1章第5節 平穏の崩壊
ジャガイモ達の国が管理する図書館に国立大芋図書館(こくりつおおいも図書館)という施設がある。その図書館にはあらゆる書籍や文献が納められている。蔵書の数は数えるという行為自体が馬鹿らしくなる程だ。そしてその図書館の特徴として本の貸し出しは勿論、納められている全ての書物がデータ化されており、芋であれば誰でも端末から閲覧が可能であるという点だ。所謂、電子書籍というやつだ。
サツマイモは普段から端末で本を読み漁っていた。勿論納められている蔵書が全て閲覧可能な訳ではない。その中には当然閲覧禁止の蔵書も存在している。
とある論文の文献にこのような記述があった。[genetically modified]且つて、この世に[人類]という旧種が栄えていた時代に確立された技術である。その技術は穀物等の遺伝子を意図的に組み替え、人類にとって都合の良い作物を生産するというものである。しかしこの技術は、我々[芋]にとっては有害であると学会で発表された為、現在では禁忌の技術としてあらゆる文献記録から抹消されている。
「以降genetically modifiedの技術に触れようとするものは厳重に処罰されよう。」
人類の遺伝子組み換え技術は「忌まわしき技術」として抹消された・・・はずだった。しかし、ジャガイモの眼前には自らをgenetically modified(遺伝子組み換えされた者)と名乗る連中が現れたのだ。その言葉が本当かどうかは定かではないが、彼らから発せられる気迫は普通の芋には考えられない程の凄みを帯びていた。
勿論遺伝子組み換えなんて技術背景をジャガイモが知る由もない。故に常人ならざる気迫の理由も見当が付かない。しかし、学校の危機、増してやサツマイモやサトイモが後ろに隠れている状況で、退くという選択肢は無かった。
「あんたらが何者かはよく分からねぇ・・・。だが!あんたらが危険なことをするって言うなら黙ってられないぜ!」
ジャガイモはそう言って拳を構え眼前の三人に意気込んだ。しかし、どれだけ意気込もうと所詮は虚勢。ジャガイモ自身にテロリストと闘える程の戦闘経験は無かった。
(取り敢えず後ろの二人の手前、意気込んではみたが・・・。さて、どうしたものか。このハッタリに怖気づいて退散してくれねぇかな・・・)
ジャガイモはそう切に願った。しかし現実というものはいつの時代も非情。
ジャガイモの虚勢に対し俄然やる気を露わにしたテロリストの真ん中の奴が
「おぉいいねぇ!やっぱりそうこなくっちゃなぁ!」
と満面の笑みで腕をぶんぶん振り回している。
その様子から分かるのは、戦闘をこよなく愛している「狂人」だということだろう。ゴーグルの下の瞳はオモチャを品定めする子供の様な笑みを帯びていた。狂気の笑みというものは、こいつにこそ相応しいとジャガイモは内心で思うのであった。
リーダー格であろう真ん中の奴に次いで右の妖艶な奴が口を開いた。
「うふふふ、あなた一人で私達をどうにかするつもり?無理無理。むしろ逆の人数差でも敵わないわね。」
そういうとリーダー格が
「まぁまぁそう言うなって。こいつが何かしらの主人公補正とかで、もしかしたら微粒子レベルで俺達に敵うかもしれないだろ?ほら、よく言うだろ。主人公はどんな逆境でも負けないってさ。」
と小馬鹿にするような笑みを浮かべ戦闘態勢に入る。その様子を退屈そうに眺めていた左の豪勢な奴は
「そんなことは万に一つも起きんがな。」
と一言漏らし近場の瓦礫に座り込んでしまった。
その言葉に同調して右の奴が前に出た。どうやらジャガイモとサシでやり合うつもりらしい。
「そうよね~。まぁいいわ、そこのあなた。私が相手をしてあげる。
全力でかかってきなさい。お姉さんが現実というものを教えてあげるわ。」
そう言いながら、腕をブンブン振り回して楽しそうにしているリーダー格の奴を遮ってジャガイモの前に出た。リーダー格はその見た目とは裏腹に、頬を膨らまして不満を主張していた。
「ちぇ~、折角暴れられると思ったのになぁ。」
「あなたが戦ったら周りにも被害が及ぶでしょ?だから私が片付けるわ。」
「それもそうかw、よし!GM2、君に決めた!」
リーダー格はそう言ってGM2と呼んだ妖艶な奴に右手の人差し指でジャガイモを指す。一方の妖艶な奴は華麗にスルーしジャガイモに「かかってこい」という合図か右手で手招きしてきた。
(くっ、一対一は願ったりだが随分と舐められたもんだぜ・・・)
ジャガイモは怒りに身を震わせそうになるが、後ろの二人の事を考えて冷静に努めた。
(飽くまでも冷静に、勝機はきっとある!)
「しょうがねぇ。後悔するんじゃねぇぞ!」
そう言ってジャガイモは勢いよく拳を振り上げて目の前の奴に駆けた。そして拳を相手に当てようとした時、ジャガイモの体は空高く飛んで行った。
「あ~~れ~~」
というジャガイモの情けない声は遥か後方に弧を描いて消えていった。
その様子を見ていたサトイモは急いで飛んで行った方に走り出す。
「ジャガ~~!待って~~!」
ジャガイモを追いかけるサトイモを尻目にサッと見ただけで、サツマイモはその場に残っていた。テロリストの情報を少しでも多く知る為に。
ジャガイモを吹き飛ばしたGM2と呼ばれていた妖艶な奴は、あしらうように
「話にもならないわね。」
と零し指をハンカチで拭っていた。
速すぎて見えなかったが、どうやらジャガイモの額に超高速のデコピンを放ったのだと推測される。
その予想を裏付けるように
「あら~、綺麗に飛んでってw。デコピンってあんなに飛ぶんだなw。」
とリーダー格が爆笑していた。あまりにもリーダー格が爆笑するので、妖艶な奴が少しムスっとして
「一応加減はしたつもりよ。私、そこまで筋肉ゴリラじゃないわ。あのジャガイモ君が貧弱だっただけよ!」
と反論し、機嫌を損ねたのか
「もういいでしょ。ここですべきことは終了した筈よ。さっさと戻りましょう。」
と、リーダー格に言い寄った。リーダー格は爆笑の余韻か笑みが零れていた。
「そうだな、あいつらも何かしら対策してくるだろう。そうしたら、もっと面白くなるさ。」
そう言い残し、退散していく様子だった。瓦礫に座り退屈そうにしていた左の奴は
「だといいがな。」
と言い残し、一早く帰っていった。
追従するように他二人が帰ろうとしたとき、リーダー格の奴がこちらを見て
「じゃあ俺達は一旦帰るから、次来るまでには精々マシになっておけよ。それと、さっきのジャガイモによろしく伝えておいてくれよな。」
と言い残し跡形も無く消えていた。それを聞いたサツマイモは自分のことがバレていたことに戦慄した。
「奴らは、殺そうと思えば僕たちを皆殺しに出来たんだ・・・」
サツマイモは暫くして岩陰からゆっくり顔を出すと、ジャガイモが飛んで行った方向に走り出した。その道中、小さく呟いた。
「あいつらが何者なのか調べなきゃ。」
これから先に待ち受けている絶望に自分達は抗うことができるのか・・・脳裏に渦巻く不安を押し込め、サツマイモは走り出した。
第一章[唐突の来訪者] 完
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