第93話 魔法のガトリング
森の中をひた走る。だが今度はステルフィアから悲鳴は上がらない。
まだモンスターたちには追い付いていなかった。
ここまでの道中は酷い事になっていた。
仲間割れなのか動物を食い漁ったのか、ここに来る途中が血の海の惨状と貸した場所があった。流石にあれには俺もビビった。
あたり一面から漂う死肉のと血の鉄臭さに鼻が曲がりそうになった。ステルフィアもその時だけは小さな悲鳴を上げたくらいだ。
俺は走りながらどうすればこのモンスターの暴走を抑え込めるのか考えていた。
ステルフィアに「任せろ、俺が助けてやる」と宣言したのはいいが、その方法が相も変わらずのノープランだ。正直頭に血が上って恰好つけすぎてしまったと思うが後悔はしていない。それでこの子が少しでも心の負担が減るのだったらいくらでも恰好付けてやる。
まぁそれは良い。問題はどうしたらいいか、だ。
まだタルバンの街にモンスターがたどり着いていないのは分かっている。どうやら変なことになっているようだが今はそれが助かった。
俺はできうる限りの事をしようと考えている。最悪俺の能力を全開で使うのもやぶさかじゃない。
ただそれには何よりもモンスターに追いつく事が先決だ。
どうやるかはその時考えるしかない。
走っていると見覚えのある崩れた岩場が目に入った。ここはちょうど街まで半分の距離だったと思う。
魔物は恐らく丘を避けていったと思われるが、俺はショートカットの為崩れた(俺が崩した)岩場を登り反対方向へと向かう。
そして反対側の端まで来たところで足を止めた。
「・・・・いた!!」
丘の下の平野部分にそれはそれはものすごい数のモンスターたちが集まっているのを見つけた。
「・・・・・何て数・・・・・そんなこれでは」
地面に降ろしたステルフィアもそのモンスターの途方もない数を見て絶望に愕然とする。
丘の下でずらりと並ぶモンスターの大群は、決意したステルフィアに再度諦めさせるくらいとんでもないことになっていた。
俺はマップを再度詳細を確認する。
何体か
さてそれはさておき、問題はあっちの方だ。
モンスターよりも更に先、タルバンの街の手前の平原には多くのマーカーが集まっている。
その色は青。
俺の大幅アップされた視力(多分5.0は超えている)をフルに凝らして見る。
あれは・・・・鎧、兵士か。それと不揃いの装備は冒険者?
どうやらあれはモンスターを迎え撃つのに集まった人間の軍隊のようだ。モンスターの群れを察知して集められたのだろうか? もしそうであるならあのタルバンの街には優秀な指導者がいるのかもしれない。この短時間であれだけの軍勢を整えているのだから。
さてそうなると俺があの群れに突っ込んでいくことは出来なくなった。最初は肉体言語で思いっきり語り合おうかと考えていたのだが、下手したら俺が人間たちから攻撃を受けかねない。恐らく対して効かない気がするが精神的なダメージは大きい。
いやそもそも俺が戦う必要はもう無いんじゃないか?
大勢の軍勢を見てそう思ったのだが、その考えは直ぐに捨てた。
あのモンスターの中にはトロールやオーガが多数いる。
この世界の冒険者の強さを考えたら多分とんでもない数の犠牲が出てしまうことになる。それじゃあステルフィアと約束した俺が街を救うというのを守れなくなってしまう。
だったらどうするか・・・・・・・にやり。
そうだった。俺にはもう遠距離攻撃の手段があるじゃないか!
良い事思いつきにやりと笑みがこぼれる俺の隣でステルフィアがへたりと両手をついて突っ伏してしまった。もともと白い肌を生気が抜けたように蒼褪めさせて。
「そんな・・・・こんなのどうしようもないじゃない。また私に地獄を見せるのですか!・・・・・・・女神様はどれだけ私たちに試練をお与えになるおつもりですか!!」
悔しさにその美しい顔を歪めて女神を非難するステルフィア。
女神だったらきっとこの光景を煎餅かじりながら見ているんじゃないだろうか。あの
ステルフィアが顔を上げた。今にも死んでしまいそうな目でじっと俺を見つめる。
まぁ言いたいことは分かる。「助けて」と頼んでしまった事を後悔しているのかもしれない。
普通に考えたらこの状況で「助けて」は「死んでくれ」と同義だろうな。あれだけのモンスターの大群だから普通に考えたらどうしようもない。向こうにいる軍隊だって今までのこの世界の人たちのステータスを考えると、その数では到底このモンスターを倒しきれると思えないしな。その事をステルフィアは察しているのかもしれない。
だがそこは人知れず人類最強になってしまった俺だ。ここは何とかなると思っている。ばらけられたら苦労しただろうが、こう固まっていてくれるなら手が無い訳じゃない。
ステルフィアの頭をポンポンと撫でる。
ステルフィアは俺の突然の暴挙にキョトンとしている。
ついやってしまったがこれってセクハラじゃないだろうかと、ちっさい不安を押し殺し丘の端っこギリギリに立つ。
