第6話 異世界への入口

「先輩、おはようございまっす!」


 加藤は今日も元気で何よりだ。よくこんな朝っぱらから笑顔でいられるものだと感心してしまう。俺の表情筋なんて使ってない所為か至る所が衰退してしまってうまく機能しないというのに。


 服装を見る限り加藤も家に帰ったようだ。あれからキャバクラにでも行ったのではないかと心配していたが、どうやら取り越し苦労だったか。

 こいつ、見た目はチャラいが意外としっかりしているからな。


 デスク上に並ぶ二台のパソコンの電源を順番に入れながら、少しばかり後輩の心配をする今日の俺は優しい。


「加藤たちの頑張りのおかげで休めたよ。残りは気になった細かいところを直せば何とかなりそうだし、肩の荷も大分下りたな」


 加藤に言われて動かしてみた作成中の新作MMORPGは幸にも致命的問題は無かったので、予定していた再来週の正式リリースに何とか間に合いそうだ。


 ただそれはあくまでも表面上はって付くのだが、その辺はどこの会社も実状は変わらない。実際には正式に稼働させてみないと何とも言えない部分は多少なりとも存在するからな。


「因みにどこっすか? 気になる所って」

「うん? あぁ、そうだな、バグって訳じゃないんだが、オブジェクト被せのエフェクトのタイミングとかかな。もう少し軽ければどうとでもなるんだが、あの人の拘りが強い分どうしたもんかなと。だから出来る分だけって感じになるだろうな」


 ほんの少しのズレだけど、それで印象が大きく変わるからな。この辺は何度も試して合わせるしかない。

 ただ動作上に問題がある訳でも無いから緊急性は低い、ようは完成度を上げる為の処置だ。


「やっぱりエフェクト抑えたい所っすねぇ。あれは処理落ちの所為もあるっすから。あぁでもあのエフェクト堤さんがめっちゃ気に入ってんすよね。手を抜いたらチクチクきそうで嫌っす」


 堤さんとは今回の総合プロデューサー兼メイングラフィックデザイナーの人で、元受け会社の人でもある。

 このMMO開発に異常なまでのやる気をみせていて、何かと理不尽な要求をしてくる厄介な人物だ。

 今回のリリースが何度も延期になったのはその所為なのだが、下請けの俺たちから文句は言えない。


「またあの独特の熱気で来られんのは確かに嫌だな。まぁ今回は出来たらくらいの話しだから、リソース問題は追々考えよう。出来れば堤さんに折れて貰えれば楽なんだが」


 まぁ無理だろうと堤氏の事を思い浮かべて苦笑いを浮かべる。


「そうっすね」


 加藤も同様に苦笑いを浮かべてる。無理だと考えているんだろう。


「あ、そうそう先輩。俺、来月の頭に休み貰うんでよろしくっす」

「加藤が珍しいな。何だ疑似親戚の冠婚葬祭でも入ったか?」


 徐に手を上げ加藤が休暇申請をしてきた。

 加藤が休みを取るのは珍しいので空想の親戚がらみかと訊き返したら「違うっすよ」とニヨニヨと破顔させる。


「実は『りるりる』のイベントがあるんす。チケットは取ってたんすけど、今回の追い込みで無理だと諦めてたんす。でも予定日で稼働できそうなら是非行きたっす!」


 ほんと、言動の軽さと見た目のチャラさとは裏腹にしっかり者だなこいつは。

 趣味よりも仕事を優先するとは社畜の鏡だよ、全く。


 確かに現状からすれば来月の初めならリリース後だから問題は無いだろう。特に加藤は連日泊まり込みのハードな勤務体制を敷いたから俺としても報いてやりたい。


「この分ならまぁ大丈夫だろう。分った、室長と時田さんには俺から先に伝えてはおくから、平日に休むんなら後で有給申請を出しといてくれ」

「お願いっす!」


 加藤にそう伝えこの後の段取りを頭の中で整理していると、加藤は何かを思いついたようにポンと手を打った。


「あ、先輩も一緒にどうっすか。ほら趣味と女っ気が無いって言ってたじゃないっすか。今だったら予備のチケット有るんで行けるっすよ」


 そして唐突にそんな事を提案してきた。

 趣味は別としてアイドルの追っかけを女っ気があると称するのは違う気がする。


 しかしアイドルかぁ・・・・・・・・・。

 

