第42話 ダンダム陥落
日が昇る頃にはダンダムから黒煙が立ち上っていた。普段の炊煙はもっと白い。
「⋯⋯落ちたか」
朝餉の支度を手伝っていた傭兵の誰かが呟いた。
生まれ育った場所が陥落するのは複雑な心境だろう。傭兵達の食事風景も心持ち精彩を欠いて見える。
しかし、スタンピート前に陥落してしまうとは⋯⋯。
ダンダムには特に思い入れも無いし、色々と理不尽な目に遭ったので内心では自業自得ザマァとしか思えない。こちらの世界の常識を逸脱した対応をされた訳では無いのも理解した上ででもだ。
「器が小さぇなぁ⋯⋯」
「お、お代わりをお持ちしますだっ」
あ、いやそういう意味ではないんだけど⋯⋯ダリは行ってしまった。サーラちゃんまだ食べれる?不用意な独り言危険。
これからどうしたもんか⋯⋯。
ダンダムが落ち着くまでって落ち着くんだろか。こういう場合は王都が動くのが筋なのかな?
「おいっ!あれ!」
鋭い声に皆立ち上がる。
ダンダム方面に目を凝らすと土煙が舞っているのが見えた。
⋯⋯馬車だ。
馬車が山賊に追われている。
二頭立ての馬車が全力疾走でこちらに向かっている。
それを走って追う十数人の山賊に⋯⋯ってあれゾッド傭兵団の人達だよね?何人か顔を見た事あるんだけど。
いや、こっち来んなし。
そういえば紋章官もダンダムに居たんだっけか。追われてる時点で面倒事な予感しかしない。
そして少なくともあそこにはヒロインは居ない!
⋯⋯とは言え。
「団長!」
「応っ!ダンダム傭兵団、出るぞ!遅れるなっ」
阿吽の呼吸で応じてくれる団長と傭兵達。流石この辺の動きが素早い。
「ダリ!投槍隊も出撃させろ」
「はいだすっ!第1第2投槍隊!出撃だすっ!」
お揃いの鉢巻に投槍器と数本の短槍を背負った24名のゴブリン達をダリが率い、ダンダム傭兵団に付いて行った。
⋯⋯過剰戦力だなぁ。
まぁ戦いにならないならその方がいい。
程なくして、ゾッド傭兵団達は威嚇射撃一射のみで戦う事なく撤退。
朝っぱらから二頭立て馬車を走って追うとか全力疾走お疲れ様です。
微妙な緊張感の中、馬車が到着し下りてきたのは相変わらず不機嫌そうな紋章官と暗い顔したお色気おば⋯⋯お姉さん、不貞腐れた青年、護衛らしき人達だった。
とりあえず休憩所へ案内し状況を聞くことにした。
「ご助力、感謝いたします。ダンダム辺境伯第1夫人のエメリーヌと申します。こちらは嫡男のマックス⋯⋯マクシミリアンですわ」
「シュウイチ・マガラ士爵だ。ご無事で何より」
「士爵風情が頭が高いのではないか?我を誰だと心得る」
うわーやっぱりこう言うの来ちゃったよ。
「マックス!士爵とは言え領地持ち貴族。そしてここはダンダムではなくマガラの地なのです。我が領地ではないのですよ。控えなさい」
「しかし母上!この領地は父上が下賜したのですよ!寄子として恩義に報い礼を尽くすのが筋でしょう!」
寄親として何かしてもらった事なんてないんだけどなー。面倒だからダンダムに帰ってくれないかな⋯⋯。
「⋯⋯ダンダム辺境伯は寄親となってはおらん」
「な、何ですと!」
苦々しい顔で紋章官が助け船を出してくれた。叙爵する場合は寄親が寄子の貴族章の代金を持つのが通例なのだが拒否ったらしい。驚愕の事実暴露だ。
王様が無料にしてくれなかったら詰んでたかも知れん。木材バブルで今なら支払えない事もないけど木っ端貴族に金貨10枚はかなり厳しい。
「ですから妾達は請い願う事しか出来ぬのです。マガラ士爵。どうか妾達に、ダンダム奪還の為のご助力を!」
「そ⋯⋯そうだ。ダンダム奪還に成功すれば陞爵してやろう。騎士団に取り立ててやっても良い。望む褒美をやろう」
「マックス!」
「望む褒美を⋯⋯?」
「そうだ⋯⋯金か?名誉か?女か?望むものを叶えてやろう」
「⋯⋯だが断る」
やっぱり俺はお約束のセリフを口にしてしまった。
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