第126話 監獄の取調で

【お知らせ ※令和3年1月28日】


 しばらく更新をお休みしていてどうもすみません。


 前に書いた部分を読み返したら、その余りのひどさに修正を加えることにしました。最初は誤字や脱字を直そうとしていただけなのですが、これがまた始めたらここもあそこもと直さないといけないのがわんさか発掘されて、気が付けば半分以上を書き直す破目になってました。その所為で新たな誤字脱字がふえているかも。


 やっぱり行き当たりばったりで勢いで書いちゃ駄目ですかね。


 そんなわけで物語の細部が殆ど変わっています。大まかなストーリーは変えていませんので続きだけ読んでいただいても問題ありませんが、主人公たちの心理描写や会話などは随所違いがあると思いますので、その辺りは気が向いたら是非読み返してみていただけるとありがたいです。


 今後とも引き続きよろしくお願いいたします。


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【とある看守】




 石造りの廊下を歩く。ここは何時でも気温が低くて寒々しい。嫁が作ってくれた綿糸のシャツが無かったら底冷えで普通にして居られないくらいだ。


「まったく何でこんな面倒臭いことになるかなぁ」


 できれば行きたくないのだが状況が状況だけに気持ち早歩きになってしまう。吐き出す溜息すらも石造りの廊下だと反響して一層気分が滅入らせる。


「全くですよ。何で僕まで呼ばれるんですか。今日はララちゃんに会いたかったのに」


 俺の後ろを後輩が苛立ちの不満を口にする。


 なるほど、こいつ朝から浮ついていると思ったらそういう訳か。

 先日給料出たから今日あそこへ行く気だったのか。ここ最近は忙しかったからな、憂さ晴らしをしたいのは分かるけど・・・・・・・・まだあの店の娘の事諦めていなかったのかよ。


「取り調べしたのお前だろうが、どっちかって言うと俺の方が巻き込まれた感じなんだがな」

「それは・・・・・まぁそうですけど。でもあの話を聞いたのは先輩じゃないですか。だったら先輩だけでも・・・」

「で、お前はあの店でお楽しみか?いいご身分だが金を使い過ぎて俺に貸してくれってくるんじゃねぇぞ」


 口を尖らせて文句を言ってくる後輩に呆れ交じりで返す。先月だって給料もらって直ぐぐらいに金貸してくれって来てたからな。こいつその内女の為に身を滅ぼしそうだ。ちょっと心配になってきた。普通の娘とだったら何にも言う気は無いのだが、何しろこいつが入れ込んでいるのは色町の娼婦の子だからな。


「お前、本気で身請けとか考えている訳じゃ無いだろうな?」


 まさかとは思いながら訊いてみた。


「・・・・・・・だったら、何ですか」


 うわ、こいつ本気だ。マジで娼婦の娘に入れ込んじまってる。


「おいおい、止めとけって。俺ら程度が払える額じゃねぇだろ。身請けなんてのは貴族や金持ちの道楽でするもんで、俺等みたいな一般小市民がするような事じゃねぇぞ」

「うっ・・・・・分かって、ますよ。分かっていますけど・・・・・でも、きっとララちゃんは僕を待っているはずです。僕が行くと彼女とてもうれしそうにしてくれるし、愚痴ってしまった時だって嫌な顔一つしないで聞いてくれるんです」

「お、おう」


 いやいや娼婦であればみんなそうだって。あまりに恍惚とした目で語るものだから俺も言葉に詰まっちまったじゃねぇか。


「・・・・・ま、まぁあれだ。無理してたらそのララちゃんって娘も困るだろうから、ほどほどにな・・」

「ん?良く分かりませんが、分かりました。ララちゃんの気持を尊重したうえで身請けできるよう頑張ります」

「お、おう。ガンバレ」


 こいつ・・・・もうダメかもしれないな。ララちゃんって娘がふってくれることを期待しておこう。


「ところで先輩」


 俺が後輩今後を祈っていると、当の後輩はあっけらかんとした顔で話題を切り出してきた。


「奴らの言っていた事って本当ですかね」


 それは今俺らが呼び出された原因の話。


「あぁ、どうだろうな。でまかせって事もあるかもしれないが・・・・・多分本当なんじゃないか。あいつらがあの場面で嘘を吐いたとしても得なんてないだろうしな。仮に逃れたいだけであれば知らぬ存ぜぬでもいい訳だし、あえて深みにはまる真似はしないだろうよ」

