第13話 森からの脱出とストレス発散

 結局、一旦ログアウトしてアパートに戻り風呂に入ってきた。

 アパートに戻ると当然のごとく神さんがいたのだが、俺の格好を見るなり指さして爆笑しやがった。そのうち何か仕返しを考えねば。


 風呂から上がり服を着替え、もう一度テレビの中に入る。濡れた靴が気持ち悪いかったが、替えの靴なんて持っていなかったので泣く泣くそれを履くしかなかった。あとあるのはサンダルだけ。流石にそれでは厳しい。次の休みで靴を買おうと強く決意した。


 さっきのゴブリンキングの所に戻り、暗くなってしまった森の中を懐中電灯を手に進んでいく。

 これも今日買ってきたものの一つ。

 一応【気配察知】スキルで大体は把握できるが、やっぱり灯りはあった方が何かと便利なのは間違いない。


「腹減ってきた。コンビニで弁当買ってくればよかった。熊肉、5きれしか食べれなかったからなぁ。でもあれをまた食べるのはちょっと・・・・・あ、でも違う部位だったら食べれるかもしれないか。そうだ、炭火の実験もしていたんだった」


 アイテムボックスからバーベキューセットを取り出す。


「あっつ!!!」


 またやってしまったがこれで分かった。炭火が全く燃え切っていない。つまりは時間が経過しないという事だ。


「これなら弁当や総菜をたっぷり入れておいても大丈夫そうだ。しかも日本の部屋でアイテムボックスが使えるんだから、いくらでも準備と補給が出来るじゃないか」


 つい嬉しさで口角がにゅっと持ち上がる。


 アイテムボックスの有用性に気分を良くした俺は熊肉の色んな部位を切り取っては網に乗せていく。腿、腕、腹、お尻と少しずつ、食べておいしければそこを食べる事にする。


「先ずは腕・・・・・・こへははみひへんこれはかみきれん


 筋肉と筋の塊みたいな肉は、脆弱な俺の顎では太刀打ちできなかったので、べっと吐き出す。


「こっちは・・・・・・食えなくは・・・・なくもなくない」


 次に腿肉、微妙に微妙を上乗せしたコメントが口から出る。臭いのは変わらないがさっきに比べたら柔らかい、微妙だ、保留。


「・・・・ん? ・・・・・あぁ、うん、いけるいける・・・・・けど、量は食えないかも」


 腹肉は他と比べて格段においしかった。ただ、油が多いから胃もたれと胸焼する。10代でないと無理と判断。


「で、最後にお尻か・・・・・気分的にちょっと、あれだけど」


 あの穴から遠い位置のを切り取ってみたけど、やっぱりイメージが良くない。

 おかしいな、焼き肉屋のユッケとか平気だったんだけど、やっぱり原型を見ているからか口に入れるのを躊躇ってしまうのだろうか。目を瞑って口に運ぶ。


「ング・・・・・・・・・・・・・・」


 !?


 おや。


「うまいぞ、これ!?」


 熊のけつ肉を味わいながら咀嚼する。

 肉質は柔らかくて、牛のフィレに近い。味は豚肉のような甘みを感じる。脂身は殆ど無いので赤みの肉のうまさだけが口に広がる。他の肉と違って獣臭さが全くない。


あっち日本では熊なんて食った事無いから一緒かどうか分からないけど、これだったら普通に食べれる」


 残っていた熊肉からお尻の部分だけを切り取っていく焼いて食べていった。もちろん穴付近は綺麗に残してはある。


 うん、うまかった・・・・・・でもやっぱり胃がもたれた。


 満腹になった腹を摩りながら再び炭をそのままにバーベキューセットをしまう。口の中が油でギトギトしているので、持ってきた歯ブラシセットで歯磨きをした。

 何故だかただの歯磨きが楽しく思えるから不思議だ。何だろう、開放感がいいのだろうか?


 もたれた胃が落ち着き口がさっぱりしたとこで、残りを一気に抜けるべく森を進み始める。


 ゴブリンキングを倒してからはモンスターが一匹も出て来ていないので、進みは非常にスムーズだった。


 そして歩き続ける事20分ほどで。


「出れたぁぁぁぁぁ!!」


 とうとう森を抜け出す事が出来た。


「・・・・・・・・星、こっちにもあるんだ」


 巨大な木で覆われていた森の中では見る事が叶わなかった空が視界いっぱいに広がっていた。日本の都心では決して見る事の出来ない、星の大パノラマに俺は暫し見惚れてしまった。

 星座をそれほど詳しく知っている訳では無いが、一見してそれが全く違うものだと分かる。


 涙が出てきた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・疲れだな。


 きっと疲弊しきった俺の心が癒されたのだろう。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 俺は叫んだ。訳も分からず叫びながら走った。こんなに全力で走ったのは小学校の運動会以来だ。意外と走れるもんだ。


 走っていたらあたりの景色が一変していた。


 星が明かる為か夜なのに景色がよく見える。


 緑に囲まれていた森から一転してゴツゴツした岩と剥き出しの土。砂漠の様に地面が隆起し起伏が激しい。草が全く生えていない訳では無いが圧倒的に土の大地だ。

 見える範囲に道らしきものはなさそうだ。


 後ろを振り返ると森が闇に包まれてもう全く見えなかった。

 随分と長い距離を走っていたみたいだ。


 俺の体力すごいな。


 何だか清々しくなっていたので謎の鬱憤もはれていた。


 知らず知らずにかなり進んでしまったみたいなのでマップを確認してみた。マップで見ても森からかなりの距離離れているのが分かった。何故だか距離を実感したら急に疲れた気がする。


