第40話 フラグを立ててしまった
予想外の新機能を得てしまった。
神さんは消したければ消せるって言ったが、便利そうだったので取り合えずそのままにしておくことにした。
ただゲームの中だからといって無茶は絶対に出来ない仕様なので、そこは十分に気を付けよう。
そんな訳で今日も異世界にはいかずにスマホでゲームに興ずる。
ただこれは半分仕事半分趣味みたいな部分もあるのだが。
神さんもどうなのか良く分からないみたいだから、今日のところは無理せず安全マージンを取ってレベル上げだけをしてみた。結果レベルが9から12にまで上げることが出来た。
「なぁ、神さん」
スマホを弄りながら話かける。もう夜中の3時過ぎだと言うのに、神さんはテレビを見ていた。
こんな時間も番組ってやってるもんだな。
「ん? なんじゃ」
「神さんて、寝ないの?」
何だかんだで居ついている神さんだけど、寝ているところを見た事がないんだよな。夜いない事も多いし。
すると、俺の何気ない質問に神さんは驚き、そして何やら難しい顔をした。
「・・・・・・お主」
心なしか神さんが赤い顔をして俺をジッと見つめる。
何だ?
「わしと寝たいのか?」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
「はぁぁぁぁぁ、何言ってんだよ、ちげぇよ、そういう意味じゃねぇよ」
マジビビるわ。何言いだすんだ・・・・・あぁ気分が悪くなってきた。本気でやめて。
突飛な事を言い出した神さんに思わずベッドの上に立ち上がってしまった。
・・・・・・・・!!
ぐぁぁぁぁぁ、ちょっと想像してしまったぁぁぁぁ。
「うぬう、そこまで・・・・・・失礼なやつじゃのぉ。あと想像するでないわ、その思考迄わしに届いてこっちも恥ずかしい」
「・・・・・・・・」
「ま、冗談じゃよ。わしが寝るか寝ないかかのぉ。正直に答えればどっちでも構わん、てところじゃろうかのぉ。寝たくなれば寝るし、寝なくても何の支障もないしのぉ。ただこっちにいる時は楽しいものがいっぱいあるもんじゃから、寝ようとは思わんな」
そ、そうですか。
「で、そんな質問をして何になるのじゃ?」
「・・・・・ちょっとした疑問?」
「・・・・・・何とくだらん」
確かに。
とても無駄でダメージの大きい質問をしてしまった。
寝よう。
「先輩、今日は上がりっすか?」
会社を出ようとしたところで加藤が声を掛けてきた。手にはいっぱいのお菓子を抱えている。その様子では加藤は今日は泊まりだろうか。
「ちょっとな、昨日の事で警察に行かないといけないんだよ」
盗撮イケメンの件で呼ばれている。
「あぁ、大変っすね。変に下心出して女子高生に手を出すからっすよ。あ、でもその子綺麗だったんすよね。なら仕方無いっすかぁ」
「変な言い掛かりはやめてくれ、唯でさえ逆恨みの強襲を受けてこんな状態なんだ、これ以上おかしな展開になりたくない」
「おかしな展開っすか?」
そう言って加藤が何やら考え始め、ニヤリと笑う。
「その女子高生に手を出して先輩が捕まるとか、すかねぇ」
「止めてくれ。そもそも俺にそんな度胸も気概もないよ」
加藤は「ですよね」とか言いながら笑っているが、加藤の言葉に不吉な予感しかしない。
こいつのこういったフラグ臭い話をした時は、大抵ろくなことにならないんだ。昨日の一件だって加藤がトラブル起きそうだって言ったからだと俺は思っているし。
なのにこいつは女子高生を絡ませる発言をしてきた。
確かにあの女子高生は恐ろしいほど可愛い子ではあったのだけど、それとこれとは話は別だ。あんな存在が絡んできては、どんなトラブルに巻き込まれるか分かったものじゃ無い。
ブルル!