「まぁ、確かにそうですね。実際誘拐したって証拠はない訳ですもんね。取り敢えず騒動を起こしたから捕まえはしましたけど、知らないと言われたら何もできませんよね」


 昨日捕まった破落戸ごろつきども。そいつらが突如として出したで、現に俺と後輩は街のお偉いさんに呼ばれる事態になっているんだ。当事者の奴らだってそう言えばどうなるかは分かっている事だろう。


「敢えて誘拐に対してのリスクを被っても良いと、それだけ欲に目がくらんだのだろうよ」


 本当に迷惑なことだ。


 ここ最近は面倒な事が多すぎる。


 このタルバンの街ってのは基本的に平和だ。王都からも離れた辺境に近い地域ってのもあるが、宿場町だから集まってくるのが商人ばかりだからな。大きないざこざは滅多に起きない。

 なのに隣のノーティリカ公国と戦争が始まって、国境に比較的近いここが最終拠点になってしまったもんだから色々と大変だったり、魔物大氾濫スタンピードが発生して街は存亡の危機に陥ったりで・・・・・・・・あれ、そう言えばあの魔物は何で消えたんだ?何だか良く分からないうちに終わっちまったが・・・・・・・あぁまぁ無事だったから良いけど。


 そんなこんなで普通の看守の仕事以外に色々やらされて大変だった。


「そう言えばお前、あいつらが捕まった現場の話って聞いたか?」

「詳しくは・・・・・・でも建物が半壊状態だったって」

「あぁ壁とか天井とか半分くらい無くなっていたらしい。それと、どうやったのかは知らないがデカいテーブルが扉に突き刺さっていたって」


 これを教えてくれた現場に赴いた兵士が首を傾げていたからな。まるで大型の魔物が暴れた後のようだったと言っていた。


「はぁ、テーブルが突き刺さる?何を言っているんですかね?」


 後輩が呆れた目で俺を見てくるのだが、その気持ち分からなくもない。

 正直俺だって話を聞いたときは何を馬鹿な事をと思ったしな。


「そう言いたくなるのは分かるが、どうやら事実らしい。あくまでも状況がって話だから実施にはどうかは知らないが、それを人間がテーブルを投げてやったって言うんだったら、オーガよりも化け物じみた怪力の持ち主だろうな」

「うへぇ、の事だけでも厄介なのに、それ以上のは勘弁ですね」


 後輩が心底嫌そうな顔をした。俺も「そうだなと」と返す。


 後輩と話をしてるうちに目的地に着いてしまった。俺たちの姿を見つけた街の役人がこっちに向かって来た。


 バレないように溜息を吐きだした。



 コンコン。


「はいはい、お入りなさいなぁ」


 扉越しに聞こえてきた声に、思わず頬が引きつった。


 扉を開けると正面のソファーにすわる予想通りの顔。普段であれば俺なんかが直接話などする事の無い存在がそこにいた。


「えぇ、えぇ、お待ちしてましたよぉ。そっちに掛けてくれるかねぇ」

「し、失礼します」

「失礼しまっす」


 俺は緊張しながら進められた向かい側に座った。正面でこの街の代官であるブルゴリ・エルディンが含んだ笑みを浮かべて俺を見据えている。


 テーブルに両肘を乗せ、軽く手を組んでその上に顎を乗せている。笑ってはいるがこの部屋に入ってからずっとピリピリとした空気が漂っているのは気の所為じゃないだろう。


 何せ話が話だ。


「さてさて、貴方に来ていただいたのは他でもありません」


 そう切り出す代官。


 俺は緊張した面持ちで次の言葉を待ちながら周囲に目を向ける。


 代官の隣にはいつも腰ぎんちゃくのようについて回っている男。確か実務を熟している文官だったと思う。俺らが代官と顔を合わせるのなんざここの視察に来る年に2,3回くらい程度だが、その度にこの男も着いて来ている。基本的に所長が立ち会って回っているから俺の様な看守が、ここに代官が来たからと言って特別何かをすることは無い。だからこの文官らしき男が実際どんな役職なのかは知らない。


 まぁ知ったからと言って何か得するわけじゃないし、下っ端の俺等にはお偉いさん達の事なんざ関係ないから聞く気もないけどな。


 そしてそのまま視線を奥へと伸ばすと・・・・・・っ!


