2章第1節 芋の可能性

 ジャガイモ達がテロリスト集団と遭遇してから時は少し経過し、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモは半壊した本校舎側の体育館にいた。そこには、家に帰っておらずテロリストの暴動に巻き込まれた生徒達が集められていた。みんな学校を壊されたからか、はたまた身の危険を案じてか、不安そうにヒソヒソ話している。


 ジャガイモが妖艶な奴に吹き飛ばされて暫くした後、サツマイモはジャガイモの行方を探した。吹き飛ばされた方向を道なりに暫く探していると、学校の生垣に引っ掛かってのびているジャガイモと心配そうに見つめるサトイモの姿を見つけた。

サツマイモは急いで駆け寄ると、気づいたサトイモが


「あっ、サツマ!そっちは大丈夫だった?全然こっち来ないからさっきの奴等に酷い事されてるかもって思って・・・。」


そう言うサトイモの表情は心配と不安が入り混じったもので、いつもの明るい様子は消えていた。よく見ると目元にはうっすら涙が浮かんでいた。


「僕は大丈夫だよ。こっちに来るのは少しでも奴等から情報を得られるかなって。あんまり大したものは無かったけど。」

「そっか。とにかく無事でよかったよ。」


サトイモはほっと、深い安堵の息を吐いた。どうやら、心底心配していたらしい。


「それで、ジャガ君は?」


 ザっと見た限り目立った外傷は見られない。強いて言えば、デコピンを受けたであろう額に少し怪我をしているくらいだ。体の方は生垣がクッションになったおかげで無事だったのだろう。サトイモも同じ考えに辿り着いていたようで


「パッと見大丈夫だと思う。今は気を失っているけど。」


と心配はしているもののそこまで取り乱してはいなかった。いつもは明るく気さくだが、根っこの部分ではしっかりしているのがサトイモの美点だ。


「ジャガ君は多分大丈夫だと思うよ。でも心配だから一応保健室に運ぼう。」

「うん。」


 そう言って二人でジャガイモを担ぎ上げ保健室まで運ぼうとした時、突然校内放送が響き渡った。声の主は学長だったが、普段の落ち着いた雰囲気とはかけ離れ、酷く取り乱していた。


「みなさん、無事ですか!?まだ校内に残っている人は至急本校舎体育館まで来てください!動けない人は、動ける人が協力してあげて下さい!繰り返します!まだ校内に残っている人は至急本校舎体育館まで来てください!動けない人は、動ける人が協力してあげて下さい!焦らなくていいので、ゆっくり慎重に集まって下さい。」


サトイモは事態の大きさがまだ分かっていないのか。


「先生めっちゃ慌ててたね。」


呑気に言っていた。サツマイモは事の重大さを悟らせようとサトイモの方を見ると、その表情はどこか現実を受け入れられていないという表情をしていた。

それを見たサツマイモはどこかいたたまれなくなり、今はそっとしておこうと思い


「そうだね。学長が呼んでるからジャガ君起こさないとね。」


現実に蓋をした。サツマイモがジャガイモを背負って運んでる道中に目を覚ましたので事のあらましを説明した。


 そして現在に至る。集められた生徒が不安がる中、放送で取り乱していた学長がステージに出てきた。


「みなさん、ご無事で何よりです。幸いにも私達教員の方に、大きな怪我をした人がいるという連絡は受けていません。みなさんに集まってもらったのは、安否の確認と学校を襲った奴らについてお知らせする為です。」


周りがどよめき始める。


「学校を襲ったのは自らをgenetically modified(遺伝子組み換えされた者)と名乗るテロリスト集団です。彼らは大人数で学校を襲い、そして[我々は時代の変革をもたらしに来た]と言い残し、暫くして学校を去っていきました。

彼らの具体的な目的はまだ分かっていませんが、これは学校だけの問題ではなく、今や全芋類の危機です。」


 どよめきが大きくなる。無理もないだろう。突然訳の分からない集団に学校を壊され、挙句の果てに全芋類の危機とまで宣言されてしまえば、生徒達はどうしていいか分からず困惑してしまう。そんな生徒達の不安を打ち消すかのように、学長は大きく息を吸い


「ですが安心して下さい。彼らテロリスト集団を撃退する術はあります。正確にはみなさん一人一人がテロリストを撃退できる可能性があるのです。」


 生徒達は訳が分からず、学長の頭が可笑しくなってしまったのではないかと話す生徒も出てきた。そんなことは意に介さないかのように学長は続ける。


「静かに。これは本来秘匿事項だったのですが、緊急事態ですのでやむを得ません。」


学長は一呼吸置いたあと、意を決したように次の言葉を口にした。


「みなさんには特殊な能力が備わっています。この学校は、そんなみなさんを匿い正しく導く為に創設されました。」


体育館からどよめきが消えた。


 ある時、「君は実は超能力者なんだ。その能力があれば悪い奴らを倒せるよ。」なんて言われるとしよう。まだ分別が付ききっていない夢見がちな子供なら喜びの舞をするかもしれない。しかし高校生にもなって、いい加減現実というものが分かりだした時期に言われても


「「「「「は?」」」」」


となるのは自明であろう。いきなり「はい、そうですか」と受け入れられる人は極僅かだろう。受け入れられる人は、超が付くほどの素直に受け入れる人か、日頃からそういった類を妄想している所謂中二病と呼ばれる人くらいだ。


 そんな馬鹿らしい学長の発言にサツマイモはあきれつつ、同意を求める為ジャガイモとサトイモを横目で見た。そこには、超能力という単語に目を輝かせる二人の瞳があった。僅かな存在はすぐ隣に二人いた。

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