第54話 新人討伐研修9
ホブゴブリンはゴブリンのでっかいバージョンだった。
端的に言えばそれぐらいの差しかない程度の存在で、その分力は強いんだろうが脅威とまではいかなそうだ。ゴブリンキングみたいな威圧感もマッチョ感もない。ジョシュアンさん達が戦っているところを見る限り危険は少ないだろう。
ホブゴブリンの1体がこっちに向かってきている。
6体の群れでやってきたホブゴブリン。ジョシュアンさん達は1体も通す気はなかったみたいだが、一斉に攻められては全てを防ぎようがなかったみたいだ。
2体のホブゴブリンがジョシュアンさん達を突破して新人たちがいる後方に。そのうちの1体は5人組と戦闘となったのだが、もう1体とはこちらで戦闘になりそうだ。
ミラニラさんが援護をしに向かってきているのが見えた。
「来るよ、3人とも」
俺の呼びかけに3人は剣を構えるも、怯えた子犬の様な目を向けてくる。
ゴブリンが10歳の子供くらいの大きさだとしたらホブゴブリンは成人男性くらいの大きさがある。トバル少年たちからしたら十分に恐怖の対象だろう。でもここでビビってしまったらトバル少年たちは成長できないので、やはりここでは彼らにがんばってもらうのが一番いいだろう。なので「大丈夫だ」と力強く彼らを後押しする。
ホブゴブリンが間近に迫ってきたところでトバル少年がやっと重い腰を上げて斬りかかっていった。だが及び腰なのか今一威勢がなかった為ホブゴブリンに軽く剣を躱されてしまう。そしてホブゴブリンはお前は相手じゃないと言わんばかりにトバル少年を袖振り一つで突き飛ばしてしまった。
どうやらホブゴブリンの狙いはカツリィのようだ。
弱そうと思ってか或いはただの女好きか、多分開拓村の時のことを考えれば後者の様な気がするが、ホブゴブリンは興奮に唾液を迸らせがらカツリィへと猛進する。狙われているカツリィは顔を蒼褪めさせて委縮してしまっていた。
ふむ、これはちょっといただけないぞ。
このままではカツリィが可哀想なことになってしまいそうなので、俺はホブゴブリンの前に躍り出る。そしてホブゴブリンの前の地面を踏み抜いた。
直接攻撃すると間違って倒してしまうかもしれないのでちょっとした威嚇・・・・・・・・・・・のつもりだったのだが。
ドゴン!!
鼓膜が痛くなる轟音とともに地面が陥没し爆発したかのように土が弾けた。
「ぶほぉ」
散弾銃の如く顔面を打ち付ける土が鼻に入り俺はむせ返る。
ホブゴブリンも俺同様土の襲撃に吹っ飛ばされて地面でのたまっている。やり過ぎたと庇ったカツリィが無事か振り返ると、どうやら俺の陰にはいっていたから無傷だったようだが、決して女の子がしてはいけない顔をしていたのでさっと目を逸らした。
ちょっと強く地面を踏み抜き過ぎたようだ。地面が直径3mほど陥没してしまっている。しかもの円周上は押し出された土で盛り上がっていて、さながら小規模なクレーターだ。
「・・・・ほら気合入れて。ホブゴブリンなんてただのでっかいゴブリンだから、みんなさっきまでの戦いを思い出せば問題なく倒せるよ」
過ってやり過ぎてしまった失敗を隠すべく冷静さを装ってトバル少年たちを鼓舞する。
唖然としていたトバル少年がはっとしたように跳ね起きるとホブゴブリンへと突貫していった。
思い切りは良いいのだが少々無鉄砲が過ぎる。トバル少年はもう少し慎重にならないと大けがしそうなので後で注意しようと心に決める。
トバル少年はホブゴブリンの側面に回り込み横なぎの一閃を放った。まだ動きにぎこちなさはあるが今度のは力の乗った良い攻撃だった。どうやらトバル少年の委縮は吹っ切れたようだ。
だがそれを黙って受けるホブゴブリンではなかった。よろめきながらも棍棒でトバル少年の剣を受け止める。木と鉄のぶつかる鈍い音が消えるか否かで、カツリィが反対側からホブゴブリンの膝裏に刃を走らせる。トバル少年以上に躊躇いが無かった。きっと自分が狙われているのを分かって必死になっているのだろう。
カツリィの刃に一筋の傷が刻まれもそれだけだった。小柄で華奢なカツリィでは非力なうえに体重が軽いから致命傷にはならないみたいだ。
さすがにゴブリンよりは固い。
だが狙いどころは良かったようで、筋を痛めたのかホブゴブリンはバランスを崩して地面に膝をつく。
そこに待っていたとばかりにぽっちゃり君が「ひぃ」と情けない声を出しながらも背後から重量級の体重で文字通り重い一撃を食らわせた。