 部屋の奥で無言で佇む一人の存在に俺の息が一瞬止まる。



 ・・・・・・・キルラ・バーン。



 肩口でそろえたくすみの無い真直ぐな金髪は艶やかに彩られている。中性的な顔立ちはもはや人間として完成された別な生き物にすら思えるほど美しい。簡易的なものとはいえ鎧を着た上からでもわかるほど女性らしい体のラインは、意識しなくてもつい目が上から下へと流されてしまう。


 そんな美しき女騎士が腕を組んで壁に寄りかかり佇んでいた。


 ごくりと喉を鳴らす音。脇を見れ後輩もキルラ・バーンに見惚れて呆けていた。


 領主の懐刀であり、王国内でも屈指の剣技と身体能力を持つ剣の申し子とも言うべき存在。性格が少し難しいなって噂は良く聞くが、こうして目の当たりでみてしまうとそれが何だと思ってしまうレベルだ。


 ただ彼女、キルラ・バーンの二つ名は少々物騒なのだが。



 【剣鬼キルラ・バーン】



 【姫】では無くて【鬼】。【剣姫けんき】では無く【剣鬼けんき】。



「さてさて、話をお聞きしたいのですがねぇ」


 そんなキルラ・バーンに見惚れていると、それを見抜いてなのか薄い笑みを浮かべて代官のブルゴリが話始めた。


「時間は有用なのですよ。えぇ、えぇ、あなた方も忙しいでしょうからねぇ。私もあまり現場の方々を煩わせたくはないですから、手短に事は進めていきましょう」


 代官がテーブルの上で手をゆっくり組み合わせて前のめりに顔を寄せてくる。


 俺がこんなお偉いさんと面と向かわなくてはならない理由、それは昨日の夜貧民街でおきた騒動が原因だった。

 その時捕まえた奴らは以前から問題視されていた若者たち。なかなか尻尾を掴めないと警備兵たちが愚痴っていたのでその存在は知っていた。


 こいつらの容疑は少女の誘拐だったのだが、これが妙な事になってしまった。


 仕事上がりの兵士が帰る途中に出会ったという一人の男。その男は焦った様子で子供が誘拐されたと言ってきたらしい。

 その兵士は田舎から出てきたすんごい真面目な奴で、どこの誰かも知れないそいつの話を信じた奴は、詰所に戻って仲間を集めた。


 もともと問題視していた奴らへの牽制も含めて数人が応援に向かったらしいのだが、その現場にたどり着いたら破落戸は全員が半殺し状態で柱に縛られていた。そしてその場に上質な紙が一枚残されていた。そこに書いてあったのは『私たちは少女を誘拐しました』の文字。

 そいつらの溜まり場となっていた建物はほとんど全壊状態だったらしい。


 ただ肝心の被害にあった少女も助けに来たと思われる男もその場には今くなっていた。

 わけが分からない状況ではあるが、取り敢えず余罪を考えればそいつらを捕縛すのが最善だと、捕らえてこの監獄へと来たのだが。


 その時の取り調べがこの胃の痛い状況に繋がってしまった。


 捕まえた当初は暴れるは舐めた態度でこちらを馬鹿にしてくるはで誘拐したことを否定していたのだが、リーダー恪と思われる男が取調室の壁に貼ってあった一枚の手配書を見て態度を急変させた。


