第13話 レベルアップ
スライムしかいないと思っていた俺はただの阿呆だ。
他のモンスターと出くわすことをいつの間にか楽しさにかまけて排除していたとは。
あれだけ慎重になろうと思っていたのに・・・・・愚かとしか言いようがないぞ。
醜い顔の化け物は倒れた俺を馬鹿にすように奇妙な動きで踊るゴブリン。それはまるで弱い獲物を前に遊んでいるかのよう。
腹立たしいがそれは俺にとっては幸運だった。怒りで恐怖が減ったのもそうだが、直ぐに追撃をしてこない事が何より助かった。
ゴブリンを刺激しないようにゆっくりと立ち上がる。
あ、あっぶなかったぁぁぁ!?
今心臓はバクバクだ。もし倒れたところに追撃されていたら唯では済まなかった。
HPゲージを見て、ホッと息を吐く。
HPゲージは全く減っていなかった。
どうやらワンダメージ=1のダメージじゃ無いらしい。背中は痛いがこの程度なら目に見えるダメージにはならないのか。
その事に安堵はしたが、内心での焦りは半端じゃない。
あぁくそ、忘れるなよ。ここは普通に死ぬ世界だぞ。
ちょっと強くなったからって浮かれ過ぎだ、バカヤロウ!
あまりの不甲斐ない自分を叱責し、改めてショートソードを正面に構え直す。
「ギャ? ギャギャ」
剣を構えるとゴブリンの濁った眼球が俺へと向いた。
敵対行動を察したのか怒りに牙をむき威嚇の声を上げる。
それだけで俺の体が少し強張ってしまう。
落ち着け、大丈夫。
スライムとは全く違う緊張感・・・・・・いやこれは怯えか。
初の人型のモンスターと言うのもあるが、何よりもその見た目の醜悪さが如何にも化物然りとしていてビビっている。あの剥き出しの牙を見ていると逃げ出したくなる。
本物の化物。日本で生活していたら絶対に出会わない脅威。
あぁ畜生、くっそ恐ぇ!!
心の底からそう思う。体だってこんなに震えている。
・・・・・・・・けど、どうして俺はこんなにもワクワクしているんだろう?
多分俺は今笑っている。
こんな化け物を目の前にして、突き倒された背中がこんなにも痛いのに。
でも俺は笑っている。
こいつと闘いたいと思っている。
自分がこんなにも戦闘狂だったとは知らなかったな。
「ギヤァ!!」
睨みあっていたゴブリンが襲いくる。蟹股の所為か左右に身体を揺らし唾液をまき散らし、かけひきも何も無い本能のままの突進。
見えていたし分かっていた。
だがそれを避けようとするも脚が上手く動いてくれない。
くそ、ビビるな俺!
その凶悪な姿に戦いたいと思いながらも、奥底では未だ怯えてしまい体が委縮しいる自分がいる。
ゴブリンはもう間近。避けるのは間に合わない。
ならばと咄嗟に腕をクロスさせる。
ガキンと甲高い音が鳴る。
ゴブリンの爪と俺の手甲がぶつかった音だ。
本当に咄嗟の事だったが、どうやら俺の【闘術】なのか【剣術】なのかは分からないがスキルが反応してくれたみたいだ。こちらに怪我は無い。
おかげで少し気持ちが落ち着いた。
お互いがぶつかり合ったが為に出来た硬直の間。
ゴブリンに型も何も無い力任せの前蹴りを食らわせる。
「グアッ!?」
ゴブリンの体をくの字に曲げ、先ほどの仕返しとばかりにゴロゴロと地面を転がす。
自分でやった事だがその蹴りの威力につい唖然としそうになる。
集中だ、集中!
ゴブリンは直ぐに立ち上がり屈辱の怒りを剥き出しに再び突進してきた。
大丈夫。いける!
