最終話 馴染めない


それからはトントン拍子に話が進んだ。


ガロスは魔我羅の宰相に就任し、マックスは旧王都の祖父の元へと養子に行った。


無事、講和も帝国との間で結ばれ戦争が終結。魔我羅は国として扱われる様になり、俺は名実共に魔王となった。


帝国に魔族の蔑称をやめさせる事は叶わなかったが、魔我羅では亜人種を魔族と呼ぶ事は禁じた。俺が魔王と呼ばれるのは変わらなかったが。



そして遂に、エメリーヌの妊娠を契機に婚姻関連が紛糾する。


森人の一斉蜂起だ。


毎晩違う女忍者が寝所に忍び込んでくる様になってしまったので根負けしてディートの輿入れを認めた所、今度はサーラちゃんがずるい!私も!と駄々をこね始めて気が付いたら正妻候補の婚約者になっていた。


何を言ってるのか分からねーが俺も何をされたのか分からねー。多分あのあらあらうふふの陰謀だ。強くなり過ぎてしまったサーラちゃんを他の誰かの嫁に出すのも問題があったのもある。


隻腕ゴブリンのダリにゴブリン代表としてゴブリンも娶るべきかどうかを聞いてみたが「子が出来ないのに婚姻を結ぶ意味はないだす!夜伽が必要ならいつでも駆けつけるだす!」との事だったので丁重にお断りしておいた。ダリは子沢山になった。


時々、帝国聖教徒の暗殺者がやってくるが鎧袖一触だ。レイン率いる森羅の警戒網を突破できる勇者はいなかった。返礼に各地の聖教施設には石の雨を降らせたら帝国の元気が無くなった。マックス涙目。




決して贅沢とは言えないが仲間達との賑やかな日々は続いていく。



日本の生活の記憶も少しずつ薄れていく中でも偶にふと思い出す。



想像していたファンタジー世界とは全然違い、この世界では敵を倒せば強くなる訳でもステータスが見える訳でもない。所謂ゲーム的な世界ではなかった。魔法はあるが現代社会と同じく、ただ人々が生きている世界で厳しい環境なだけであったのだ。


奴隷だった時は孤独でひもじくて涙を流した夜があった。身近な死の恐怖に震えて眠れない夜もあった。だからこそ俺は本当に守りたい大事なものを見つけられたのかも知れない。


豊かな現代社会では埋もれてしまって見つけられなかったもの。俺はそれをようやくここで見つける事ができたのだ。



死ににくい世界は同時に生きにくい世界でもあった。


死の実感がない生き方には生きている実感も無かった。



そんな俺は⋯⋯この世界より、現代社会にこそ馴染めていなかったのかも知れない。




ファンタジーには馴染めない 完

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