さてやるか。
ジョブチェンジ【魔術師】。
魔法の試し打ちをしている時に気付いたことがある。
それは俺の魔法にはリキャストタイムが設定されていない、と言う事だ。
それが何だという話になるのだが、実はこれは非常に大きなアドバンテージとなってくる。魔法を放ってリキャストタイムが無ければ、魔法を何回でも連射して放てるということになる。これは例えゲームであっても非常に有利なことで、先ずバランスを保つうえで開発側としては必ず制限を掛けて作成する。しかもこの世界の魔術師はクラリアンさんを見る限り詠唱をして更に魔法陣を描くという、かなりの発動時間が掛かっている。
だが俺の魔法はワンクリックで発動する。
そう、発動時間がほぼほぼノータイムに近く、しかも俺のクリック速度に応じて連射されるというとんでもないチート仕様になっているのだ。
更にスキルの中には魔法を強化するものが含まれている。
【多重起動Lv1】と【魔力調整】だ。
【多重起動Lv1】は魔法を複数同時に放てるスキルで、Lv1の俺は同時に10個まで打つことが出来た。更に【魔力調整】は魔法の強さを魔力の量で変えることが出来るスキル。この二つを組み合わせると、通常よりも高威力の魔法を同時に10個放つことができ、さらにリキャストタイムが無いのでそれを連射して撃つことが可能となる。
んでもって、それを【水魔法】【鋼水の礫】で使用をすると、ただでさえ多数出てくる硬質な水の礫が更にとんでもない雨嵐となって降り注ぐ、正に魔法のガトリングので出来上がりとなる訳だ。
「なぁ君」
俺はステルフィアに呼びかける。ステルフィアが大きな瞳で俺を捉える。
「これから見ることは秘密にしておいてくれ。その代わり君の望み通り助けてあげるから」
「・・・・・・出来る、の?」
「あぁ出来る(多分)。でもそれは少しばかり特殊な方法なんでね。俺がそれを出来ると知られるのはあんまり好ましく無いんだよ」
気分が乗ってきた俺は尊大にそう言い放つと、ステルフィアは「願ってもいいのですか」と涙目で懇願してくる。
にやりと笑って「任せろ」と言親指を立てると視線をモンスターどもに戻した。
美少女からのお願いだ。いっちょやっちゃるで~。
「これでも食らいやがれ!!」
バッと手を前に突き出し出してスキルと魔法を発動させる。この動作はいらないのだが気分が乗っているのでやってみた。この方がなんか凄いことをしそうだって思わせられる。
スキル【多重起動Lv1】対象【水魔法】【鋼水の礫】
スキル【魔力調整】最大
スキルを発動後ショートカットをクリック。10個の魔法陣が空中に即座に現れると、乾いた炸裂音とともに幾多もの水の弾丸が飛び出していった。しかも一粒一粒がサッカーボールの大きさくらいにデカい。
水の弾丸は慣性の法則を無視した勢いと軌道で真直ぐモンスターの群れへと飛んでいく。本物の銃弾と違わぬ速度で飛ぶサッカーボール大の水の礫は音を置き去りにし着弾。そしてモンスターと地面を粉砕した後轟音と振動が届いてきた。
その威力は絶大だ。今の一回の発射だけで数十のモンスターが消え去った。正直撃っておいて何だがドン引きだ。
だが効果絶大だと言うのであれば好都合。これならいけると確信した俺は次々と魔法のショートカットを連射していった。
気分的には俺の親世代に流行ったという名人の16連射をイメージしていたのだが、念じてクリックするスピードはそこまで連射出来なかった。精々秒間5回が限界か。だがそれでも視界が水の礫で埋め尽くされるくらいの数が放たれている。
テケテケテッテッテー♪
レベルが上がりました
頭がねじ切れそうになるほど連射を次々繰り返す。膨大な量の魔法が飛び出していく。辺り一面が空爆でも受けたように砂埃が立ち上る。
「あはははははははははは、まるでモンスターがゴミクズのようだ!!」
ついつい某天空アニメの名ゼリフの改良版が口から漏れ出していた。
隣で無言になったステルフィアが埴輪の様な顔をしているのにそれでも可愛いという奇跡を起こしているが、それも気にならないくらいに気分が高まる。
オラオラオラオラ、と次々に魔法を放っては左右にスイング。
テケテケテッテッテー♪
レベルが上がりました
スキル【多重起動】のレベルが上がりました
モンスターの群れの端から端までを流し打ちするのをひたすら繰り返す。
恐らく数分の事だったのだろうが、俺はとうとうMPがゼロになってしまった。
すると突如物凄い気持ち悪さと眩暈が襲ってきた。
その余りのきつさと立っていられないほどの眩暈に轟沈。その場で四つん這い崩れると嗚咽を繰り返す羽目となってしまった。
教訓:MPは使い切ってはいけません。
この日、俺は新しい心の箍を作った。
そして後々に未だ終わっていなかった厨二の業の深さに身もだえする羽目にもなってしまった。
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