 おっと、主の目的を忘れていた。先ずは人里を探してそこに向かうんだった。


 マップをフィールドから世界マップに切り替える。


「えっと、今まで歩いてきた森がここでスタート地点がこれだから・・・・・・この距離から換算すると・・・・・・お、あと1日程歩けば村に着けんじゃないか。街は・・・・そこから5日くらいかかりそうだな。徒歩は嫌だな。乗合バスとか出てないのか?」


 とりあえずは村を目指して進んでいこう。そこで移動手段を確保してある程度大きそうな街に移動すればいいだろう。


 今後の方針を決めていたらマップに赤のマーカーがわらわらと俺の下に集まってくるのが見て取れた。

 慌てて周りを見てみるが何も見えない。だが赤のマーカーは確実に俺を取り囲むように集まってきている。


 これは、拙い?


 恐らく隆起した土に身を隠しているのだろうがその数が半端じゃない。数えていないけど恐らく30程はいる。


 マーカーを選択する。


 【ハンターウルフ】


 名前が出てきた。


 ウルフ、という事は狼の類か? 狼だと狩りを群れで行う習性があると聞いたような気がする、いや、そもそも名前にハンターってついてやがるじゃないか。

 あれ、俺狩られるの?


 タラリと額に汗が流れる。


 未だかつてこの数の敵を相手取った事が無い。更に初見の敵だ。今の俺で太刀打ちできるのかどうかも怪しい。


 ヤバいのではないだろうか。ちょっとステータスを確認する。



名前:ハル(結城晴斗)


職業:冒険者

【システムエンジニア】【冒険者】【商人】【料理人】【農民】【狩人】【神人】


Lv:8

HP:660

MP:384

筋力:60

精神:28

耐久:50

素早さ:41

賢さ:24

体力:58

運:20


スキル

【システムメニュー】【スキル上昇】【剣術Lv2】UP【格闘術Lv1】【気配察知Lv1】【棍術】New


加護

【女神の加護】【出会いの輪廻】【異界の転移】



 ・・・・・・・・大丈夫なような気がする。


 改めてステータスを見ると俺の成長が著しい。

 そう言えば熊だってもう簡単に屠れるんだから今更狼の20や30など問題無いのでは?


 そんな事を考えていたら一匹のハンターウルフがその姿を現した。


 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・で、でかい!?


 マジか、どう見ても熊よりデカくないかあいつ。


 熊だって3mくらいだったというのに、この狼、尻尾の先まで入れると4mくらいありそうだ。殆ど軽自動車並みの大きさじゃないか。


 それが・・・・・・30匹ほど?


 いやいやいやいや、無理無理、無理だろ。


 余りのハンターウルフのデカさに臆してしまった俺はすっかり周りの警戒するのを怠ってしまった。


「ガアァァァフ」

「!!、う、うああぁぁぁぁ」


 その隙に近寄ってきていたハンターウルフが俺の左腕に、その巨大な口で齧り付いていた。

 左腕がハンターウルフの口の中にスッポリと消えてしまった。


「がぁぁぁ、やられたぁぁぁぁ・・・・・・・・・・あ?」


 腕がなくなったと思った俺は叫び声をあげ、いつ来るか分からない食い千切られる激しい痛みを待ち構えていた。

 だが不思議と待てど暮らせどその痛みはやってこなかった。


 おや?と思いながら、恐る恐る齧られた腕に目を向ける。


 巨大な狼の顔が直ぐ脇にあり、一生懸命俺の左腕をがぶがぶを齧っている。それはもう貪り食うと表現していいくらいの激しさで齧っている。


 視界のHP欄に目を向けると、HPが2位ずつ減って行ってはある程度過ぎると元に戻るを繰り返している。


 これは、あれだろうか・・・・・・俺のパッシブスキルに近いHP自動回復量がやられて減るHPを上回っているという、所謂無双状態ではないのだろうか。


 現に今も腕を齧られているが、多少のチクリとした痛みはあるものの正直甘噛みされているのと大差はない。


 何かそれを実感したら急にガブガブしているハンターウルフが可愛く見えてきた。

 だがそれとこれとは話しは別だ。あくまでもこいつは俺を攻撃しているのだから。


 右手を振り上げて齧っているハンターウルフの鼻っ柱に拳骨を叩き下ろした。


「キャウン!」


 体格の割に可愛い声を上げたハンターウルフの頭が地面にめり込み、体をピクピクと震わせた後ぐったりと動かなくなり光と変わる。

 どうやら死んだようだ。



 ・・・・・・うん、俺、強ぇ!



 小高い丘の上に出てきた最初の一匹に視線を向ける。

 何となくだけどそいつがビクッと震えた様に思える。


 そこからは蹂躙の開始だった。


 仲間をやられて怒ったのか、或いは自棄を起こしての行動なのかは分からないが、最初の一匹が遠吠えを上げると、周りに潜んでいた30匹ものハンターウルフ達が一斉に飛び掛かってきた。

 四方八方から噛みつきやら爪での攻撃だのしてくるが、俺はそれらを正面から受けては殴り、受けては殴りを繰り返していった。

 最後の方は逃げるハンターウルフをその辺に落ちていた棒切れを降り廻して追いかけていた。


 ちょっとテンションがおかしかったかもしれない。


「うあははははは、ば~か、ぼけ~、あほ~」


 俺はさっき迄ハンターウルフがいた丘の上で勝鬨の罵倒を口にしていた。


 ・・・・・・・・憂さが晴れたと思っていたがストレスは費えていなかったようだ。


 やはり俺の闇は深かったようだ。

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