書籍化記念 魔我羅の立て直し7
「名は何という?」
「ウッス。自分、ベイルっス」
「よし、ベイル。シュウだ。これよりシュウと呼んでくれ。過度な敬語も不要だ」
「ウッスウッス」
潜入にあたり必要事項を軽く打ち合わせた俺たちは薄暗くなってきた路地を進む。
この前までは暗くなり始めると人っ子ひとりいなかったが、今では公衆浴場へ向かう人や帰りらしき家族連れなどをチラホラ見かける。
公衆浴場自体は無料公開、洗濯サービスまで無料でやっているため非常に人気が高いのだ。
衛生的になり、疾病率も下がったのではないだろうか。統計取りようもないが。
皆、笑顔だ。まだまだ貧しいが平和を享受している。
俺も笑顔だ。
期待が高まる。
公衆浴場は城からは徒歩で15分ほどの所にある。木造の高床式のような構造をしており、床下で蒸気を作り建物の中に溜め込んでいた。この街では割と大きな建物だ。漏れ出す湯気が見える。
煙突効果でどうたらと森人技術者が言っていたが、よく分からないのでとりあえず「凄そうだな」と言っておいた。建物内で火を焚くのなら、煙くなるから煙突付けるのは当たり前だろう。
入り口には銭湯のような番台とカウンターがあり、洗濯サービスのおばちゃん達が忙しそうに走り回っていた。
無料なのでスルーして、男用の脱衣所で貫頭衣を即パージした。混浴なのになぜ脱衣所は別なのだろうか。解せぬ。
「行くぞ」
「ウッスウッス」
ボロを出さないように喋らなくなったベイルを引き連れ、いざ秘境へ!
浴場への木戸を開けると、むありと熱気と木の香り、体臭の入り混じった臭いが顔を撫でる。視線の先は暗闇だ。
高級な灯は最低限にしか配置されていない。目が慣れるまでは恐る恐る進む。
ピシャリピシャリと何か柔らかいものを優しく叩く音に女子供の笑い声、妖しく弾む息遣いと男女の判別もつかない肉の群れ……カオス
「ベイル?」
振り返るとベイルがいなくなっていた。
……俺は異世界にたどり着いた?
「マ、マガラ様?」
ふらりと眼前に現れた肢体、半裸だがその胃下垂のような下腹……。
「ティリか!」
「……お、お久しゅうございます」
何時ぞやに現地語を習ったお世話奴隷のティリ先生だった。俺はただ、迷子になっただけだったらしい。
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