第12話 森のボス?
「死にさらせぇぇぇぇこのくそぼけえぇぇぇ!!」
畜生、畜生、俺は羨ましくなんかなぁい。
裏返った声の心からの絶叫を森の中でこだまさせながら、一心不乱に金属バットを振り続ける。
砕け散ったスライムのジェルが周りの木の幹を濡らしていく。
「嫁がなんだってんだぁぁぁ、子供なんかいらねぇぇぇえぇ!!!!・・・・・・・・でも恋人欲しぃ、畜生」
原型をなくしかけていた金属バットが今の一振りでとうとう折れてしまった。かれこれ一時間位暴れまくっていたかもしれない。
こっそり近づいてきたゴブリンに折れたバットを投げつけて爆散させると、荒く肩で息していたのを整える。
・・・・・・意外と俺の闇は深かったみたいだ。
だがこれでホームセンターの一件の憂さ晴らしが出来て随分とすっきりとした。
長い時間暴れまわっていたこともあり腹がぐうっとなる。時間的にも丁度夕食の時間帯だろう。
「飯にするか。近くにモンスターはっと」
マップを確認してみたが近辺にモンスターはいなさそうだ。衝動に任せて狩り切ってしまったみたいだ。
今日のメニューはもう決まっている。
「よし、バーベキューをしてみるか」
その為の準備を今日したからな。そしたらあいつに会った訳だけど・・・・・あ、またちょっとイライラしてきた。
落ち着け俺。今は飯だ。
荒くなる鼻息を押さえながら、買ってきたバーベキューセットを取り出して組み立てていく。次回からはこの状態でしまっておけば楽できるだろう。
炭を積み上げてカセットガスのバーナーで火を付ける。安物の炭を買ったのでバチバチと弾けて結構熱い。火を起こしているのを見ていると不思議と無心になれ心が落ち着いてくる。
「・・・・・バーベキューなんて何時ぶりだろう」
家族と行ったキャンプが最後だっただろうか。確か小学5年くらいだったと思う。
だがちゃんと炭の火おこしは出来ている。なにしろいつそういうイベントに誘われても良い様にネットで色々と調べて知識は蓄えてあるからな。
・・・・・・・ただ実践したのそのキャンプ以来初めてだけどな。
「・・・・・・ふ」
つい哀愁がもれだしてしまった。バットがもう一本欲しい。
まだ闇は払拭出来ていなかったようだ。
炭に火がついてきたので食材の準備をすることに。当然今日のメインディッシュはあの熊の肉だ。
さて、そうなるとあのどデカイ熊の形をした肉を切り分けないといけないのだがどうすればいいんだ?
しばし悩みながらも肉を解体していく。
「・・・・・・ま、まぁこんなもんで良いかな。うん、焼けばそれなりだろうし」
出来上がったとても焼肉用とは思えない肉塊に頬を引きつらせつつも、苦労して切り分けた肉を取り敢えず網の上にのっけてみた。
もう既に真っ赤になった炭で網に焼きを入れてある。買ったばかりの網はこうすると良いいそうだ。理由は分からないがネットに載っていた。
ジュ~っと肉が焼けるのと同時に少し獣臭い肉の匂いが煙と一緒に立ち上がる。不安ながあるのでしっかり目に焼いておこう。
買ってきた木皿にこれもスーパーで買ってきた焼き肉のたれ辛口を注ぎ入れ、焼けた肉(こぶし大のサイコロ型)を一つ箸で摘まみたれをつける。
「いっただっきまーす」
パクリと頬張る。何とか口に入れられた。
ングングングングングンゴウグ・・・・・ウフ、オゴ、ウグムグムグ。
・・・・・・・か、堅い。
そして臭い。
まるでゴムのような食感と匂い同様獣臭さが口の中に広がってきた。
やっとの思いで飲み込んだ。
「く、食えなくはないが、ちょっときついな」
今のは多分熊の背中部分の肉だったと思う。
どうしようかとも思いながらも、折角だからとその後5ブロックほど焼いて食べた。
「・・・・・・う、胃が重い」
胃がもたれてきてしまった。
もう無理と早々にバーベキューは諦める事にした。
「炭が勿体ないな」
熾したばかりの炭火だ。このまま捨ててしまうのはしのびない。
「あ、そうだ。これはちょうどいい実験材料じゃないか」
と、そこで良い事を思いついた。
このままアイテムボックスに入れればいいじゃないかと。しかも火がついている炭を入れることで、アイテムボックスの性能を評価できるおまけつき。
炭の火が消えてしまうのかそのまま残っているのか。それによって今後の運用方法が変わってくる。
ならばさっそくとコンロをアイテムボックスにしまってみることに。そして一度直ぐに出してみる。
「あっち!!」
出す位置が悪くて熱せられた部分を触ってしまった。だが炭はそのままだ。うん、先ずは入れて直ぐ消えることは無し、と。
再度アイテムボックスにしまう。後は時間が経ってから炭がどうなっているか確かめてみることにしよう。
これでアイテムボックスに入れている間時間が止まっているか確かめることが出来る。
胃もたれと胸やけが修まってきたので俺はまた森の探索を進めることにする。
マップを見るとこの森がもうじき終わを迎えそうだった。
道中ゴブリンどもを蹴散らしながら歩みを進めていく。
