第7話 惨劇の夜


「働かざる者食うべからず」

 奴隷頭が宣言した主旨は至極真っ当ではある。


 ただ、お前が言うな感が凄い。全員同じツッコミを脳内で入れてそうだ。



 俺なんか働いてるけど芋一個なんだぜ!

 明後日くらいに見回り補給役が来るから焦ってんのかな⋯⋯。


 奴隷カースト2位の4人は、拗ねたり項垂れたりしてる風だけどビンビンきてるね。


 外に怯えて反発してた筈が、食糧一人占めに反発にすり替わって大義名分を得たかの様だ。


 ま、俺が外に出てるけど死んでないから、外に出たら死ぬ論は使えないわな。


 奴隷頭の取巻きは剣を持ってるせいか即暴動にはならなかったけど、こりゃ夜討ち朝駆けだな。今夜は血の雨が降りそうだ。


 戦闘準備はしとこう。



 1人で水汲みになってから川原でチマチマ作っていた槍を取りに行かねば。


 槍と言うか木の杭みたいなもんだけど無いよりマシ。一応モンスター退治用途なんだけどね。



 1.2メートルの短槍(木の杭)は家に、2.5メートルの長めのヤツは木材置場に柵の外からコッソリ差し込んでおく。


 これ以上、長くするとこの辺の木じゃたわんで使い物にならん。手元太過ぎるし。



 ⋯⋯後は夕方でいいか。




 普段通り、水汲み湯沸しして柴刈りであっという間に夜。



 家はダン爺と2人だけになり広くなったので、ダン爺には月明かりの入らない所にみぞを掘って貰っていた。転ばせる程度の簡易落し穴だ。


 ツルで足を引っ掛ける簡易罠も準備してある。


 この辺は最近の俺達のルーチンワークだ。外で獲物を仕留めるためではなく内部犯行者向けなのが哀しい。


 さて、村の一番の働き手の我々まで襲わないでくれるといいんだが。



「ダン爺、くるかな?」


「⋯⋯来るじゃろうな」


 腹をくくるしかないらしい。


 今夜は寝れないぜ。



 奴隷頭が住んでる掘建小屋からは彼らのルーチンワークである4P性獣サウンドが洩れ聞こえてくる。


 平常運転やなあの人達。




 メンバー一巡したかなって時だ。


「⋯⋯シュウ」

 ダン爺が囁いた。


 俺は短槍に手を伸ばす。



 複数の駆ける足音がやけに響く中、扉なんてない我が家に勢いそのまま影が飛び込んできた。


 文字通り、すっ転んで頭からヘッドスライディングだ。手にしていた鎌も飛んで行った。



 向こうの掘建小屋からは怒声と悲鳴がひっきりなしに上がる中、こちらは差し出された様にそこにある首を静かに踏みしめ、現実感のないままに短槍を振り下ろした。


 鈍い音が喧騒にかき消されていく。動かなくなったモノだけが残った。



「⋯⋯キーか」


「痛ましいもんじゃのう」

 ダン爺はそんな感じの事を呟いた。俺の超意訳だ。



「あっち、行く」

 掘建小屋を指差し走り出す。


 多分気を付けろ的な感じの言葉をかけられた。



 建物内だと長槍の出番は無さげだったので短槍片手に掘建小屋に走り寄る。




 ⋯⋯うーむ。暗くて敵味方の区別が付かぬ。


 とりあえずギラリギラリと月明かりを反射している剣持ちと、対峙してる2人組は判別付いたので背後から太腿にブスリと。崩れ落ちるのを横目にもう1人の背中をブスリ。


 興奮状態だったせいか全く気付かれないままにバックアタックが決まり、立っているのは俺と剣持ちだけになった。



「⋯⋯あんた、大丈夫か?」


 呻き声と命乞いが混ざって相変わらず騒がしいので声が届いたか不安になったが、とりあえず灯りをつけてくれたので敵とは見なされていない事に安堵した。



「お前か。よくやった」

 お褒めの言葉を頂いた様だ。



 灯火がともると惨劇の舞台が明らかになる。


 血の海と飛び散った臓物。鍬で頭をカチ割られてる奴隷頭。むわりと粘つく匂いがそれらの匂いであると認識して思わず吐いてしまう。



 そんな中、バックアタックを決められ痛みに呻いている2人と虫の息のもう1人の取巻きに、剣持ちは淡々とトドメを刺して行く。


 俺以外に生きているのは剣持ちと全裸のまま隅で小さくなっている飯炊女だけになった。




 俺は震えたまま呆然と立ち尽くすだけだった。


 いつもより多くやってきた狼達の遠吠えがやけに耳に残った。


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