第12話 ゴブリン
本日二度目の意味の無い階段を下りて白い光の壁に飛び込み再び異世界へと戻ってきた。
「森の中だから今一分かり難いが・・・・なるほど、ログアウトした場所に戻るのか」
多分間違ってはいない。
俺がスライムと戯れた場所が向こうにあるからきっとそうだ。
「さて、憂もなくなったし、冒険を始めますか!」
ログアウトが出来る事は確認したし、日本での時間が進まない事も確認できた。ジョブの設定をして多少なりとも強くなり装備もある。檜の棒を振り回していた時の俺とはもう違う。
これで心置きなく存分に楽しめる!
手に入れた刃渡り60cmほどの肉厚な両刃の剣を掲げ声高に宣言する。
もうこれは無期限の休暇を得たようなもの、いくらでも時間を割くことが出来る正に楽園。
これは冒険だけじゃ勿体ない。それ以外にも時間は文字通り無限にあるのだから色々と試してみるのも面白い。
なんで神さんが俺にこんなものを与えたのかは未だ謎だが、それはそれだ。例え裏が在ろうともう感謝しかない。
このような非日常な世界で冒険できるなんて一生に一度あるかないか・・・・いや無いなこんな非常識。一生に一度、誰しもがこんな経験していたら、それは最早地球がカオスに飲まれたとしか思えない。
ならばこれは間違いなく俺に与えられたとびっきりの奇跡だ。だったら存分にこれでもかと遊びつくす義務がある。
時間は無限、何でもできる!
そうだ、ちまちま考えるのはよそう。ジョブやスキルに関してもあーだこーだと考えていたけど、ここでいくらでも遊べるんだ。どうとでもなる。きっと、多分。
だったらインスピレーションに赴くまま気ままに楽しんだ方が絶対良い。
「と言う事でやっぱり方針としては剣も魔法も、だな!」
恐らく固定のジョブを育てた方が最強を目指すにはいいんだろうが、最強以上に俺はこの世界を満喫したい。
最初ごちゃごちゃと考えていたけど折角色んなスキルがあるんだから試してみたいってのが本音だ。
「何れは【錬金術】も使ってみたいし」
なので方針は結果として見れば当初考えた通り複数のジョブを作り育てるで良いだろう。
さてそうなると俺のやるべきことは単純だ。
必要になるのはCPを集めながら世界を旅する!これにつきる。
CPは恐らくレベルアップで貰えるはず。なのでここは戦って戦って戦いまくる、だ。
「おし、俄然やる気が出てきたぞ。モンスターをガンガン狩って強くなってやる」
気合を入れた俺は再びショートソードを掲げた。
などと意気込んでいた時もあった。
「・・・・・・・・・この森、いったいどこまで続いているんだよ」
どこまで進んでも木、木、木。
大木を超え巨木が延々と続いている。その終わりが全く見えない。
もうかれこれ一時間以上歩いているというのにモンスターと出くわした回数がゼロ。
「ぬあぁぁぁ、確かに安全な場所だって言ってたけど、こうも何も出ないんじゃ意味が無い」
ガシガシと頭を掻き暴れる。
やっぱあの時のスライムはフラグだったのか、もうずっとマップに反応が無い。
只管未開の地のマップ作成をしているだけだ。
いい加減飽きてくる。
あれだけモンスターと戦うぞぉって意気込んだのにどうしてくれる。
「暇だぁぁぁ!」
道草を食った小学男子の様に草むらを剣で滅茶苦茶に薙ぎ払いながらふらふらと歩く。
更に20分が経った。
景色は変わらないが待望の変化がやっと訪れた。
頭の中がむず痒くなるような感覚。それを覚えた時、あれがマップに表示された。
逆三角形の赤いマーク。それが二つ、進行方向に浮かび上がっていた。
「来た!」
これをゲームに照らし合わせると敵性個体の出現を意味する。きっとこれもそうだ。
声を弾ませ駆け出す。
やっと現れてくれたモンスターに一目散に突進する。
近づくにつれ頭のむず痒さが強くなってきた。
「なるほど、これが【気配察知】の感覚か・・・・うん、やっぱとってよかった。マップよりも早く分かるなんて」
とても不思議な感覚だ。見えてもいないのにそこに何かがいるのだと感じ取れる。しかも近づけば近づくほど詳細に分かる。
流石レベル無しのコスト高スキル!
もう直ぐ敵に辿り着く。駆けていた足を止めた。
初戦で無謀さを反省した。
音を出さないよう注意しながら、マーカーが示す場所へと少しずつ近づいていく。
大きな茂みがある。どうやらその中にいるようだ。
相手に悟られないようそっと覗き込んだ。
中には前回見た大きなアメーバが二体。
そうスライムだ。
スライムがこちらに気が付いた様子は無い・・・・・かどうかは顔が無いから分からないが、のんびりと蠢くだけなのでまだ大丈夫だと思う。
先制攻撃のチャンス!
