第21話 無双と再会


 槍を背負い慎重に崖の様な下り道を下っていく⋯⋯。




 ⋯⋯敵影はまだない。



 底まで下ると先は行き止まりになっているが腰の高さの石の壁があり、感知によるとこの先の小部屋には敵がいる様だ。



 投擲用の木の杭を取り出し、石の壁を横に蹴飛ばす。


 すると奥からはゾロゾロと先を争うかの様に1メートル程の巨大ゴキブリが集まり這い出てくる。


「ゲイボルグッ!」

 しかし、ゴキブリは体高が薄く、必中のゲイボルグがあっさりと外れる。脚の数本だけが宙に舞った。


 マズイと思った時には5匹に囲まれていた。





「⋯⋯スタンプ!スタンプッ!ップッ!」


 槍を振り回したりもしたが結局全部ドスドスとマナで加速した左足で踏み潰した。左足革ブーツ無双だ。


 魔法のネーミングは地団駄踏んでたので短めになった。手抜きだ。




 トータルでゴキブリ7体、百足3体。多少ブーツと脛当が齧られるも無傷完勝。


 ダンジョンに入ってたったの30分で魔石は10個転がっている。



 這い寄る巨大ゴキブリに怖気が走ったが、途中から敵が銀貨にしか見えなくなっていた。普通サイズの方が嫌かも知れん。


 チャクラを起動しっぱなしはかなり疲れる。念の為、小部屋の入り口の石を蹴り戻し休憩を取る事にした。



 息が苦しい。吹き出す汗に湯気が昇る様だ。


 蒸された革鎧の首元から饐えた臭いが立ち上ってくる。


 目と鼻からはいつの間にか水分が滴っていた。



 いきなり沢山でちょっと焦ったけど、このくらいのサイズの敵なら槍で牽制して踏み潰しで行けそうだ。ちょっと死ぬかと思ったけどね。うん。




 ⋯⋯その日はもう一部屋回って計16個の魔石を持ち帰り傭兵団で銀貨16枚と交換した。


 ソロでの成果に驚かれ、流石は槍の名手と持ち上げられたがちょっと引くくらいの持ち上げ方だったのでやり過ぎたのかも知れない。


 それでも懐が暖まり、浮ついた気持ちでちょっと豪勢な晩飯を食べている時だった。






 怒鳴り声と共に娼館らしきテントから半裸で蹴り出されたサーラちゃん8歳らしき少女を目撃してしまう。


 思わず駆け寄ると体液に塗れ、顔も殴られたのか腫れている。身体もあちこち痣だらけだ。



「サーラちゃんか?大丈夫かッ?」

 意識も朦朧としている様で半開きの目には力が無い。


 テントから半裸の男が出てきて娼館の店主に何やら怒鳴っている。使い物にならないとか詐欺だとかだ。




 サーラちゃんを毛皮のマントで包んでやり抱き上げる。


 ⋯⋯軽い。


「店主、この娘を身請けする。いくらだ?」

 腹の底でドロドロと煮え滾る思いを押し殺し、噛み付く様に問うた。



「へ、へえ。⋯⋯ぎ、銀貨5枚ですっ!」


「この娘の母親は?」


「し、死にました。自殺で⋯⋯」


 銀貨5枚を投げ捨て、手続きは必要か聞いたが特に不要との事だったのでとっとと退散し、まともな宿を探す。



 場末の娼館だったのだろう。持ち金が足りて良かった。


 個室がある1泊銀貨1枚の高級な宿をとり湯を貰う。




 拭き清めてあげたが出血が中々止まらない。熱も出ている様だ。






 その日から3日間、病院もないため付きっ切りで看病し、ようやく小康状態を回復したがサーラちゃんから昔の笑顔は消え、言葉も失っていた。


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