第32話 ご都合展開的なアレ


⋯⋯奴は生粋の狩人だった。




今まで何だかんだ大きな怪我も命の危険も感じる事なくやってきた俺を嘲笑うかの様に奴は悉く上手を行く。




手も足も出ない。




逃げる事すら出来ない。




そんな状況に追い込まれていた。




◆◆◆◆◆






女王蟻を倒し、魔具をGETした俺は少しだけ思案したもののボーナスステージが継続している事に一縷の望みを賭け、蟷螂部屋へ向かった。




正直、ここまでで時間が掛かったのは蟻の巣退治だ。次点で道中の雑魚退治。




後一匹の虫を倒せば思い残す事も無くなる。


倒さず帰れば倒しに来るのにまた1日使ってしまう。




後悔しない様に事を為す。それだけのつもりだった。




前回、様子を覗いた時に開けた入り口の石壁を蹴り飛ばす。








蹴り足を戻す前に音もなく通り過ぎる大きな影⋯⋯。




不吉な重い羽音を響かせ、それ程広くもない通路の宙に舞う。




「なっ⋯⋯出てっ⋯⋯!」






5メートル程の距離でこちら側を向いた大蟷螂は通路一杯に大きく翅を広げて滞空し、触覚を震わせ嗤った様に見えた。




鎌状の前肢を振り上げ威嚇かと思えば直ぐに振り下ろす。






途端に感知魔法が異常を感知し視界まで真っ白になると、棍棒で袈裟斬りされた様な打撃を受け壁に衝突した。


⋯⋯ヤバイっ!何か分からんけどヤバイ!




詰まる息と迫り上がってくる血反吐。視界がチカチカと瞬く光で埋め尽くされる。持っていた槍も手放してしまっている。頭もうまく回らない。




うつ伏せのまま喘いでいると羽音が止んだ。






⋯⋯トドメが来る。






俺は辛うじて蟷螂部屋の入り口に向かって左足を向け、膝を軽く曲げてから伸ばすと同時に弱目のマナ加速を掛ける。多少あちこちブツかろうが逃げの一手だ。




勢いよく足から飛翔する身体。




それなりの角度で部屋の入り口通路に突入し、擦り切れ打ち付けられながらも何とか部屋内への退避が成功する。しかし、袋の鼠だ。




初撃で右の鎖骨と左の肋骨が多分折れている。内臓もどこかやられているはずだ。その後の退避行動で余計全身ボロボロだ。右腕も手首から先くらいしか動かない。




気休めにチャクラを全開にしながら、左手を支えに上体を起こす。痛みに呻くと口から血が滴った。




入り口の向こうでは通路を塞ぐ様に翅を広げたまま降り立った大蟷螂が霞む目でも見えた。






⋯⋯クソっ⋯⋯待ち伏せてやがった。部屋から出て来れるのかよ。それに何なんだ。さっきのブン殴られた遠距離攻撃は⋯⋯?




奴は部屋より狭い通路で待ち伏せに徹する様だ。さっきの遠距離攻撃なら通路幅一杯の攻撃がくる。避けるスペースが殆ど無い。


そしてこちらの遠距離攻撃の要である右腕が潰されている。




出来るとすれば剣持って加速玉砕アタックくらいしかない。




後は⋯⋯さっきの魔具の指輪か。




結局、魔術とは何なのか分からなくても使えるものなのか?このままくたばる位ならまずは試すか⋯⋯。




何とか動く左手でポケットを弄り、そのまま指輪に嵌める。






⋯⋯嵌めて軽くマナを流した途端、脳髄にガツンと来た。視点がグニャグニャと揺れ定まらない。




クラクラときた頭が落ち着いてくると唐突に理解する。




⋯⋯成る程、これなら使えるはずだ。『火球』が。



マナを練り上げ指輪を通して触媒魔素なるものに変換。同じく変換した魔素殻なるものの中に水蒸気と二酸化炭素から、水素ガスとかアセチレンガスとか酸素ガスとか可燃ガスを生成して入れて、魔素殻外側は種火用に二酸化炭素を炭素と酸素を分離する触媒魔素で最初だけ高温にする感じかな?飛ばすのはマナ加速を連動してるっぽい。




無茶苦茶だけどファンタジー触媒魔素の効率が良いんだろなー。全然、火の魔法じゃないけど。基本、湿度無いと使えない。どちらかというと水魔法?




魔具の指輪が『火球』のイメージとマナだけで使える様になってる風。全自動感が凄い。




とは言え俺の魔法と比べるとかなりマナを食うけど。








⋯⋯ご都合展開で申し訳ないけど行くぜ蟷螂君!








「喰らえ‼︎爆烈ッ‼︎」




勢い良く左手を振り下ろす。






⋯⋯着弾と同時に俺も吹っ飛んだ。






気が付いたのは恐らくしばらく経っての事だろう。


地面のモッコリを枕に仰向けに倒れていた。当然感知には敵影は無かった。




口と鼻の穴に砂埃が詰まって息苦しい。






誰だよ閉鎖空間で爆発物使う阿保はッ!




いや凄いわ魔術。そこまでファンタジーを演出したいか?って位に無駄に高度だわ。人間技じゃない。




ヒィヒィ言いながらモッコリ宝箱を開ける。




⋯⋯鞘に収まった鍔の無い短剣だ。良いな。


抜くと刃渡り15㎝くらいの細身の直刀。こちらの魔具もくすんだ銀色で装飾はほぼ無い。




ちょっとマナを流すとさっき程の脳ショックはなく、『風撃』で魔素殻で圧縮空気作って攻撃できる様だ。頑張れば断熱圧縮で高熱も出せる代物?






使い勝手は絶対短剣なんだけどなー。どちらにせよ魔術は発動が遅過ぎなんで多分使わなそう。さっき使ったけど。




⋯⋯そもそも、魔素殻を扱える様になれれば魔具不要だな。マナを外に出せる場所になるのは利点かもくらいで触媒魔素とか無駄としか思えん。






とりあえず⋯⋯帰ろう。




右腕が動かない様に左手で支えながら足を引きずりトボトボと帰路についた。




欲かいたり舐めプ絶対ダメ!

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