うう、ちょっと想像しただけで碌でもない未来に身震いしてしまった。
警察署なんて初めて入ったな。何故だろう、悪いことしていないのに後ろめたい気持ちになるのは。
指定された最寄の警察署までやってきた。
ドラマとか違って警察署の中って結構静かで、働いている人を見ていると役所とかと雰囲気が似ているような気がする。
もっと怒号が飛び交っているかと思っていた。
入って直ぐの所で案内受付があったので、昨日の担当してくれた警察官を呼んでもらう。
約束もしていたのでちゃんと署内にいたらしく、担当警官は直ぐにやってきてくれた。
「お忙しい所ご足労頂いてすみません」
丁寧にあいさつを受け署内のとある一室へと案内された。
部屋の中はがらんとしていて、長テーブルとパイプ椅子だけがある、とても殺風景な部屋。小会議室かなんかだろうか?
てっきり取調室みたいな所でやると思っていたんだけど、イメージと違って普通、だな。
少しがっかりしてしまった。
「では先ずはこちらの書類からお願いしてもよろしいですか」
手続きの為の書類を何枚か出された。それを一つ一つ目をお通していくのだけど、どうしてこうお役所的な所は書類が好きなんだろうか、やたらと似た内容のものが何枚かあるぞ。
面倒だなと思いながらも、文句を言っても仕方が無いのでそれらに記入していく。あれ、住所ってなんだったけ?滅多に書く事なんてないから度忘れした。
一通り書き終えたところで調書の作成が始まった。
簡単に俺から話を聞いた後、これでどうですかと一枚の紙が出された。やたら早くないかと思ったら、どうも事前に書上げていた調書みたいで、今回は確認を兼ねて話を聞いているようだ。多少の食い違いはあるけど問題になるようなものでは無く、それでいいと警察官に伝える。
警察も色々と面倒だ。
あらかた終わったとホッと一息入れたころで、部屋の扉がノックされた。
「あ、すみません。ちょっと失礼しますね」
警察官が外に出て誰かと話、ほどなくして警察官が戻ってくる。「結城さん、会って欲しい人がいるのですがいいですか?」と言われた。
「会って欲しい人ですか?・・・・・・・え、もしかして犯人、では無いですよね?」
「いえいえ、流石にそれは無いですよ。会って欲しいと言うよりは、その人が会いたいといっておりまして、出来ればいいのですがお願いできないでしょうか」
何だか意味深に言ってくる警察官に、俺は「はぁ」と気の無い返事を返す。
俺に会いたい人?
う~ん、誰だろう。今回の関係者?
そう思ったところで少し嫌な予感。
「どうぞ、いいですよ」
警察官が手招きをしてその人を呼んだ。
すると部屋に入ってきたのは、意外と言うか予想通りの人物だった。
「失礼いたします」
綺麗なお辞儀で礼を述べるその人は、駅で俺が盗撮イケメンから庇ったあの美少女女子高生だった。
「あ、あの、あの時はありがとうございました」
入って来て早々ばっと深く頭を下げる女子高生。淡い色の柔らかそうな髪がフワリと跡を追って舞い上がる。
突然の来訪に俺は呆然としていた。
「あの・・・・・・」
トリップした俺を心配そうに見てくる女子高生。
ふ、フラグが。
「・・・・・・なんで、君が?」
何とか我を取り戻した俺は、何故に彼女がここにいるんだと警察官に訴える様に見た。警察官は俺の事なんか見ていなかった。女子高生を脇目でチラチラと見ては何くわぬ顔をする。本人はバレていないつもりなのだろうが、あからさま過ぎる。
「どうしても、お礼を言いたかったものですから、警察の方にお願いして無理を聞いていただきました」
またも丁寧な態度で経緯を話す女子高生。
改めて見ると本当に綺麗な子だとわかる。
もしかしてハーフなのだろうか?
少し明るめの色の髪の毛は、ストレートであるのにふわふわと柔らかそう。日本人にしては余りにも白過ぎる肌は、神秘的な魅力を感じさせ、瞳の色も黒ではない。最近ではカラーコンタクトがはやっているから一概には言えないが薄っすらと青みがかかっている。睫毛長!
兎にも角にも彼女はどこぞのアイドルか、と思う程ちょっとお目にかかれない整った顔をしている。俺としては是非ともモデリングしてゲームのヒロインにしてみたいところ、なのだが。
う~ん、やっぱりどっかで見たことがある気がする。
いやそれは今は置いておこう。この子をどこで見たかなんて分かっても仕方が無い事だ。
問題なのはこの流れだ。これは良くない。非常に良くない。
だって、これってどう考えても加藤のフラグ通りじゃないか!
