第14話 おのれ・・・・

「おのれ狼ども」


 俺は自分の行いを棚に上げて恨みの言葉を吐き捨てる。


 そもそも何故に俺が狼どもに恨み辛みを募らせているのかと言えば、あいつらにガブガブガジガジされたおかげで、服がべとべとのボロボロになってしまったからだ。

 誰が悪いと言えば半分狼どもで半分俺だともいえる。

 ノーダメ無双とストレスに我を忘れてしまった俺が、狼共の攻撃をされるがままにしてしまったのが起因している。体が無傷であっても服はそうでないという事を失念していた。

 この数日で服を3着も駄目にしてしまった。

 趣味はお金が掛かるとよく言われるがもっともだなと納得した。

 まるで集団リンチにあったようなボロボロの衣服。体こそ無傷だが傍から見たら瀕死寸前に見えるだろう。あるいは浮浪者か。


 やはりこっちでの活動用の衣服はこっちで購入するのがベストだなと改めて認識した。

 こうも毎回駄目にしていては俺の給料が服代で消えてしまう。


 俺のToDoリストに服の調達を追加しておこう。


「この調子で進んでいくと朝方には村に着きそうだけど・・・・・・ちょっと眠い」


 周りはすっかり闇夜に包まれている。流石に今日は疲れてしまった。

 

 マップを開く。赤いマーカーは近くに見当たらない。

 何匹か殺し損ねた狼どももどっか遠くに逃げていったようだ。


 因みにだが俺のレベルが狼共のおかげで一つ上がっている。あと【格闘術】スキルもレベルが上がった。拳で語り合った甲斐があったというものだ。


 さて、では念願の野宿をしてみるようではないか。


 モンスターに襲われても無傷だったのでちょっと気持ちも大きくなっている。仮にモンスターに襲われても何だかこの辺であれば大丈夫なような気がする。

 だが実際そうは思っても無防備に休むほど楽観視はしていないので多少の防犯グッズは手に入れてきている。


「この電池式赤外線センサーを設置すれば何とかなるんじゃないか!?」


 伊達にホームセンターで10万も使ってない。もしかしたらという装備は多岐にわたって用意はしてきている。


 少し離れた場所にセンサーを設置する。

 地形的にこの場所を通らなければ俺の所には近づきにくいから、ここにセンサーを設置しておけば、何かがやって来ても反応してブザーが鳴り響くはず。


「よし、これでばっちりだ」


 防犯はこんなもんだろう。

 次は寝床の確保だが今回はテントは張らずに寝袋だけにするつもりだ。断熱マットを2重に敷いてその上に寝袋をおいた。


 どれ、と寝袋に入ってみる。


「・・・・うん、会社で寝るよりはずっと快適だな」


 試し寝をしてみたら思っていたよりも快適だった。これは今度から会社でもこのスタイルで寝泊りをしようと心に決める。


 寝っ転がりながら星を眺める。いつの間にか俺の意識が闇に落ちてしまった。





「う、ふぁあぁぁ」


 翌日の朝は清々しい程の快晴だが俺の寝起きは余りよろしくない。

 陽の眩しさに目を擦り呻き声を上げつつ体を起こす。凝り固まった背中がバキバキと悲鳴をあげた。いつもの様に体を解そうと両手を上げて体を伸ばした。


「・・・・! い、いて、いててててて」


 ぐほ、脇腹をつった。


 ストレッチをしてつった脇腹の痛みが治まったところで、寝袋とマットをかたずける。持ち上げるとザララァと砂が落ちていく。汚れた寝袋を手で軽く払いアイテムボックスにしまった。


 それからセンサーを回収する。その際自分が寝ていた場所のを見て眉を思いっきり顰めた。


 寝不足気味で長い欠伸が口から洩れだしてきた。


 どれ、そろそろ出発しようかな寝床にしていた奥まった地形の所を出ていくと、見覚えのあるやつがそこにはいた。


 端的に言えばデッカイ蟻だ。軽くデッカイと言っているがその大きさは俺とほぼ同じくらいある。しかも外殻が艶々とした紫色での毒々しい。


 そいつが巨大な顎を小刻みに掻きならしてこちらを威嚇していた。


「このやろう、本当に鬱陶しい!」


 このデカ蟻は昨日俺が寝袋に入ったあと夜中何回かに分けて襲撃してきやがった。しかも厭らしい事にやつの細い足はセンサーを見事に回避しやがっていた。


 幸いにして【気配察知】スキルが殊の外優秀だった為に襲われる前に気付くことが出来たのだが、それが無かったら今頃、俺の寝袋がボロボロにされていた事だろう。

 あの寝袋はそれなりに高かったんだ、そう易々と駄目にされてはかなわない。


 襲撃は4,5匹一纏まりで襲ってきやがった。

 硬いだけで狼よりも手応えが無く、サクサクと退治できたのは良いのだが、こいつら事もあろうに襲撃を一回だけに留まらず、ちまちまとチーム分けして合計5回もきやがったのだから堪ったものじゃ無い。それも続けてきてくれればまだ良かったのに、ご丁寧に1時間くらい開けてやってくる。眠ったと思ったら【気配察知】スキルで起こされるを繰り返されてはこちとら寝るどころの話じゃない。

 そんなんだから寝不足になるは寝床はボコボコにされるは戦闘で巻き上げた砂ぼこりで寝袋がじゃりじゃりにされるはで心底腹立たしい。


「性懲りも無く・・・・」


 そういえば小学生の時、キャンプに親に連れていかれたことが一度だけあったのだが、あの時も俺は蟻に襲われている。

 テントの中で食べていたお菓子のカスが床に零れてしまい、それを求めて蟻の大群がテント内に押し寄せ、寝ていた俺の顔の上を整列して歩いていく蟻の感触に俺は悲鳴ならぬ絶叫を上げたことがあった。


 嫌な記憶だ。危うくトラウマになる所だ。


 こいつらは人が寝ている時にいつもいつも。


 夜中は半分寝ていた所為か襲われた対応に必死でそんな事思い出しもしなかったが、改めてわき出した苦々しい思い出と寝不足による苛立ちに体が震えてきた。


 そんな事関係なしとカチカチと不快な音を立て威嚇し続けてくる蟻に、俺は踏み込んだ足を一気に解放した。


 爽やかな快晴の青空に紫色の噴水が吹き上がり、ゴトリと蟻の頭部が地面に落ちると光と共に消え去っていく。


 通り過ぎ様に頭部を刈り取ったナイフをアイテムボックスにしまった。


「クソ虫が」


 今日の目覚めは最悪だった。

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