1章第4節 強者の戯れ

「俺達は時代の変革をもたらしに来た。」


 テロリストの一人がそう宣言した。しかしジャガイモには現状をどうにかする思案で精一杯になっており、その言葉の真意を理解する余裕も思慮も無かった。そんなジャガイモが一人テロリストと対峙している中、サツマイモとサトイモは物陰に隠れて様子を伺っていたのだった。


「ジャガ大丈夫かな・・・。」


 ふとサトイモの口からそんな言葉が漏れた。どうやらテロリストの前にジャガイモ一人で行かせてしまったことが心配らしい。その語気にはいつもの明るくおどけた様子はなく、不安に満ちていた。無理もない。今まで生きてきた中でこんな経験は初めてである。それでいきなり「テロリストの前に立て」なんて方が無理があるのだ。

怖いに決まっている。その証拠にサトイモは先程から足を震わせていた。


 また、それはサツマイモも同様である。それ故サツマイモも


「今はジャガ君を信じるしかないよ・・・。」


と、なんとも頼りない返答をするしかなかった。


(なんで僕はここで怯えているんだ!なんでジャガ君の隣にいないんだ!)


 サツマイモは怯えながらも不甲斐ない自分に憤りを感じていた。しかし、ここでどれだけ指をくわえていても状況は好転しない。寧ろ相手の目的が不明な以上悪化することも考えられる。それ故サツマイモは、せめてここでできることをしようと思いテロリストの様子を観察することにした。


(・・・せめて、アイツらから少しでも情報を!)


 そしてジャガイモの方はと言うと、先の詰問に対し返答の意味が分からなかった為もう一度相手を刺激しないように尋ねた。


「俺に闘う意思はない、ただあんたらが何者で何の目的があるのか聞きたいだけだ!」


それを受けて真ん中の奴が頭を掻きながら、心底めんどくさそうに


「だから~俺達は時代の変革をもたらしに来たって。そうだな足りないオツムに分かり易く言うとだな。お前達の様な古き芋の時代は終わりを迎え、これからは俺達GM、つまりgenetically modifiedの時代になるというわけ。おわかり?」


と宣言した。どうやらテロリストはgenetically modifiedという軍団らしい。しかしそのワードに聞き覚えがないジャガイモはハテナを浮かべ


「じぇねてぃかり~・・・?」


と訳がわからないという表情だ。

物陰で会話を聞いていたサトイモも[genetically modified]という単語には聞き覚えがなくサツマイモに


「じぇねてぃかりーもでぃふぁいどってなーに?」


と尋ねる始末である。


 しかしサツマイモは一人険しく真剣な表情をしていた。

サツマイモはジャガイモ達三人の中で一番学がある。

どうやらgenetically modifiedという単語に聞き覚えがあるようだ。

サトイモの質問に対して、


「[遺伝子組み換えされたってもの]って意味だよ。でもそんなのありえない!遺伝子組み換えされたものは絶対自然に生まれないはず。そしてその技術は当の昔に失われているんだ!」


小声で、しかし驚愕の事実に信じられないという訴えで返答した。何がそんなに驚くことなのか分からないサトイモにとってサツマイモの様子は不思議だったが、あまりにも深刻な面持ちにおもわず黙ってしまう。


 サツマイモの解説を聞くことができないジャガイモは当然genetically modifiedという単語の意味は分からないのだがそんなことはお構いなしに真ん中の奴の言葉に続き、右の妖艶な奴が発言する。


「そういうこと。あなたの様な普通の芋の時代は終わってこれからは私達GMが世界を統治していくの。この暴動はその為のデモンストレーションね♡。」


そして、追従する様に左の豪勢そうな奴が


「そう、弱い者は強い者に淘汰される。これこそが自然の摂理なのだ。」


そう纏めた。要は、GMという存在を知らしめる為に暴動という形でアピールをしているということらしい。


 難しいことは分からないジャガイモはそれだけを理解し


「よくわからんがこの街や学校を壊すって言うなら俺も黙ってられないぜ!」


と気合十分にテロリストの前で意気込んだ。意気込んだところで形勢は覆らないのだが。しかしこの意気込みは悪手だったのか、その意気込みに真ん中の奴が反応を示し


「おっ!?やっちゃう!?遂にバトル始まっちゃう!?」


こちらは既にやる気全開といった様子だった。


 闘う意思はないと宣言し、事実闘うつもりは毛頭なかったジャガイモにとってこれは誤算であった。


(やべぇ、思わず口にしちまったがこれかなりヤバいんじゃねぇか・・・。)


 不用意な発言により一気に窮地に立たされたジャガイモはどうなってしまうのか。そしてサツマイモが気づいたGMの謎とは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る