「いや、やめておこう。加藤には申し訳ないが、俺がそこに興味を抱くとは思えないしな」


 折角誘ってくれたが『りるりる』は遠慮しておく。


 俺が断ると加藤は特に気にした様子も無く「そうっすか」と軽く返してきた。


「それにしても、何でチケットの予備なんてあるんだ?」

「そりゃあ先輩、抽選で当たった人しかいけないんすよ。単体の応募じゃ確率厳しいじゃないすか。だから当然応募は複数するもんなんすよ。今回は運が良かったので2枚あたりましたけど、正直当たらない時の方が多いんす。マジ超人気なんすからね」

「ああ、そう」


 身振り手振りで力説する加藤には悪いが良くわからん。

 取り敢えずこいつが本当に元気なのだけは分った。





「・・・・・・は?」



 今日も家に帰ってこられた。


 気になっていたエフェクトは結局妥協する事になった。何れ堤氏に話をして軽量化を図るか現状のまま我慢するかのどちらかしかないだろう。

 それ以外のバランス調整も問題無く行えたので、正式稼働まではそれほど忙しくはならないだろう。

 

 これは俺にとって好都合と言っていい。


 ゆっくり出来る事もそうなのだが、今日からの俺にはプライベートでやらねばならない事があるからだ。



 そう異世界冒険だ。



 昨日謎の婆に授かったはずの俺の趣味なのだが、まだそれが本当に起こるのか半信半疑なところはある。


 だが正直に言おう・・・・・・俺はめっちゃ期待している。


 ワクワクしている。

 何しろ昨日あれだけ期待させられて起きたら朝だったからな。しかもそのまま会社に行かなくちゃならなかった俺の心境は、クリスマスプレゼントが目の前に置かれながら遅刻しそうだったので開けられず学校に行った子供と同じだ。

 そりゃあ待てという方がおかしい。


 思わず駅からダッシュまでしてしまった。まぁ直ぐに脇腹痛くなってやめたが、それぐらい待ち遠しかった。


 そんなワクワクをもって玄関のドアを開けた。


 直後、俺の眉間には困惑による皺が眉間に寄った。


 アパートの部屋は狭い。どれくらい狭いかと言えば、玄関を開けると直ぐにキッチンがあり、仕切り無くリビング兼寝室へとつながっているよくある1K。つまり玄関を開ければ部屋全体が丸見えになる狭さ。


 だから扉を開けて直ぐにが目に入った。

 で、あのような間抜けな声が出てしまった。



「・・・・おい、。何故お前がそこで普通に寛いでいる」



 玄関を開けた先、つまり俺の部屋で茶をすすっている小柄な老婆。


 そう、昨日突如として現れたあの女神を自称する不審人物が、ちゃぶ台の前でさも当然と寛いでいた。


「お帰りなのじゃ」

「おう、ただいま・・・・て違う!」


 自称女神は俺の不機嫌な声など気にした様子も無く自然に出迎えるもんだから、俺も思わずすんなりと返しそうになっちまったよ。


 これが若い女性であったのであれば俺だって歓迎しよう。

 帰って来た俺を女の人が「おかえりなさい」と優しく出迎えてくれるなどまるで夢のようだ。そしてあわよくば「ごはんにする? お風呂? それとも、わ、た、し」と最後の一択しかない選択肢を与えようものなら嬉しさに男泣きをするかもしれない。


 だがここに居たのは妖怪の老婆だ。『わたし』の選択肢は地獄の門を開く禁断の選択肢でしかない存在だ。

 更に言えばこいつ不法侵入の不審者だし。


 見ると寛ぐ婆の前のちゃぶ台には茶請けの容器に山盛りの煎餅が。

 木目の入った大き目の器に祖父母の家にもあったなぁとつい懐かしく思ってしまったじゃないか。


 何となく居そうな気はしていたが、だがこうも平然と居られるとそれはそれで腹立たしい。


 とは言え結果としては居て貰って良かったかもしれないか。


 何しろ俺は異世界への行き方をまだ聞いていないからだ。


 しかしほんとどうやって入ってきたんだ?

