第127話 タルバンから脱出しろ

「・・・・・・・・・ッ!!」


 ガバッ!


 久々に仕事をした【気配察知】スキルの緊急アラームで、まだ日が昇り切らない薄暗い早朝に目を覚まし寝袋のまま跳ね起きた。


「フィア!」


 俺は真っ先にベッドで寝ている筈のフィアを確認した。


 白磁の様な白い肌に完璧な造形美、凡そ人が想像できる最大限の美を集結させた創造されたのではと思えるそれは、薄闇の中であるにも関わらず輝く銀糸に包まれていた。

 それはまるでおとぎ話に出てくる眠り姫のよう。


「うっ・・・・・・・・・・・・して・・・・・・」


 だがその表情は決して安らかなものではない。


「・・・・・悪い夢でもみているのか」


 苦しそうに寝言を口にしている。


 どうも攫われて怖い目に合った昨日から悪夢を見るようになったみたいだ。昨日も深夜うなされていた。俺に何か出来ればいいんだが、こればっかりはどうにもならない。


「危険の無いところに連れていけば落ち着くだろうか?」


 そう思ってこの国を出ようとフィアにいったんだけど・・・・・・・・・それが正しい事なのかも今更ながらまだ迷っている。


 だけどこんな子供に復讐なんてさせたくはないし放っても置けない。俺がフィアの為に出来るのはそれくらいしか思い浮かばなかった。


「・・・・せめて近くで守ってあげるくらいか」


 取り敢えずフィアに危険があった訳じゃなかった。


 部屋の中を見渡してみる。こちらも特に違和感も誰かの気配も感じない。ならば宿の中で何かあったのかとマップで確認してみるが皆寝ているようでマーカーに動きはない。唯一厨房で一人忙しなく動いているが、これはゲルヒさんの旦那さんだ。


 こっちも異常無しだな。


 特に変わったところが見つからない無いが、まだ俺の【気配察知】が危険だと訴え続けてる。


 これはもしかして・・・・・・・・・更に広範囲にマップを広げた。


「・・・・・げ!!」


 そして、予想はしてたが外で起きている事態に思わず驚きの声を上げてしまった。



 な、何だよこれ?


 マジか!



「・・・・宿の周りが包囲されてるじゃないか!」



 嘘だろとほほがヒクつく。


 俺たちが泊っている宿屋の周囲を取り囲むように多くの赤マーカーが並んでいた。


「モンスター?・・・・・・いや違う人間だ。これって・・・・・あれだよね。ちょっと早くね?」


 やっぱりこの街の管理者は優秀なのかもしれない。


「どう考えても狙いって・・・・・」


 俺はベッドで寝ているフィアへと目を向ける。


 戦争で負けた公国のお姫様。そしてこの国のロリコン王子が狙っている少女。懸賞金までかけてこの国はフィアを捜し捕まえようとしている。


 そのフィアが人攫いにあったが最悪な事態になる前に俺が助け出した。だけど俺はその誘拐犯を倒すことは出来ても殺すことは出来なかった。例え犯罪者であっても其れだけはしちゃいけないと思っているから。

 あの時の冒険者もそうだ。王都から来たという冒険者たちも。


「人攫い共の報復、じゃないよな」


 唯のチンピラたちの仕返しで来てるのなら反撃して終わるんだけど、この包囲している人たちは多分違うだろう。


 王都の冒険者か或いは人攫いからなのか、フィアの情報を得て捕まえにやってきたんだろう。


 この場所をどうやって知ったのかは疑問が・・・・・・あぁ、それは俺か。


 クァバルさんが知っていたくらいだ。噂が広まっているんだろうな。


 黒髪、珍しいって言ってたもんな。


「こうなったら逃げるしかない、か」


 流石にここに集まってきている人たちを傷つけるのは躊躇われる。唯の暴漢とかだったらいいが、きっと街の兵士とか依頼を受けた冒険者とかだろうからな。そんな人たちと戦いたくなどない。


「街道付近は完全にふさがれているな・・・・・・また屋根を走るしかないか。俺の責任だし仕方が無いか。フィア、フィア起きてくれるか」


 俺はこれから起こることに面倒臭さを感じつつ、眠るフィアの肩を揺らし起こすのだった。







「怖くないか?」

「は、はい。大丈夫です。でも・・・・・これは」


 この間と同じように屋根から屋根を飛び移っていく。フィアはお姫様だってではなくおんぶしている。


 下を覗き込んだフィアが集まっている人たちを見て困惑の声を出していた。急いでいたので起こして直ぐ何も説明しないで出てきちゃったので状況をまだ飲み込めていないんだろう。


 因みにゲルヒさんにも何も言っていない。ただ鍵だけはカウンターの上に返してきてはいる。宿代は前金で払っているので大丈夫だろうが、鍵代は戻ってこない。まぁそのくらいは良いんだけど。


 包囲しているのはやはり兵士たちだった。


「・・・・・・昨日の今日ですげぇな」


 この街のトップの無駄に迅速な対応に素直に感心してしまった。


 駄目領主とかだったら楽だったのにな、クソ!


「これは・・・・・私を捕らえに来てるのですね・・・・・・・・ごめんなさい」


 フィアが申し訳なさそうに言う。


「今更だ。気にすんな。それにこの場所がバレたのは俺の所為だし。ちょっと予定より早くなってしまったがこの街を出よう。で、このまま他国に行こうと思うんだがどこに行けばいい?」


 だけどこれは半分俺の所為なので出来るだけ明るく気にするなと伝える。それから今後の目的地を決めるのにどこに行けばいいかをフィアに訊いた。俺には国の関係性は分かんないからな。


「・・・・・・・、なら」


 しばらく考えたのち一つの国名をフィアが口にした。


 マイラス帝国・・・・・・・・・・・・・・・・帝国か。


 これは俺の勝手な先入観・・・・・というかラノベ知識なのだろうが、どうにも帝国と聞くと悪い国のイメージしか湧いてこない。

 皇帝の独裁政権で強大な軍事力を持っていて他国を侵略していく、みたいな。


 大概帝国って敵国だよな。


「マイラス帝国はノーティリカ公国の同盟国の一つで、昔から友好の深い国なんです」

「それは近いのか?」

「いえ、確か公国からですと馬車で二〇日間掛かったはずですから、ここからであれば位置的に更に離れているので三〇日くらいは」


 おいおい、馬車で三〇日って歩きで何日だい?


 俺の走りなら・・・・・・・・・一〇日もあれば付きそうな気がする。


 いやいやそんなに走り続けんの嫌だは!


「遠すぎる。他は無いのか?」

「・・・・・・・それでしたらミルウォルア共和国あたりでしょうか」

「そっちは近いのか?」

「はい、大体半分以下だと思います。ただ・・・・・・」

「ただ?」

「ミルウォルア共和国内は領国同士のいざこざが多い国ですので余り安全とは言えないかもしれません。私の国ともそして他国とも国交が殆どありませんでしたし」


 なるほど近いけど危険がある国か。ただこの国と国交がないのは評価できる。それであればフィアを無理やり捕まえようって輩はすくな・・・・・・くなるのか?もともとこの容姿の所為なきもするぞ。


 ま、まぁあれだ。この国にいるよりは良いだろう。


「良しフィア。そのミル・・・・あ~共和国を目指そうか」

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