第55話 新人討伐研修10

「お前・・・・・出口待ち伏せタイプなの?」


 突如背後から現れたに対する驚きと、近づかれている事に全く気が付くことができなかった自分の鈍さに、それをげ八つ当たり的な嫌味をぶつける。


 バキリと木々の折れる音に振り返ってみれば3メートルを超す巨体であるそれ、がホブゴブリンとの戦いの場に乱入してきた。


 状況的に有利になって油断していたとはいえ、ここまで接近さるまで全く気が付かないなんて、いったい俺の【気配察知】のスキルは何をしているん・・・・・・・・・て、あ!


 もしかしてと思ってメニューを開けば案の定職業が【商人】のままになっている。



職業:商人


スキル

【システムメニュー】【鑑定眼Lv1】【創造Lv1】【交渉Lv1】【社交Lv1】New



 やっぱりだ、スキルに【気配察知】が無い。


 迂闊な自分に落胆するが今はそれどころではない。この目の前のボスキャラをどうにかしておかないといけない。ジョシュアンさんやトバル少年たちは自分たちの戦いに集中していてまだ気づいていない。


 どうしようか、俺がやらないといけないだろうか。そうなると倒した後のことを見られて説明するのが面倒になるんだが、ホブゴブリンと戦っている彼らを見る限りゴブリンキングは流石に放置できない。それに今ならみんなとは離れているしゴブリンキングも木の陰になっているからバレない可能性が高い。


「リスクを負うけどそれが一番かな」


 今の俺ならゴブリンキングなど一発殴って終わりだ。見つかる前にちゃっちゃと始末できる。


 うん、それがいいと、殴りかかるのに拳を構えた・・・・・・その時だった。


「馬鹿! 何やってんのよ、あんた。早く逃げなさい!」


 叫び声と同時にゴブリンキングの肩にトストスと2本の矢が突如生える。そのことに唖然としてしまった俺は突然の激痛に暴れたゴブリンキングの腕で派手に吹き飛ばされてしまった。


「くっ、このぉ!」


 地面を数度転がる俺に駆け寄りながらミラニラさんが2本の矢を同時に射った。狙いはゴブリンキングの頭部と喉元。曲芸の様な撃ち方で正確に飛んでいく矢はそのままゴブリンキングを仕留めるかと思ったが、それは丸太の様なゴブリンキングの腕に阻まれてしまった。


 さて、これはちょっと面倒になってしまった。


「あんた、大丈夫?!」

「あ、はい、大丈夫です」


 ミラニラさんが俺の安否を確認し、大丈夫と答えた俺に安堵するも直ぐに意識をゴブリンキングへと向けなおす。


「・・・・ばか、な」

「ゴブリンキング、うそ!?」


 ミラニラさんが叫んだことでどうやら皆にゴブリンキングの事が気付かれてしまったようだ。ジョシュアンさんが驚愕しクラリアンさんが信じられないと口元を覆う。


 さてこうなってしまっては極秘裏に始末することは出来なくなってしまった。

 選択肢としては俺の不思議現象をバラスのを覚悟で堂々とゴブリンキングを倒すか、さっきまでと同じように補助だけして誰かに倒させるかのどちらかになる。

 いっそのこと派手に倒してしまって目立ってみるのもいいかもしれないと思ったのが、それはやめることにした。

 下手に目立って異世界冒険を楽しめなくなるのは嫌だ。


 そうなると誰かにゴブリンキングを倒させないといけないのだが、今回ばかりは危険が伴いそうなのでそれはそれで気が引ける。


 などとどうしたものかと思案に暮れていると、ゴブリンキングが闘争心剥き出しいこちらに向かってきていた。どうやら大分ご立腹のようだ。もしかしたら矢を射ったのが俺だと思っているのかもしれない。


 どっかの木の引き抜いてきたのかしらないが、恐ろしくデカい木の幹をまるで拾った枝を振るう様にゴブリンキングが俺に叩きつけてくる。


 バックステップでそれを難なく躱すが砕けた地面がビシビシと顔に当たって地味に痛い。


「ハルさん!」

「おっちゃん!」


 どうやら下がった場所はカツリィとトバル少年がいる場所だったようだ。トバル少年たちは何とかホブゴブリンを倒せたようで肩で荒い息をしていた。少し目を離してしまったが目立ったけがは無いみたいでほっとした。


「クラリアン!」

「分かっているわよ! ミラ、それと貴方、そいつをどうにかして引き離しなさい。魔法を放つわ」


 だがまだホブゴブリンは全て倒されたわけじゃない。そこでのゴブリンキングとの挟み撃ちに焦りを含ませたジョシュアンさんが仲間である魔術師の名を叫ぶ。


 そしてクラリアンさんの答えに俺は反応した。



 っ、魔法!


 

 クラリアンさんは目を閉じて両手を広げる。身体の周囲にそれっぽいエフェクトがかかりだし、魔法使いっぽいマントがハタハタと揺れだした。


 凄い、幻想的で実にカッコいい。


 システムエンジニア、と言うよりはゲームに携わるクリエーターの一人としての血が疼く光景に、しばし見入ってしまいそうになる。とはいえ今はやらないといけないことがあるので、まずはそっちを何とかしよう。

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