 鍵は確かにかかっていた筈なんだが。

 やっぱりこいつは妖怪の類なのかもしれない


「色々と失礼な事を考えているようじゃが、まぁわしも寛大じゃからな。ほれこれでも食って落ち着かんかい」


 婆が煎餅をつまんで差し出す。

 眉間を引きつかせつつも煎餅を受け取り齧る俺。


 ・・・・・・うまい。


「今日、浅草で買ってきたのじゃ」


 ふむ、今度買いに行こうかな。


「仲見世か・・・・バリボリ」

「いや違うのじゃ。浅草駅近くの店なのじゃ」

「何回か行ったことあるが見たことないな、ウグウグ、ゴックン」

「もう一枚食うかね」

「貰おう・・・・バリッバリ」


 この硬さ意外と癖になる。

 焦げた醤油の味が何とも香ばしく鼻に抜けていく。程よい歯ごたえがあり一生懸命噛むことで米の旨味がちゃんと味わえる。


 流石浅草、なかなかの逸品だ。


 うぅんでも喉が渇くな。


 そう思っていたら婆が察したのか急須きゅうすでお茶を入れてくれた。


 気が利くな、ありがとう。


 お、ラッキー。初めて茶柱立った。


 ズズッと熱いお茶を火傷しないように気を付けて啜る。


 渋めの濃いお茶はしょっぱい煎餅とよく合う。




「って、そうじゃねぇ!!」




 俺はお茶を置くと盛大にツッコミを入れた。


「帰って来て早々騒がしい奴だのう」

「誰のせいだよ」


 いかん、この婆どうにもペースが乱される。


「何でここに居るのかはまぁいい。今日に限っては都合がよかったしな。そんな事よりも早く異世界の行き方を教えてくれ。まだどうやって行くのか聞いていない」

「おや? 言っておらんかったかえ?」


 はて、と小首を傾げる。細い干からびた骨と皮のだけの首は、そのまま頭がもげてしまいそうで怖い。


 地味に時焦らしやがる。はやる気持ちが胡坐をかいた足を上下に揺らす。ん?


 何だか床に座っている割には座り心地が良いと思ったら、この婆座布団迄敷いてやがった。しかも婆のと俺が座っているのが色違いでそろい柄、しかも縁にヒラヒラとしたものがついていて結構ファンシー。地味に座り心地がいいところが文句を言い難い。


「ええじゃろ!? 原宿で買ったのじゃ」


 ふふんと鼻を鳴らす婆。

 こいつ随分と都内を満喫してんじゃねぇか・・・・・・・・・て、また話がそれてしまった。


「そんなことどうでもいい。早く行き方を教えてくれ」


 危うくまたもペースを乱されそうになったが何とか復帰。婆をそっけなくあしらい異世界への行き方を聞いた。

 俺の言葉に婆が口を尖らせる。まるで梅干を食った顔みたいで、ちっとも可愛くない。


「せっかちな男よのう。もう少し会話を楽しむようなゆとりが無くてはモテんぞよ?」

「余計なお世話だよ。いいから早く教えろ」

「ケケケケ、ともあれ楽しみにしていてくれたのは嬉しい事なのじゃ。そうじゃのぉ、これ以上焦らしては可哀想じゃからな、そろそろいかせてあげるとしようかのぉ」

「おい、俺の股間を見ながら怪しい文言を言うのはやめろ!?」


 婆は持っていた湯飲みをちゃぶ台に置くと、膝をパキパキ言わせながら立ち上がる。長時間座っていたのか凝り固まった腰を痛そうに叩いた。

 やはり女神とは呼んではいけないと改めて天に誓った。自称神が目の前にいるが、俺はそれでは無い神に誓った。


 婆は五〇インチの大画面液晶テレビに肘を乗せる。

 4年前に買ったテレビだが電源入れたのは昨日が久々だった。買って以降掃除などしていないのできっと婆の裾に埃が付いた事だろう。何よりだ。


 「さて」と前置きを口にした婆がだいぶ苦し気な姿勢で話を始めた。

 テレビの方が婆の肩位置よりも高い為乗せた肘が随分と上がっている。見れば分かる筈なのに何で乗せたのだろう。


「異世界への行き方じゃが、何、簡単な話じゃよ。入口から入ればええ」


 その体勢きつくない? そう思いながらも俺はそこを指摘したりはしない。俺は空気が読める男だ。いや違うぞ、決して面倒くさいからではない。


「入口ってどこだ?」

「これじゃよ」


 そういった婆は掛けていた肘をおろしテレビをトントンと叩く。


 俺も仕事の関係上ライトノベルなどは良く読んでいるので、結構これ系統の知識には精通している方だと自負している。

 そんな俺の統計によれば異世界転移物はある程度パターン化している。その中でも転生や転移の理由や方法が最も顕著だろうか。


 大概は死んで神様に異世界に転生させられる何てのが多い。特にトラックは異世界への片道切符として有名だ。

 それ以外だと召喚陣あるいは召喚魔法での転移、これも王道だな。そこに王女様がいて恋に落ちるなんてベタだが俺は好きだ。出来ればそうなってほしいと切に願う。

 