見ろこの顔立ち、俺みたいな平凡な男が関わっていい存在じゃないぞ。今回の件だってそうだ。触ったら火傷どころか爆発粉砕しそうじゃないか。
幻影の加藤がさっきから俺の肩を「だから言っただろ」みたいな感じでバシバシ叩いてくるし。
あぁ、全くいい予感がしない。
そんなネガティブな思考の大海原を航海中、件の女子高生が重苦し気に唇を動かした。
「それと、今回の・・「ああ、ちょっといいかにゃ」・・・え?」
聞き入ってしまいそうなソプラノボイスを妙な噛みかたをしてしまった俺が遮る。恥ずかしいのでここは全力で無かったことにして流す。
突然俺から問いかけられた女子高生は、キョトンとした顔でこちを見た。呆けた顔もすんげぇかわいい・・・・・・・・て、そうじゃない。
この少女が言わんとしようとしていることは分かる。要は俺を巻き込んでごめんなさい、だ。
盗撮の時もそして今回の傷害事件も。
でも別にこの子が悪い訳じゃない。寧ろ全力で被害者だろう。だから俺としてはこの子から感謝は受け取ったとしても謝罪を受け取る気は無い。
で、このタイミングでその沈んだ表情はそう言うことなんだろう。
だったら俺はこれ以上何も受け取らない。さっきの噛み噛み以上に全力で無かったことにする。
加藤の立てたフラグを叩き折る。
「お礼は確かに受け取った。こうして律儀に来てくれた君の誠意も十分に感じれた訳だし、こちらとしてはこれ以上の事は必要はないと思っている」
言い方がちょっと偉そうになてしまったが、まぁいいだろう。
こちらがこれ以上の事はいらないよと伝えると、彼女は大きな目を申し訳なさそうに細めめる。
「ですが、そのあとの・・・・」
ああ、やっぱり襲撃の事を気にしているな。
俺は女子高生の言葉を手を前に出して遮る。
「それは君に関係の無い事だし、君が気にする必要は無いよ。俺が彼に対する対応を間違った結果だからね。だから其の件に関しては君が何も悔いる必要は無い」
気遣ってきてくれた女の子に対して少々冷たい態度だったかもしれないが、俺はこれ以上この子と関わりたくないので敢えてそうする。
それにその方がこの少女にとっても良いだろう。流石に自分の所為で人が刺されたとなれば自責の念に耐えない。だから敢えて強めに君は関係が無いと突っぱねる。
少女は口を開いては閉じを繰り返してとうとう俯いた。
ぐはぁ、自分でやったとはいえ罪悪感が半端ないな、これ。
それと少女の隣にいる警察官が酷い奴だみたいな目で俺を見てくるのが何気にウザいぞ。
「でしたら・・・・・」
女子高生が伏せていた顔を上げて俺を見定める。所謂上目遣いだ。その破壊力はすさまじく、思わず息を呑みこむ。
「でしたらせめてお名前だけでも伺ってもいいですか?」
がふっと内心で盛大に血を吐き出した。
く、何という強制力だ。そんな捨てられた子猫の様な目で見られては抗いようが無いではないか。だが・・・・・・・だが、今日の俺は決して屈してはならない。ここで屈してしまったら、加藤フラグの餌食になってしまう。
それだけはどうしても避けたい。
がんばれ俺の精神力。
「名前は・・・・いや、それもやめておこう」
どうだ、すげぇぞ俺。断ってやった。
警察官がお前は鬼かと目で訴えてくる。ええいそんな顔されんでも分かっているわ!
女子高生が悲壮に呟いた。
「やっぱり私の所為でこうなったから・・・・・・怒って・・・」
「え、あ、いや、違うよ。別に怒っていないからね」
そして俺の満身創痍な精神力は早くも根を上げ始め猫撫で声でフォローを始める。
「では・・・・でしたら・・・・」
ここでくる上目遣い第二弾。
あ、もう無理です。俺には耐えられません。
「ゆ・・・・結城・・・・晴斗です」
「結城晴斗さん、ですか?・・・・・・はい、結城さんですね。私は”御堂林那月”っていいます。あ、正式にはミドルネームで”リルティアナ”が間に入ります。改めましてありがとうございました。そしてすみませんでした」
「あぁ、うん、気にしないで」
こうして俺は物の見事に加藤フラグを達成することに成功した。
そしてミドネームって、凄いね君。
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