第15話 冒険者再来
この村にやってきて気付けば2ヶ月が過ぎていた。
初期メンバーは俺以外お亡くなりになる様な過酷な選抜を潜り抜け、欠員繰上げで村長的ポジションに祭り上げられた俺は、窮地に陥っていた。
「やばい。何喋ってるかさっぱり解らん⋯⋯」
陽が頂点に達する頃、見回り役と再びやってきた第二次調査隊はやっぱりオラオラ山賊風冒険者だった。また3人。
見回り役が帰った途端、態度が豹変するのはお約束。舐められたら商売やってられねぇんだよ?って感じなのかな。
⋯⋯とりあえず早口過ぎる。顔近いし。ツバ飛んでくるし。何だろうこの鉄砲玉チンピラ。かませ犬専用キャラか?
多分、奴隷風情が偉そうとか何とか罵声を浴びせられてると思うんだけど如何したもんか。
プリーズモアスローリー?
この調査って断れないもんなの?
剣の柄に手を掛け今にも抜きそうな雰囲気なので、肩に手を置いて軽くマナを流してあげました。重力マシマシの方ね。
「静かに」
かませ犬チンピラは汚い悲鳴を上げて崩れ落ちた。悲鳴も犬みたいだ。
⋯⋯ちょっと強過ぎたか。すまぬ。
「村で殺す、殴る、だめ」
とりあえず後ろの冒険者2人に言い放つ。
「出来ない、なら、⋯⋯殺す」
あぁーもうちょっと言い回し!穏便に済ませられる語彙力が欲しい!
顔の表情は柔らかくしてたつもりだけど、それはそれで危ない人かも⋯⋯。
「あ、あぁ⋯⋯。こいつが面倒かけて悪ぃな。泊まるとこはあるかい?」
年配の冒険者が引いてくれた。助かる。ザマァとか言わないから大人だから!
きっと、魔獣がいる所に1人で生き残っていたのは見回り役から聞いていたのだろう。
ファーストインプレッションでガツンとやってみました的なお試しをした感じかな?
空き家が良いと言うので宿泊所として前に住んでた家に案内して、北の山々の間から流れる川が村の東にあって北にはゴブリンさん、東の川でゴブリンさんとお馬様に遭遇した事を地面お絵描きで伝える。南の狼さんは最近来ません。
「腹減った、言って」
自分を指差して伝えておく。あっちの家族に手を出しちゃあかんで。
早く何事もなく帰ってくれるといいなぁ⋯⋯。
などとフラグを立てつつ翌日。
朝日が昇りきる前の薄明かりの中、掘立小屋の戸を蹴破ってやってきたのは奴隷の風貌。戸口には知らない顔が2人。手には凶器を持っている。もう1人はトラップに掛かりうつ伏せに倒れ呻いていた。
「誰だッ?」
俺はすかさず飛び起き、脇に置いていた短槍でうつ伏せになっている男の心臓目掛け突き刺す。我ながら躊躇の無さに軽く驚く。
外からも破壊音や悲鳴が響いている。敵は複数。
誰何の返答も聞かぬまま、マナを練り上げ戸口の2人が重なる位置へ駆け込み槍を投擲する。
「ゲイボルグッ!」
魔法により加速された短槍が2人を貫き、鈍い打撃音と共に壁に縫い付ける。マナ加減は何とか上手くいった様だ。
投擲した短槍は両端が細くなってゆく様に削り、自分の手に怪我を負わない工夫をしたものだ。
⋯⋯ゲイボルグ!も言ってみたかっただけ。ちなみに全然必中ではない。寧ろ近くしか当たらない。
2人を串刺しにした槍は簡単には抜けなかったので行動不能と判断しそのまま外に走り出したが、かませ犬チンピラ冒険者が最後の敵を斬り伏せており戦闘は終了していた。
⋯⋯彼も意外と手練れだったらしい。複数の骸が散乱している。
冒険者達が居てくれて助かった。早く帰れとか考えてて正直すまんかった。
「ありがとう、助かった」
深く頭を下げて感謝の気持ちを示す。こっちの世界の感謝の仕方と合ってるのかは知らない。
「おう、無事か?
なんだ?3人も殺ったのか。 ヒョロイのにやるな!」
「おい⋯⋯2人、壁に刺さってんぞ⋯⋯」
年長冒険者に下げた頭をバシバシ叩かれた。
かませ犬チンピラともう1人はスルーしておく。
敵は全部で7名だった。
近くの開拓村を脱走した奴隷なのだろうか。補給品を狙っていたのかも知れないが⋯⋯。
被害は、旦那さんが殴られたのと1棟半壊、後は掘立小屋の壁に穴が開いたくらいで、掘立小屋の敵以外の4名は冒険者達が瞬殺したらしい。さすが専門職。
いやー掘立小屋を破壊されなくて良かった!もうちょいマナってたら倒壊してたかも。
それはさて置き、今回は冒険者が居てくれてラッキーだったけど、外の人間が簡単に侵入できてしまう村の防衛を見直す必要がある。トラップ習慣も自分の家にだけだったし。
とは言え、夜間まで見張るとかは人手も燃料資材も足りなさ過ぎて無理だ。そして人手増やすには切った張ったのヤクザな奴隷がきっと付いてくる⋯⋯。内憂外患、うーむ。
鳴子とかで音鳴らしても暗いとすぐ対応できる訳じゃないから殺傷力高いトラップくらいしかないかなぁ⋯⋯。
「なぁあんた、ウチの団に来ないか?」
まさかの冒険者勧誘キター!
誘ってくれた年長冒険者は割とまともだけど、こっちもこっちでアウトローの巣窟なんだよなー。
「村、いる」
「ま、小さくとも村長様だもんな。気が向いたら言ってくれ。ダンダム傭兵団のガロスだ」
傭兵団だった。
「俺はシュウ。38歳だ。ありがとう」
「「「はっ?マジかよ?」」」
⋯⋯ガロスは同じ歳だった。ダンディズムが恋しい。
◆◆◆◆◆
今回の傭兵達は熟練者であったらしく三日間の調査を恙無く完了させて帰っていった。
ちょっと傭兵を見直した。ガロスありがとう!
⋯⋯奴隷でも入れるんだな傭兵団。
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