自分に暗示すように心で唱えながらショートソードを横に構えるとスッと腰を落とした・・・・・・・・・・そして。
「だらぁぁぁぁぁ!」
激突、となる寸前。気合の声と共にゴブリンの腹部目掛けショートソードを一薙ぎ。
「ギ、ギャギャ、グ・・・・・・ギャ・・・・・」
ゴブリンはヨタリヨタリと俺の脇を通り過ぎ、そのまま地面に両ひざから崩れ落ち、そして光の粒子となって消えた。
『EXPを8獲得しました』
『15ゴルを手に入れました』
『ゴブリンの核を手に入れました』
いつもの様に戦闘後のメッセージが流れる。
それを見てほっと息を零すと、続けざまにそれは鳴った。
テケテケテッテッテー♪
妙に懐かしい電子音だった。どこかで聞いたような違うような。
だがそれが何の合図であるか俺は本能で察した。
『レベルが上がりました』
『HPが5上がりました』
『MPが5上がりました』
『筋力が5上がりました』
『耐久が5上がりました』
『俊敏が5上がりました』
『賢さが5上がりました』
『精神が5上がりました』
『器用が5上がりました』
『CPを5手に入れました』
「お、おぉぉぉぉ・・・・レベルアップ!?」
つらつらと流れるメッセージに歓喜とも驚きとも付かない奇妙な声を上げてしまった。
レベルが上がった。その事がじんわりと脳に染み込んでいくと、俺は自然と両拳と天に向かって突き出していた。
「ス、ステータス!?」
名前:結城晴斗
ジョブ:戦士
Lv:2
HP:26/26
MP:15/15
筋力:10(15)×1.1
耐久:10(15)×1.1
俊敏:10(15)
魔力:10(0)
精神:10(0)
器用:10(15)
運:5
スキル
パッシブスキル:【筋力強化1】【耐久強化1】【HP増加3】【剣術1】【闘術1】【気配察知】
アクティブスキル:【剣技1】【闘技1】
加護
【女神の加護】【出会いの輪廻】【異世界転移】【ゲームシステム】
CP:5
カッコ内のパラメーターが軒並み上がっていた。だが運だけはそのまま、てかカッコ自体無い。
ただこれでハッキリした。
ジョブ設定によるカッコ内に入っていた初期の数字は『5』。それがジョブの加算基礎パラメーターで、そこに設定したパーセンテージが掛けられる。
パラメーターの数字は基本的に四捨五入であるのだが、これはもしかしたら見えていないだけで小数点以下も存在している可能性もある。
カッコ内の数字は異世界限定の加算値であり、それ以外の数値が素の俺の身体能力。
ただ素の状態に【魔力】があるのだが、これに関しては不明、と。
「・・・・なるほどな、これはレベルが上がれば上がるほどジョブで設定したパラメーターの特色が大きくなる訳か」
基礎能力に変化はない。あくまでも設定したジョブのパラメーターのみが増えた形となっている。
HPだけは他のステータス数値と出方が異なり、全部計算されたものになっているがその方が解り易くて良い。
なるほど、なるほど。
【魔力】と【精神】が0なのが目立つな。まるで脳筋になった気分だ。
「でもって【CP】は『5』、ね」
予想通りレベルアップ時に【CP】が貰えた。だがそれはたったの『5』。これは想定していたよりも少ない。
中々世知辛い数字だな・・・・当面魔法系はお預けかもしれない。
ファンタジー堪能は当分お預けだなと肩をすくめる。
「さて数値だけだと分かり難いし、実際これでどのくらい差が出るんだか?」
ステータスとしては素の俺の数値+カッコ内の数値になるはず。そうなると【筋力】でみれば、レベルアップでカッコ内の値が1.5倍となった。合算数値では1.25倍だが、元々の俺からすれば2.5倍の【筋力】と数値上ではなっている。
普通に考えればこれはとんでもない。
丁度近くに良い大きさの石があった。
直径で70センチほどある石。恐らく重さとしては100kgくらいだと思う。
大学を卒業してからは真面な運動もしてこなかった俺は普通であれば持ち上げることはかなわない重さだ。
「お、おぉ・・・・マジ!?」
さてどうかなと石に手をかけ、腰を痛めないよう徐々に力を入れていったのだが、これがことのほか簡単に持ち上がってしまった。しかもあまりにもすんなりと持ち上がるものだから危うく転びそうになったくらいだ。
もしかして意外と軽い石だったのかな、と何気に石を投げ捨ててみたら、ボグッと地面が陥没する。
その見た目は明らかに重い。
100kgまであるかどうかは別として、今までの俺であれば確実に無理だったと思えるもの。
い、異世界パァワァ、スゲェ!