「ギギャギャ!」
ホブゴブリンもこれにはたまらず悲鳴を上げ地面に垂れ伏した。
トバル少年がガッツポーズをとる中、俺はホブゴブリンに向かって駆けだした。
確認もしないで油断するのは愚策だ。
倒したと喜ぶ彼らに影がさす。
振り返るトバル少年の眼が恐怖に揺れる。
目の前に腕を振り上げたホブゴブリン。トバル少年は反射的に上げた剣で何とか受けるも、ぽっちゃり君を巻き込んで弾き飛ばされてしまう。
「う、ぐっ」
「うわあぁぁ」
地面に転がり倒れる二人。一転したピンチにカツリィは呆然自失に棒立ちになる。そこに嬉々として襲い来るホブゴブリン。
「カ、カツリィ、逃げて!」
「カツリィちゃん!!」
カツリィのピンチに少年二人が叫ぶ。
ホブゴブリンは然もそれが自分への喝采であるかの如く、醜い顔の口元を微笑むように吊り上げる。
「きゃぁぁぁ!」
ホブゴブリンがカツリィを貪らんと腕を伸ばす。
如何にも臭いそうな汚い爪が迫ると、カツリィはたまらずに悲鳴を上げ、悲壮にくれるトバル少年とぽっちゃり君。これから起こる惨劇に誰もが目を伏せた。
「まぁ、そんな事させないけどな」
カツリィの眼前でホブゴブリンの手がピタリと止まる。
俺がホブゴブリンの首根っこを後ろから鷲掴みにしているからだ。
カツリィは涙を貯めた恨めしそうな眼を俺へと向けてきた。もっと早く助けろと言いたげだ。
それだと彼らの訓練にならないと思ってギリギリまで見ていたんだんだが、さすがにこれは女の子にはちょっときつかったかもしれない。
取り敢えずこいつを一旦遠ざけておこう。
ゴブリンの時と同じようにホブゴブリンをポイっと投げ捨てる。ゴブリンよりも体が大きいが特に問題なかった。
丁度ホブゴブリンを投げた先の木々の間からこちらを見ているミラニラさんと目が合った。
ミラニラさんの可愛い両眉がくっつきそうなくらいによっていたので、これはまた「ばっちい男」呼ばわりされそうだ。
それからはトバル少年たちも落ち着いたのか危なげなく戦えるようになったので、周りの状況に意識を向ける。
”片翼の獅子”は複数のホブゴブリンを巧みに相手取ってる。
ジョシュアンさんがホブゴブリンの棍棒を柔らかく剣でいなしてから踏み込み脇腹をスパリと切り裂く。痛みに暴れるホブゴブリンからジョシュアンさんがバックステップで退くと、ドランゴさんが交代するように飛び込んできてシールドバッシュを食らわせる。
別なホブゴブリンが背後から二人に近づくが、それをいつの間にか戻っていたミラニラさんが矢で狙撃し、振り返りざまのジョシュアンさんが剣で胴をバッサリと切り裂いた。
これが連携した戦いだと言わんばかりのジョシュアンたち中堅冒険者は、その経験と力を遺憾なく見せつけてくれる。
そんな彼らの戦いを見ていた俺は首を訝しげていた。
今日1日行動を共にして思った事がある・・・・・・・・エリートと呼ばれる割には弱くないだろうか、と。
確かに彼らの戦い方は上手いとは思う。俺ではできない洗練されたもだしトバル少年たちとは比べるまでもない。
でも思う。
あれ、そんなもん、と。
今戦っているい相手はホブゴブリンだ。俺のレベルはまだ12しかないがそれでもこいつら相手では多分傷すら追わないだろう。しかもパンチ一発で死ぬ脆弱さだ。ナイフで斬ったら死ぬ。蹴りを入れても死ぬ。だからトバル少年たちの練習のためにと殺さないようにするのに苦労するほどだ。
だがジョシュアンさんたちは違う。苦戦している訳ではないが楽勝って感じでもない。
今だ魔術師であるクラリアンさんが何もせずに見守ているだけなので余裕はあるのだろうが、それでも一撃で倒せているわけじゃない。
もしかしたらこの世界の戦闘力の基準て思ったよりも低いのかもしれない。
ということはもしかして、俺ってチートなのだろうか?
神さんから加護をもらったとき確かいきなり強くはできないって言われた気がする。それに俺がもらったのはこの世界をゲームのようにするものであって決して人外な戦闘力ではない。確かに色々と普通とは違そうな部分はあるんだが最初はスライムにも苦労する弱さだった。
これは帰ってから神さんに聞くことがまた増えてしまったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。