「げ、雨が降ってきた」
ぽつぽつと額に雨粒があたってきた。この世界で初めての雨だ。頭皮に悪いから酸性雨で無い事を祈りたい。
「日が暮れる前にはここを抜けたいな」
雨宿りも考えたのだが、薄暗くなってきたのでこのまま強行突破することにした。
今日は出来ればこっちで寝泊まりしたい。ただ森の中でのキャンプは出来れば避けたい。【気配察知】のスキルがあるからそれなりに外敵の対処は出来るけど、やはり気分的に落ち着かない。
雨脚がどんどん強くなってきたな。靴が濡れて気持ち悪い。
「あん?何だこの反応」
更に一時間ほど走ったところでマップ上に若干他よりも大きな赤いマーカーが現れた。今まで大きさが違うものなど見た事が無かったのだが。
「ボス・・・・的な意味合いなのか、或いは単純に強さのバロメーターなのか」
どっちにしろ今までとは違うモンスターと言うことなのだろう。そう思ったところでふと気になった。普通こういった強キャラって森の奥地にいるもんじゃないだろうか、と。
俺のスタート地点が森の奥地で、そこから森の出口を目指してきたんだが、思えば出口が近づくほどモンスターの強さと数が上がってるように思える。
しかもボスが出口付近って。ま、ボスかどうかは分からないんだけどな。
そうんな事を考えながら、そのマーカーに向かって進んでいった。ここまで来て逃げるという選択はどうやら俺の頭には浮かんでこないようだった。
そりゃそうだろう。だって気になるんだから。
「そろそろかな」
木々の合間からそいつがいると思わしきところを除いてみた。そして俺は確信したのだ。
あぁ、ボスだ、と。
そこにいたのはゴブリンの体積を5倍にしたような奴だった。
普通のゴブリンはやせこけた餓鬼の様な姿をしているのだが、こいつは超マッチョ。しかもどこで手に入れたのか、その体格に似あう両刃の巨大な剣を持っている。休憩中なのかそいつは地面にどっかりと座っていた。
何となく理不尽さを感じつつも、マップで相手の情報を確認する。とはいえ出る情報は名前だけなのだが。
【ゴブリンキング】
そのままで潔い。
ゲーマーにとっては多少のセオリー無視はあるにせよ親切な世の仕組みだ。
さて、どうしたものか。
別にここを通らなくても出口は無数にある。そこはゲームと違って道が決まっている訳では無いから戦わずして森から出る事も可能だ。
だけど折角見つけたボスキャラを見す見す逃してしまっては面白みに欠ける。
「・・・・・・レベル7、か」
自分のステータスと睨めっこをして思案する事数分。
「やっぱ戦ってみたいよな」
俺は戦う事を選択した。
そうと決まればとゴブリンキングの背後へと音をたてないように慎重に回り込む。戦うとは決めたけど何も真正面から突っ込んでいく気は無い。
ナイフを逆手に構える。戦った事の無い大物に緊張で手汗が滲んでいる。頭の中でどう動いたらいいか何度かシミュレーションを繰り返し、俺は内心で「よし!」と気合を入れて一気に飛び出した。
狙うは後頭部。
ゴブリンキングが座っていたのも助かった。頭が狙いやすい。
駆ける脚で草が擦れ音が出る。ゴブリンキングが逸れに気が付きピクリと反応する。
だがもう既に遅い。
逆手に持ったナイフを飛びつくようにゴブリンキングの後頭部、首もとに渾身の力で突き刺した。
「グガアアァァァァァァァ!!」
「うおわっ!」
突如の攻撃にゴブリンキングが暴れだした。刺さったままのナイフにしがみ付く俺ごと立ち上がる。
くそ、致命傷とまではいかなかったようだ。
しかも何て馬鹿力なのか、俺の体重などまるで布切れと同じように振り回される。そしてとうとうナイフの刃が抜けてしまった。俺は吹っ飛ばされ地面に転がされてしまった。
「ギャギャアァァ」
目を血走せらしたゴブリンキングが大剣を振り上げるのが見えたので、すかさず転がるようにして飛び起きる。あんなものを真面に受けたら斬れる前に潰されそうだ。
轟音とともに大剣が地面に突き刺さる。
うおぉ危ねぇ。
バキバキと木の音を破壊しながら地面をへこませるゴブリンキングの大剣。こいつのタフネスと怪力は熊の比じゃ無い。
これは手こずるかもしれない。
失敗だった。レベルをもっと上げておけば良かった。
だが今更そこを後悔しても仕方が無い。ゴブリンキングが次の動作を取る前に反転し、ナイフで太腿に横薙ぎの一閃を入れる。このタフさだ、地道に削って行こう。
すると思っていたよりもナイフの刃がゴブリンキングの太腿に深々と入ったみたいで、バックリと開いた傷口から緑色の体液が大量に噴き出てきた。
「うわぁ、きったねぇ」
勢いよく出てくる緑色の体液にちょっとビビった。掛からないように思いっきり飛び退いてしまった。
折角の攻めるチャンスを無駄にしてしまったと自分の臆病さに舌打ちをしていたら、ゴブリンキングが膝を付いて崩れる。
チビチビと攻撃を与えて弱らせようと思ったのだが、今のすれ違い様の一撃で相当なダメージを負ってしまったようだ。
・・・・・・あれ?意外とちょろい?