『なぁ兵士さんよぉ。あの手配書の奴の情報を与えたら俺らにも恩賞がもらえるのか?』


 小賢しい悪党さながらの笑みを浮かべたそいつは、つい最近はられたばかりの手配書を指差した。



 --ノーティリカ公国公女の捕獲--



 それは王城から出回ってきたもので、最近戦争をした相手国のお姫様を捕まえろというもの。


 なんでこいつがいきなりそんな事を言い出したのかと疑問に思いつつ一応返答をする。


『あぁ出るんじゃないか。これは中央からの依頼だからな。他の手配書よりも優先度が高いからな」


 俺がそう答えるとリーダーの男は「ほうなるほどな」と言うとにやりと笑った。そして男は続けてこう言った。



『実は俺らは誘拐じゃなく、その手配された公女様を捕まえたんだが襲撃を受けたんだよ』、と。




「・・・・・・それで特徴は何だと言っていたのかねぇ」

「歳は十代前半くらいで目を疑う様な美貌を備えた少女であったと、それと髪が見た事の無い銀色の髪だったそうです」


 代官のブルゴリの質問に答えていく。


 その間秘書官らしき男は俺たちが話している内容を一言一句漏らさず書き留めていき、キルラ・バーン興味が無いのか目を閉じたまま動く気配が無い。


「ふむ、それが本当の事であれば間違いなくステルフィア殿下でしょうなぁ。これはこれは思わぬところから有益な情報がえられましたねぇ。しかしまさか我が街に潜伏していたとは、魔獣の氾濫の撃滅と良い神の思し召しを感じずにはいられませんねぇ。それにしても態々敵国にやってくるとは、あの御姫様、復讐でも考えているのでしょうか?いやはや子供というものは極めて理解に苦しみますねぇ」


 くふくふと鼻にかかった笑いをあげる。それを見ているだけで若干気分が悪くなる。


 俺はどうにもこの辺の人種が好きになれない。


「それでそれで、まんまと逃げられて訳ですが行先は分かっているのですかねぇ。それ以外で何か情報があればいいのですが」

「居場所は分からないようです。もともと貧民街に迷い込んできたところを攫ったみたいですから・・・・・ただ、一つ居場所が分かりそうなものはあります」


 そう思いながらも仕事はしなくてはならない。俺は奴らから聞き出した情報を代官へと伝える。


「ほうほう、それは?」

「その少女を探していたという男と兵士が接触しているのですが、一つ特徴的な外見をしていまして。これは奴らも同様の証言をしているので情報としては確かだと思われます」

「外見の特徴とは?」

「そいつは夜の闇と同じをした男だったと」


 田舎から来た兵士も、捕まえた破落戸どもも口を揃えて言う男の特徴は髪が黒かったとのこと。それ以外はあまり記憶に残っていないという。それくらい平凡そうな感じだったらしい。


 あんな惨状を作り出して平凡は無いだろうと内心突っ込んでいたら、急激な悪寒に襲われる。


「黒い、髪・・・・」


 それは美しくも冷たい声。


 恐る恐る呟いた人物へと目を向けると、キルラ・バーンが閉じていた目を開いてこちらを見ていた。


「・・・・っ!」


 正にドラゴンに睨まれたオークの如く、俺は身動き一つどころか呼吸すらうまくできなくなっていた。


 おいおい何だよこれ。


 俺も散々犯罪者や破落戸を相手にしてきたが、キルラ・バーンと目があった瞬間、俺はこいつにだけは逆らってはいけないと咄嗟に悟ってしまった。こいつは人間の格自体が違い過ぎる。


 そこで初めて二つ名の事で納得がいった。



 【剣鬼キルラ・バーン】



 戦闘中身近にいる者全てを斬り殺す剣の鬼。



「黒い髪ですか。そうすると公国の近衛騎士団長ザバエが彼の姫と一緒にいるということですか。確か騎士団長は未だ消息不明になっていましたねぇ。これはこれは一筋縄ではいかなくなるかもしれませんねぇ。彼の噂は色々と訊いておりますから、まともにぶつかればキルラとて多少は苦戦するかもしれませんな」