 そこで婆が俺に示したのはテレビだ。


 これはあのタイプか、頭の中で以前読んだラノベの展開を思い返す。


 ふむ、これはこれで王道だな。


 あれだ、パソコン画面に吸い込まれるタイプ。ただ画面がモニターでは無く液晶テレビの違いはあるが、だがこれも王道パターンの一つと言って良い。


 きっとぴかっと光って画面の中に吸い込まれるんだろうな。


「お主はテレビを良く見るのかえ?」


 そんな事を考えワクワクとしていると婆から今それ必要かという質問が投げかけられた。ただ婆の顔がニヤついているので答を解ったうえで質問しているのだろう。


「ん、余り見ないな。そもそも家にいる時間は寝る時ぐらいだしな」


 俺はちょっと面倒だなと思いながらも質問に答える。さっきも言った通りテレビはほとんど見ることは無い。婆も俺の心を読めるのだからとうに知っているのだろう。


「ほんに寂しいやつじゃのう」

「別にいいだろ。それが今何の関係がある!?」

「ケケケ、そう怒るでない。まぁでもあまり見ないのであれば好都合なのじゃ。後で文句を言われても困るからおぉ」

「あん? どういう・・・・・」

「長々と説明してもその様子では待ち切れなさそうじゃしのう。百聞は一見に如かずなのじゃ。どうやって異世界に行くのか見せた方が早そうなのじゃ」


 そう言うといつの間にか手にしていたテレビのリモコンを俺に手渡してきた。


「取り合えず、そうじゃな。電源を入れてチャンネルを回してくれんか」


 渡されたリモコンの電源ボタンを押す。画面が映し出され内臓の録画用ハードディスクが動き出す音が聞こえてきた。

 最後につけたのが昨晩だったので音量はかなり絞ってある。壁の薄いアパートは何かと気を遣わないといけない。


 映し出された番組はどうやら歌番組のようだ。若い女性のグループが何かをうたっている。音が小さいからどんな曲かまでは分からないが流石は芸能人、特に真ん中の薄い茶色い髪でハーフっぽい顔している子は物凄く綺麗だ。


 おっと見惚れている場合ではなかった。


 俺は婆を見た。顎で違うチャンネルに回せとしゃくられた。

 続けて順番にチャンネルを回す。

 お、これは偶に観ている職人を紹介する番組だ。どうやら今日は靴職人がピックアップされているようだ。


「ほれ、そんなのは良いから次なのじゃ」


 婆に促され次のチャンネルへと変えた。


 するとだ・・・・・。


「・・・・・・・・ん?」


 これは・・・・・・・番組だろうか?


 ちょっと不思議なものが画面に映っていた。


 また別なとこにチャンネルを変える。さっきのアイドルっぽいグループが歌い終わったらしく手を振っていた。んでまたさっきのところへと戻してみる。


「・・・・・・んん?」


 先程と全く変わらない映像が画面に映っていた。しかもそれは写真の様に一切動かない。

 心なしかひんやりとした空気がながれきてるような?


 何ぞやこれ? と婆を見ると、ニヤニヤと悪戯を企てる子供のような顔をしていた。

 腹立たしい婆からか視線をまたテレビに戻す。


「・・・・・・・いやいや、待て待て待て待て」


 え・・・・もしかして、これ!?


 テレビの画面に映っているもの・・・・・それは石造りの下りの階段。

 よく遺跡だの世界遺産だので目にするような雰囲気のある階段がひたすらに画面に映っている。

 しかも何だこれ。明らかに画面から冷気が流れてきている。


 おかしい、家のテレビは何時の間に4Dにランクアップしたのだろうか?


「まさかと思うが・・・・・」


 俺が尋ねると、婆は肯定するようにうんうんと縦に頭を振った。


 っ、マジかよ!!