苦痛で歪んでいる顔から生気が抜けて行ってるように見えるが、元々が青い顔してるから定かじゃないけど。後頭部への一撃は当たり所が悪かっただけなのかもしれない。
これはチャンスだ。一気に片を付けよう。
先程ナイフを突き刺した後頭部と寸分違わぬ位置に再びナイフを差し込む。今度は暴れて抜かれる前にナイフを一気に引き、首を切断していく。
半分くらい斬ったところでゴブリンキングは力尽きたのか頭から地面に伏していき、他のモンスター同様光の粒子となって消えていった。
終わってみれば呆気ない幕切れだ。
テケテケテッテッテ~
何時ものレベルアップの音が脳内に流れてきた。
レベルが8に上がったようだ。
「お、【剣術】のスキルも2に上がったぞ」
流れるメッセージを見ながら嬉しさについ小さくガッツポーズを取っていた。
今の俺のステータスはこんな感じになっている。
名前:結城晴斗
職業:システムエンジニア
Lv:8
HP:550
MP:320
筋力:50
精神:23
耐久:42
素早さ:34
賢さ:20
体力:48
運:17
スキル
【システムメニュー】【剣術Lv2】UP【格闘術Lv1】【気配察知Lv1】【棍術】New
加護
【女神の加護】【出会いの輪廻】【異界の転移】
うん、なかなか強くなってきたな。でも、やっぱり脳筋なのが気になる。
早く魔法を覚えておきたい。
恐らくだが、魔法を使えば【精神】や【賢さ】が上がると思うんだよな。街に行ったら最優先で覚える方法を探さないと・・・・・・・・ん?
「スキルがいつの間にか増えてる。【棍術】・・・・・・バット、か」
あれを棍棒よんでいいのだろうか?
まぁ覚えられたんだから何でもいいか。
最初オール10みたいなステータスだったのが随分と強くなったものだ。感慨深げにステータスをなぞっていたら職業欄のところで突然メニューがプルダウンしてきた。
「うを、何だこれって・・・・・むむ」
新たに開いたウィンドウに出ていたのは、
【システムエンジニア】
【冒険者】
【商人】
【料理人】
【農民】
【狩人】
【神人】
の計7つ。
「お、おぉ。これは職業選択方式なのか」
新たに発見した職業の変更画面。俺はそれに驚愕し目を丸くする。
職業って唯の称号かと思っていたがどうやら違ったみたいだ。これはゲーマー心をくすぐってくる。
「ただ・・・・・ラインナップとしては変だな」
・・・・・・いや、ある意味あっているのかもしれないが、普通こういった職業って
「て言うか【システムエンジニア】以外にもおかしな職業が紛れ込んでいるのだが・・・・・・【神人】ていったいなんだ?」
どう考えても選んではいけない危険な臭いがプンプンしてくる。
まぁ何にしてもこれはあらばない訳にはいかないだろう。
「ここは無難に、ていうか【冒険者】一択だろ」
当然【神人】は選ばない。絶対ろくでも無い事になる。
それはともあれ【冒険者】が有るといういう事は、やっぱりギルドも存在しているのだろうか?
街に行く楽しみが増えた。
職業から【冒険者】を選んだ。
その瞬間ステータスががらりと変わる。
名前:結城晴斗
職業:冒険者
【システムエンジニア】【冒険者】【商人】【料理人】【農民】【狩人】【神人】
Lv:8
HP:660
MP:384
筋力:60
精神:28
耐久:50
素早さ:41
賢さ:24
体力:58
運:20
スキル
【システムメニュー】【スキル上昇】【剣術Lv2】UP【格闘術Lv1】【気配察知Lv1】【棍術】New
加護
【女神の加護】【出会いの輪廻】【異界の転移】
「う~ん、大体元の1.2倍って感じか。つまりは【システムエンジニア】は何の特色も無い基本ジョブって感じなのか」
いわゆる「すっぴ〇」てやつだろう。
「・・・・これ、気付いていたらもっとゴブリンキング楽に倒せたのに」
くそ、取説を希望したい。
もしかしてまだ何か隠し要素があるのだろうかと他も捜査したところ。
「名前変更できんじゃん」
これは別に変えなくてもいいのだが。
「あるかどうか分からないけど【看破】みたいな能力持っているやつとかいるかもしれないからな。名前変えておいた方が良いか」
それに何となくキャラネームを付けておいた方が更にゲームっぽいしな。
名前はいつも通り「ハル」に変更した。
「うん、オッケー・・・・て、いつの間にか、雨、やんでたんだな」
ゴブリンキングと戦っている間に雨がやんでいたみたいだ・・・・・・もう少し降っていて欲しかった。
この泥だらけの体、どうしよう・・・・・・・・。
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