ジョブを設定してレベルが一つ上がっただけなのに既に超人になった気分だ。
「そう言えば・・・・人型を斃したというのにほとんど忌避感が無いな」
変化は体だけではなく心も超人になっている気がする。
以前スライムを倒した時にも思ったが、どうも俺はモンスターを倒すことに忌避感を抱かないらしい。
「光となって消えるか、【女神の加護】なんて謎の加護があるからか?」
多分どっちものような気がする。
怪しい効果を感じるが、まぁモンスター倒して鬱になるよりはいいだろう。
忌避感を抱いていたらレベルアップ出来ないからな。
だがそれがモンスターだけなのか、あるいは・・・・。
うん、やめよう。
俺はモンスター以外を殺すのは絶対にしないと心に決めつつも、自分が強くなっていく事が素直に嬉しかった。
ゲームとは全然違い実感がある、それが堪らなく楽しい!
「神さん、確かにこれは良い趣味だよ」
神さんに改めて感謝する。
あぁありがたやありがたや。
取り敢えずレベルアップに関しては一通り確認はした。
【CP】に関しては少々不満もあるが、その辺りは地道に頑張るしかない。
「当面はレベルアップに力を注ぎたいな。異世界の基準がどの程度か分からないから出来るだけ力をつけておいたほうがいいだろう」
異世界を満喫するためにはきっと力が必要となるだろう。
何しろこうしてモンスターが出てくる世界だし、神さんが剣と魔法の世界と言っていた。ならばここに暮らす人間もまた超人ばかり。
余計なトラブルを起こす気は無いが、向こうからやってくることだってあるのだから。
何事も余裕を持たねば。アドバンテージは多い方がいい。
とは言え異世界人には早く会ってみたいな。
どんな人が住んでいるのか気になる、文化だって全然違うんだろうし。
「よし、方針としては先ずはレベルアップ、そしてゴブリン数体を余裕で倒せるようになったら人里を目指す、だ」
森の中で暫くレベルアップをする。異世界人に早く会いたいが、異世界人がどんなか分からない以上ある程度力をつけておく必要がある。大方針としては変わらず命は大事に、だ。
と言う事でその日はたっぷりと戦いまくった。
スライム12にゴブリンが18。
レベルも更に2つ上がって俺のステータスはこうなった。
名前:結城晴斗
ジョブ:戦士
Lv:4
HP:39/39
MP:25/25
筋力:11(30)×1.1
耐久:10(30)×1.1
俊敏:11(30)
賢さ:10(0)
精神:10(0)
器用:10(30)
運:5
スキル
パッシブスキル:【筋力強化1】【耐久強化1】【HP増加3】【剣術1】【闘術1】【盾術1】【気配察知】
特殊技能スキル:【剣技1】【闘技1】
加護
【女神の加護】【出会いの輪廻】【異世界転移】【ゲームシステム】
CP:15
最早スキルでの強化抜きにして素の能力から筋力とかが4倍。
ゴブリンなんてパンチ一発で粉砕だ。100m走はぶっちぎりの世界記録を出せる。チーターにすら勝てそうだ。
「流石にこれだけ運動したおかげか、基礎のステータスも【筋力】と【俊敏】が1増えてる」
どうやら運動不足が少し解消されたようだ。
これは地味に嬉しい。
あと、途中一回だけゴブリンの攻撃が擦り怪我をしたが、【HP強化】の効果で直ぐに治った。
【HP強化3】 効果:HP×1.3 HP自動回復 30%/時間
「3時間ちょいでトカゲもびっくり全回復」
間違いなくびっくり人間の出来上がりだ。
「・・・・日も暮れて来たし、そろそろログアウトするか」
1日走り回ったので流石にへとへとだ。
「あぁ楽しかった」
俺は口元を緩め真っ暗になった森の中ログアウトを選択した。
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