姫宮星観。
きゃー、と興奮した様子で机を叩くゆるふわウェーブの元気娘、冬野紗雪。
どうやら幸運にも、この三人と同じクラスだったらしい。
凛音を見つける為、俺の潜入ミッションがここから始まった。
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