第33話 遅々として進まず

左革ブーツに乗り低空飛行を編み出した俺は30分程度でダンジョンを脱出できた。低速なら高度を出す必要が無かった。これは便利。




途中のお馬様手前では虫がワラワラとまだ残っていたが若干高度を上げスルーした。身体痛いから動かすの勘弁して。




とりあえずあちこち痛いが傭兵団詰所に向かい、窓口で魔石を全部出した。






「団長は居るか?」




「⋯⋯これまた凄い量だな。団長は急ぎの仕事でダンダムに戻ってるぜ。それよかアンタ随分ズタボロじゃねぇか」




そういえば昨日、団長を軽く脅したんだった。




「最奥地まで行ったんだが蟻の巣があった。狩り切れないほどの卵がまだ残ってるから孵る前に対処した方がいい」




「なんだとっ!ボスは倒したのか?」




「ああ⋯⋯早く換金してくれ」




窓口のおっさんが飛び出して行きそうになったので換金を急かす。蟻の巣の魔石が出回ったら領主依頼の魔石買取割増も終わりそうだな⋯⋯。相場も崩れるかも?




蟻の巣までの道中には少しだけ虫が残っていた事と道順を教え、報酬を受け取る。大銀貨19枚と銀貨4枚になった。




「ポーションは置いてあるか?」




「いや無いな。薬屋で作ってもらえ」






一攫千金話に沸き立つ傭兵団詰所を後にする頃には夕暮れだった。






満身創痍のままダンダムに向かう気にはなれなかったので大人しく薬屋に行きポーションを大銀貨1枚で購入する。




「⋯⋯これを飲んだらどの位で治るんだ?」




「一晩寝たら大体治るさ。捥げたりしてなければね。ヒッヒ」




魔女の婆さんみたいだ。キャラ付けしっかりしてんな。






フラフラと飯も食える状態じゃなかったので、ポーション飲んで気を失う様に寝た。






◆◆◆◆◆




翌朝、不思議パワーで痛みは少し残るが骨折は治り、食欲も回復した。マナを循環させるのとは根本的に違う様だ。高価だけどお値段の価値はあるな。




白粥を掻き込み、ダンダムへ向かう。


あの日から3日、サーラちゃんは無事だろうか。






ダンジョン街の傭兵団詰所に一報を入れ、ダンダムの傭兵団詰所にやって来るまでは2時間程度。文字通り飛んできた。




城壁飛び越えて城門スルーしたらバレるのだろうか。ファンタジック結界とか無さそうだけど。




「おわっ。シュウじゃねぇか!これから騎士団に渡りつけるとこだが短気は起こすなよ」




団長がいた。夜駆けして昨日ダンダムに着いたらしい。




「魔具取ってきた。城には直接行っていいのか?」




「なッ⋯⋯昨日の今日で魔具取ってきただと!無茶苦茶だなお前さんは。まぁ待て。一度伺いを立てよう」




いきなり城に行っても門前払いされそうだし、誰宛に行けば良いのかも分からなかったので助かった。書状を作って出してきてくれるそうだ。




一々時間がかかってヤキモキしてしまうが宿を取り、そこで待つ事にした。








⋯⋯呼び出しがあったのは翌日だった。そのまま馬車で連行される。




今回は謁見室ではなく応接間の様な低めのテーブルを囲むソファがある部屋に案内される。領主の左にいた騎士のおっさんが座って待っていた。




「魔具はどこだ?」




魔具の短剣を包みから取り出しテーブルの上に置く。




「魔石を持て!」




従者っぽい人が魔石を差し出した。




騎士のおっさんが徐ろに魔具の短剣に魔石を押し当てると魔石が吸い込まれる様に消えてしまう。




「確かに魔具だな。風撃か」




魔具に魔石使うってそう使うのか⋯⋯もしかしてマナ要らず?




「良くやった。後日の呼び出しを待て」






騎士のおっさんはさっさと退室していき、俺は有無を言わせず追い帰された。

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