 どうやらこの画面に映った階段が・・・・異世界への入口のようだ。


 恐る恐ると手をテレビの画面に伸ばす。


「うっそ!?」


 画面に触れる・・・・・と思いきや、俺の手は何の障害も無くすっと画面の中に入っていってしまった。

 液晶画面は何処に行ったのやら、テレビの枠がだけが残ってぽっかりと穴が開いたような状態になっている。


 それはまるで青猫ロボットの通り抜け〇ープ。


 余りの予想外な展開に唖然としてしまった。


 テレビで転移する。婆の言動からそれは予想がついていた。


 だが、これは予想外、というよりはちょっと奇抜過ぎるだろ!!


「大きなテレビで良かったのぉ。画面が小さければ入れん所じゃったわ」


 とても満足そうに腰に手をあて体を反らす姿は一仕事を終えた満足感を存分に醸し出している。


 たしかにインチ数が小さかったら入れなかった・・・・・・て馬鹿!


「ちげぇだろ! もっと異世界転移の矜持みたいなもんあんだろうが。なんだよテレビの中に階段って、気分でねぇよ。てかテレビにする意味あんのかよ。だったらまだ押し入れの方がましじゃねぇか」

「いやここ押し入れ無いではないか」

「確かにな!!」


 良く分かんなかったがキレてみた。


 よし一度深呼吸だ。


 すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。


 うっし落ち着いたぞ。

 色々と物申したいがここは諦めよう。こいつのやる事に一々突っ込んでいたら俺の精神が疲弊して直ぐに老衰してしまう。


 何はともあれだ、異世界の道は繋がれたってことだろ。今はその事を素直に喜べばいい。


「クククク」


 笑いが漏れ出した。


 そうだ、考えれば入口など何でもいいじゃないか。常識がどうとかなど神だの異世界だのと言った時点で既に崩壊しているんだ。今更気にしたって仕方の無い事だった。

 テレビに階段? オーケーオーケーそんな方法も有さ。


「そうだ、そうだよ。これで異世界での冒険が出来るようになったんじゃないか」


 湧き立つ高揚感と期待に胸が躍り手をわきわきと動かす。

 婆が若干気持ち悪いものを見ているような顔になっているがそれも気にしない。


「そこまでテンション上げられると流石に引くのう。あとわしが言うのも何だがのう、お主の順応力はぶっ壊れてやせんか?」

「うっせ、事なかれ主義なんだよ俺は。それより、ここに入って行けば異世界なんだな?」


 自然と俺の声は弾む。

 こんなに気持ちが高ぶったのはいつ以来だろうか、初めて開発に参加したゲームが発売された時か、或いは宝くじの四等5万円が当たった時か。とにかく婆に不躾な事を言われても受け流せるくらい浮かれている。


「そうじゃな、そこを降りていけばお待ちかねの異世界が広がっておる。最初に降り立つ場所には強い魔物はおらんはずじゃが、怪我もするし下手をしたら死ぬこともあるのじゃ、じゃから十分に気を付けるとええ。ま、そうは言っても本当弱いのしかおらんから無茶な事さえしなければ大丈夫なはずじゃ」

「ああ、任せろ。俺はRPGで圧倒的にボスを屠れるようになるまで只管レベルを上げる人間だからな。低レベルでの冒険はしないさ」


 俺のプレイスタイルは敵を圧倒できるようになるまで進まない、それこそボスが雑魚と思える程に強化しまくってから先に進む。


「その世界は・・・・・・ああ、まぁその辺りは自分で見聞きして知っていった方が楽しいじゃろう。後は好きに楽しむがよかろう。そのチャンネルに合わせればいつでも向こうの世界にいけるようにしておいたのじゃ、てもう行く気満々じゃのう」


 そう言うと婆が俺をジト目で見てきた。

 俺は既に片足を階段に突っ込んだところだった。マジもんの階段だった。


「好きにしていいんだろ?」


 俺がそう言うと婆は優し気な歎息を吐くと徐に玄関へと向かい俺の靴を持って戻ってきた。


「靴ぐらいは履いていけ」

「・・・・・・おお、すまねぇ」


 割と気が利く婆に、靴も履かずに旅立とうとした俺は気恥ずかしさに頬を掻いて礼を述べた。それから軽く片手を上げ。


「んじゃ行ってくる」


 婆にそう言った。


「うむ、気を付けて楽しむのじゃ」


 婆はそれこそ孫でも見送る様に笑顔を見せる。


 俺はテレビ階段を下りて行った。


 そう言えば「ただいま」と「行ってくる」なんて言ったのは何時ぶりだろう?

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