当然俺に騎士道精神など無い。ジョブを設定しリニューアルした俺の力を試してやる。素の俺だったら2体同時に現れ時点で手に余していただろう。だからこれは違いを実感するには丁度良い相手だ。
ショートソードを持つ手に力が籠もる。
「ふっ!」
一気に飛び出しスライムへと駆ける。
距離は凡そ4~5m。
だが強化された脚力は文字通りの一足飛びだった。
肉薄するスライムの直上からショートソードを躊躇なく突き立てた。
それは何とも呆気ないもの。
感触と呼べるほどの抵抗も無いまま吸い込まれていったショートソードは瞬く間にスライムを光の粒子へと変えた。
流れる経験値とアイテム取得のメッセージを尻目に、俺は間を置かずに次のターゲットへと振り返る。それと敵に気付いたもう一体のスライムが飛び掛かってきたのは殆ど同時だった。
「遅い!」
焦りは一切湧いてこなかった。
バトル漫画の様なセリフを吐き捨て、体当たりをしてくるスライムをひらりと躱す。
これはきっと上がったステータスと【闘術】の影響だろう。動体視力も格段に良くなっているように思える。
すれ違いざまにショートソードを振る。
【剣術】スキルはそんな咄嗟の動作でも的確に応えてくれた。
銀閃がスライムの中心を斬り裂いた。
力の解放の余韻が残る俺の周りを光の粒子が舞った。
『EXPを3獲得しました』
『10ゴルを手に入れました』
『スライムの核を手に入れました』
再び流れるメッセージ。
「よし!」
スライムはどちらとも一撃だった。
明かに強くなっている。その事の実感に言いようのない高揚感を覚えた。
あぁ楽しい!
気が付けば俺は勝利に浸ることもなく次なる獲物を求めその場を駆けだしていた。
数分進んだところでマップに反応が現れた。
いたのはまたもスライム。
どうやらセーフティーエリアを超えたようだ。
今度は立ち止まらずそのまま突き進む。
接近に気付いたスライムが跳ね、それを通り過ぎざまに袈裟斬りにする。
チョロイ!
続けざまにもう一体。
今度は敢えて攻撃はせずスライムの攻撃を躱すだけにした。
ゴムボールの様に跳ねるスライムを2回3回とスウェーして躱していく。意識せずとも【闘術】スキルが体を勝手に動かしてくれる。
いいぞ! いいぞ!
何て楽しいのだ。
こんなにも戦う事が楽しいだなんて知らなかった。
跳ねてきたスライムを後ろ回し蹴りで弾く。足裏で弾き飛ばしたスライムを追走してショートソードを水平に薙ぎ払った。
『EXPを3獲得しました』
『10ゴルを手に入れました』
『スライムの核を手に入れました』
もっとだ。もっと戦いたい。
森の中を駆ける。疲れるという事を忘れた様に走り回る。
また一つ気配を感じ取った。
マップにもマークが表示された。
敵だ。
喜びに俺の脚が前へ前へと力強く出て行く。
あれだけ反省したというのにこの時の俺はまたしても愚行を犯した。
感じ取った気配が今までと少し違っていたことを気にも留めていなかった。
巨木の間を軽快に走る。
敵は目前、次はどんな攻撃方法で仕留めようかと頭を巡らせ剣の柄を握る。
そして接敵・・・・・その瞬間。
急激な警鐘が頭に鳴り響く。
なんだ?そう思った時には木の陰からもの勢いで跳び出してきた何かに俺は突き飛ばされていた。
「ぐはっ」
地面に背中を強打し2度3度と体が転がる。
詰まる息、背中から伝わる鈍痛。
何が起きたのか解らず呆然と顔を上げた。
「・・・・っ!?」
一拍の間の後、驚きに息を飲む。
予想もしていない事態に思考が止まる。
それはケタケタとまるで嘲るように口を吊り上げていた。
黄色く濁った双眼で俺を見下ろしながら奇妙な踊りを披露している。
子供くらいの背丈しかないそれは肋骨が露わになるほど痩せこけ、だが腹だけが妙に膨らんでいる姿はどこか老人を連想させる。
身体全体は森とはまた違った緑色をしていて、それら外見的特徴は実に滑稽であるのだが、その姿を見た俺の背筋には冷たいものが流れていた。
そう俺は恐怖していた。
日本の妖怪の餓鬼にそっくりなそれに。
「・・・・・ゴブ、リン!?」
それは有名な人型のモンスター。
作品によっては雑魚とも強敵とも、そして女性の天敵として表現され、時には悪魔として、或いは妖精と称される事もあるモンスター。
そんな誰もが知っている醜悪な化物、ゴブリンが俺の前にいた。
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