 代官のブルゴリが顎に手を当て業とらしくキルラ・バーンに聞こえるように言うと、キルラ・バーンの眉がピクリと動く。


 俺は内心焦りが募っていく。


 こいつ何危険な挑発してやがんだよ。


「くだらない事をほざくな。ザバエとか言う騎士よりあたしの方が強いに決まっている。あれから強者の貫禄など微塵も感じなかった」


 キルラ・バーンが鼻を鳴らして組んでいた腕を解すとこちらへと近づいてくる。


「ほぉほぉ、貴方はザバエと会ったことがあるのですかな。それはそれは意外でしたねぇ」

「はん、何を言っている代官。貴殿もあってるだろう・・・・・ただ、あれは騎士と言えるかは知らんな。どう見ても物腰がそれでは無かったぞ」

「私も・・・・・・ふむ、あぁあの時ですか!確かにギルドに行ったときにいたかもしれませんねぇ、黒い髪の男が。ふむふむ、確かにあれは噂に聞く騎士団長とは思えないかんじでしたな。彼の御仁は屈強な大男だと言いますし」


 何だか俺を抜きで話が進んでいやがる。これ俺はもう帰ってもいいだろうか・・・・ていうか帰りたい。ここに来てから後輩は一切喋らないし、俺もう疲れたんだが。


 しかし、どうやら黒髪の男には思い当たる節があるようだ。黒髪、黒髪ねぇ。俺は見たことが無いな。遠方の国にそんな髪色を持っているやつらがいるとは聞くが、この街では見かけたことが無いな。


「おい、貴様。その黒髪のことを詳しく話せ」


 勝手に進んでいく話に物思いにふけっていたら、事もあろうことかキルラ・バーンが直接質問を受けてしまった。

 それだけで俺の心臓はどきんと勢いよく鼓動した。

 でもそれは恋した訳では無く単純な恐怖故。


「え、あ・・・・えっと・・・・」

「さっさと話せ・・・・・・・斬るぞ貴様」

「っ!!」


 ビビっちまってしどろもどろになっていたら、キルラ・バーンからとんでもない言葉が。それが嘘じゃないかのように殺気じみたものが肌にひりひりと感じる。

 助けを求めるように隣を見ると、後輩は顔を伏せてガタガタと震えて役に立ちそうにねぇ。


 くそ!。


「す、すみません」


 俺は必至で震える喉を動かして何とか声を出す。


 こいつ怒らせたら本当にやべぇ。


「く、黒髪の男は中肉中背だったと。顔はあまり印象に残らないのっぺりとした平凡なもので、鎧の類は身に付けていなかったそうです。武器も所持していなかったそうで、捕まえた奴らは皆素手で倒されたと。それと今までそいつを見たことは無かったそうです」


 捲し立てるように喋った。早く解放されたくて、ここから逃げたくて兎に角知っている情報は吐き出した。


「なるほどなるほど、これは確かに公国の騎士団長では無いかもしれませんねぇ。あるいはその血縁者か。何れにしてもギルドで出会った男が有力ですかな」

「・・・・・だろうね」

「それであれば早速明日はギルドへと出向いて情報を集めるとしますかな・・・・・ふむ、珍しいですな。バーン殿がそのように笑うなど」


 席を立とうとしていたブルゴリがキルラ・バーンを見てそう言った。


 俺もつられて目を向ける。



 ゾクっ!!



 背筋から体温を全て抜き取られたような悪寒が走る。





 こいつは本当に・・・・・・・・・・【鬼】かもしれない。






 金髪の美しい女性が、身の毛も弥立つ様な凶悪な笑みを浮かべていた。今まで扱ってきた犯罪者共など可愛らしいと思えるほどの。



「・・・・・笑ってる?あぁそうか。あたしは笑っているのか」

「何かおありで?」

「ふふ、いやなに、あの時あった黒髪を思い出してな」

「おやおや、しかし私が見た感じではバーン殿が楽しめるような相手には見えませんでしたがな」

「あぁそうだろうな。あたしも彼奴から強者のそれは感じなかったよ。凄みも体裁きもどれも平凡なくだらない唯の人間のそれと同じだ。だけど・・・・・・・・・」





「彼奴はきっと化け物だ。見た瞬間は分からなかったが、奴から離れた途端にあたしは全身に鳥肌がたっていたよ」




 そう言い放つキルラ・バーンはとてもいい笑顔だった。



 あぁ、早く帰ってください。

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