第39話 神さんでも予想外?
警察官が来るまで三十分とかからなかった。そう言えば駅に派出所があったな。
警察官は当初俺と盗撮男とどっちが犯人か分からなかったようで困惑していたのだが、呼んでくれたサラリーマンの人が説明してくれて、ちゃんと盗撮男を逮捕してくれた。
ここでも顔面格差を感じるとは。
んで、俺はちびっとではあるけど、腹を刺されていたので病院へとパトカーで搬送されてしまった。
病院に着くと連絡を受けてた医師と看護師さん達が仰々しいストレッチャーを用意して待機していた。たかだか針が刺さった程度の傷でそれは恥ずかしいので固辞したのだが、無理矢理載せられ運ばれることに。
いくつか検査を受けて消毒とガーゼを貼られて治療は終了。その際こんなに大げさじゃなくてもと言ったのだが、医者から怖いのは肝炎や破傷風などの感染症だと言われて納得した。
それから待っていた警察に簡単な聴取をされたけど、詳しくは明日又来てくれと警察官に言われ、やっと長い拘束から解放されることとなった。
そのころには深夜になっていた。
相手の素姓も分かって、会社近くの高校の生徒だったらしく、今朝の盗撮イケメンとやっぱり同一人物だった。それが原因でどうも俺は狙われたらしい。
詳しくは教えてもらえなかったが、あの時の被害女性が被害届を出さなかったらしくて、取り敢えずの示談みたいな形になったのだとか。
ただその時見ていた人たちも多かったので、噂は瞬く間に広まり、学校からも停学処分を言い渡され、結果逆恨みした彼はその原因となった俺を待ち伏せして襲撃に及んだのだと。
最近の若者は切れやすいと言うが、本当だな。
今回は流石に傷害事件なので示談は無いだろう。
なんだかんだで疲れた一日だった。自宅に着いた時には日付が変わっていた。
「ただいまぁ・・・・」
「おかえり、なのじゃ?」
俺の帰りましたコールに「ん」と首を傾げる神さん。
「何じゃ。随分と冴えない顔・・・・・・はいつものことじゃな」
「余計なお世話だ!色々とあったんだよ。もうホント疲れた」
どかどかと部屋に入る。
あ、弁当とか大丈夫かな? 随分と時間たってるけど腐って無いよね。
うぅん、面倒だな、取り合えずレジ袋のままアイテムボックスに収納しておこう。これ外でも使えたら便利なのになぁ。
「一昨日の異世界から帰って来たときもそんな感じじゃったのう」
「一昨日の異世界? ・・・・・・・・・あぁ、確かに同じかもしれない」
襲われ、戦って、変態に誤解されて、こんな災難に数日で二回もあうなんて、ホントついていない。
がっくり肩を落としてたら、神さんが何があったと訊いてきたので、ざっくりと今日の出来事を説明した。
・・・・・・・・・・・そしたら。
「ウケケケケ、げぇふ、げ、げ、ふはぁ、く、ケケケケケ、それは傑作じゃのう!ほんにお主は面白い星の下におるようじゃな」
などと腹を抱えて爆笑されてしまった。それはそれは死にそうなほどに。
俺もこれが人ごとだったら笑えたかもしれないが、はた自分の身に起きた事となると笑えるどころか呪われている気分だ。
それはそれとして、
「神さんて俺のことテレビで見てたんじゃないのか?」
「ケケケケ、うひぃ・・・・ん?あぁそれか。それで見れるのは異世界、というよりはわしが管理している世界のみじゃ。ここは別な神が管理しておる世界じゃからな、いくら女神のわしでもそうそう好きにはできんのじゃよ」
「へぇ、そんなもんなのか。神と言っても万能じゃないんだな」
神などと言うから何でも出来るもんだと思っていたけど、意外と制限も多いのかも。
「その通りじゃな。神とて全てが自由ではない。わしらにはわしらなりの掟や縛りがあるのじゃよ」
「なるほどね」
腰をおろし、ちゃぶ台のお茶請けから煎餅を頬張る。唐辛子がピリッとアクセントになっている煎餅は、なかなか後を引く美味しさだった。これは何処で買ってきたものなんだろうか?
