9/5発売記念

書籍化記念 魔我羅の立て直し1

 

 旧ダンダム。


 魔我羅国の首都となったこの城塞都市は荒れに荒れていた。まさに荒廃という言葉が相応しい荒れ具合だった。


「⋯⋯それで税は取れるのか?」


 どんよりと薄暗く、降りしきる雨天に重々しさを感じながら、ため息混じりになった俺の問いかけにガロスも渋い顔だ。


「⋯⋯すぐには無理だろなぁ」


「⋯⋯そうだろうなぁ」


 先日まで旧ダンダムを統治していた自治政府は、この街の経済を完膚なきまでに破壊していた。


 商家に借金を背負い困窮した自治政府は、金を儲ける商家を大衆の敵として打ち壊し、生き残った商家も全て国外に逃げ出したために、使い所のなくなった貨幣は意味をなくした。


 国外からの商人すら自治政府の追い剥ぎに遭うため近寄らなくなり、人の往来がなくなった宿場町の住民達がジョブチェンジして野盗と化しており、今では魔王が国外に略奪行為を行なわせている事になってしまっている。


 迷走する自治政府に対して否定的な地主や豪農などの知識階級の人達は、反逆罪など適当な罪状で慣れない農地で強制労働させられていたり、投獄されたり虐殺されたりしており、ほとんど残っていない。


 貧しさにあえぐ大衆の不満は、その都度新たな「敵」を作ることで捌け口としていた。恐らく意図してこれほどの数の虐殺を行ったわけではあるまい。貧しくなり続ける大衆の不満をそらすために沢山の敵が必要になってしまっただけなのだ。


 細々とした物々交換に、暴力による略奪行為が横行するザ・無法地帯。これが現在のダンダムの姿だった。


『⋯⋯どこの世紀末やねん』


「ん? なんだって?」


「いや、酷い有り様だなとな」


 思わず日本語でツッコミをつぶやいてしまった。


「まさかここまでたぁなぁ⋯⋯」


 おっさん2人、額を合わせて嘆息してしまう。


「とりあえず食糧不足はゴブリン村と森人の里に協力を仰ぐとして⋯⋯まずは宿場町の野盗の取り締まりか」


「あー。それだがな。輿入れ希望の貴族の兵隊がバッサリやっちまって綺麗さっぱりだとよ」


「⋯⋯手間が省けたというかなんというか」


「とりあえず、そっちは後回しでいいわな。まずは治安維持のために民草が死なねぇ程度に飯を配って⋯⋯仕事させねぇとな。仕事がなきゃロクなことしねぇ」


「仕事なぁ⋯⋯」


 この世界の人達の仕事とは⋯⋯? 開拓村でボッチにやっていた俺には縁がなかったので遠い目になってしまう。


 しかし、雨が降ると水浸しだなこの街。


「ガロス、『下水』、いや、ああいう雨水を外に流す仕組みはないのか?」


「排水溝か? あるにはあるが詰まってんだろな」


 排水溝とはなんぞやを聞いてみると、精々がちょっと溝を掘っただけなようだ。この辺は、傾斜などを設計した俺プロデュースの開拓村の方が進んでいる。


「そこから手を付けるのはどうだ?」


「いいんじゃねぇか? 歩きにくいしな。作業従事者には飯を追加で出せばいいだろ」


「その辺の調整は頼む」


「了解だキング」


 何で俺がそんなことしなきゃならんのかという疑問が拭えないが、とりあえず前途多難な旧ダンダム魔我羅の立て直しがスタートだ。これもダンダムを陥したガロスのせい。ひいては俺の責任なんだがイマイチ納得がいかない。


「ちなみに糞尿はどう処理してるんだ?」


「その辺に埋めてんだろ。排水溝とか」


「畑に撒いたりは?」


「クソ撒いたらクソになんだろ!」


 Oh……もしかして肥料の概念がない?




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