神さんと話をしながら煎餅を齧って和んでいると、今日の出来事で大事な事を訊いていないのを思い出した。
「そうだ、これを訊こうと思ていたんだよ」
スマホを取り出して今日稼働させたMMOにログインをする。
「これ、これは一体どういうことなんだ!?」
スマホの画面を神さんに見せる。神さんがそれを覗き込んだ。
俺が見せたのは今日作成したキャラクターのステータス画面だ。何故だか異世界での俺のステータスとそっくりそのままの数値が出ている。しかも職業がシステムエンジニアになっているし。
そもそも開発したゲームにシステムエンジニアなどという職業は入れた覚えが無い。
神さんが「ん~」と首を傾げる。
あれ?
もしかしてこれって神さんも予想外?
そう考えていたら神さんがこっちを見てきた。何だか梅干しみたいな顔をしている。
「・・・・・・・・いいんじゃ、ない?」
「何がだよ!」
思いっきりつっこむ。
「そもそもこれって神さんがやったんじゃないのかよ」
「うぅん、どうなのかのう? わしとしてはそんなつもりは無かったのじゃが、お主のゲームに合わせると意識したから、もしかしたらその所為かのう?」
腕を組んで不思議そうにする神さん。どうやら神さんでも想定外だったらしい。
「こ、これって、なんか拙い事になんないよな?」
そんな神さんを見ていたら物凄く不安になった俺は、問題無いかどうか問い質した。すると神さんは眉尻を下げてお茶を一口啜ってから口を開いた。
「分からん」
「おい!!」
「仕方ないじゃろう。分からんものは分からんのじゃ」
子供か、とつっこみたい言い訳をする神さん。
「これって、どう考えても異世界での俺とリンクしてるよな」
こんな数字が一致する事なんて偶然では絶対あり得ない事だ。
「うぅん、そう・・・・じゃろうな」
煮え切らない返事を返す神さんは、何かを考えていた。
「恐らくなのじゃが、向こうで成長したお主のデータがここに入ってきているの間違い無いと思うのじゃ。そうなるとじゃ・・・・このゲームの中で成長したのも現実のお主に影響するのかもしれんのじゃ」
「・・・・・・・・どゆこと?」
「つまりじゃ、ゲームでレベルが上がればお主のレベルも上がる、という事じゃな」
相互リンクってこと?
おお、それは便利。益々ゲーム感覚が強くなってきたぞ。
神さんの話に俺は喜んでいたら、神さんは急に難しい顔をして「じゃがな」と話を続けた。
「仮にゲームの中で死んだ場合、現実のお主がどうなってしまうかが分からんというのは不安なのじゃ。そればっかりは試してみんと分からんのう。どれちとゲームで死んでみよ」
・・・・・・・・は?
何かな、ゲームでキャラが死ぬと、現実の俺も死ぬかもしれない、みたいな感じ?
で、それは試してみないとわかんないと。
試せるかよ!!
「そんな怖ぇこと言われてできっかよ!!てか、なんだそれは。ゲームで死んだら俺も死ぬとかありえないだろ。取り消せ、そんな機能要らない」
「まぁそうかもしれんてだけの話じゃ」
「いや、そんな簡単な話じゃねぇし」
「そもそももう加護を与えた後じゃからどうしようもないのじゃ。そんなに怖いんじゃったらゲームをやらなければよい。そうすれば死ぬことは無いじゃろ。まぁあくまでも仮定の話なのじゃ。ただ死とは別でデータが消える、或いはゲームがつまらなくて終わってしまったとしても、それがお主へフィードバックされることは無いのじゃ。多分リンクが繋がっているのはそのキャラクターの概念がお主との結びつきが強いからなのじゃ。だから全く別なデータになってしまえばもうリンクはつながらないのじゃ」
あぁ・・・・・・・・どういう事?
つまりはあれか、これが俺のテストデータで籠を持つ前から使用していたから、そこに神さんの加護が関与してしまったって事か。で、データを消してしまえばそれも無くなると。そうなるとゲームでいくらレベルアップをしようと、ましてや死んでも関係は無い、か。
「それはそれで勿体ない気がする。てかつまらなく無い。終るなんて不吉な事を言うな」
「お主も大概よのぉ」
神さんに呆れられた。
だがゲームでレベルアップはおいしい。向こうでレベル上げるには痛い事もあるし疲れるし服もよく駄目にする。そう考えるとゲームでレベルを上げられるのは物凄くメリットがある。
死の回避は安全マージンをしっかりとれば大丈夫だろう。
でも待て、寝落ちしててやられて死ぬなんて・・・・・・有りそうでヤバいわ。
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