初めての寄り道
中間テストが終了した。
まあ、わたしは予想通りいつも通りの出来だった。それは杉本くんも同じだったらしい。で、ゆいは始めるのが遅かったからか「できなかった〜……」と泣き言を言っていた。
「師匠〜!」
ここねんはどうだったんだろう。と思ったタイミングでクラスにここねんが入ってきた。
わたし説明下手だったからなあ。これでよくできませんでしたって言われたらちょっとショック。
「ど、どうだった?」
「できました!」
その自信満々な声にホッと一息ついた。
「師匠に教わったとこだけ!」
そしてガクッとなった。わたしがここねんに教えたのは応用のところとか難しい場所ばっかりだった気がするけど……。
「なので、最初の問題とか全然わかりませんでした!」
「おい! そっちが点取り問題だよ!」
……まさか、基本問題全部わからなかったとか?
いやいや、さすがにそれはね。
「まあ終わったことはいいじゃないですか。それより師匠、今日テストだったから帰り早いですけど」
「あ、そっか。昼で帰れるんだっけ」
中間テストは二日に渡って行われる。昨日は教科が多くて終わるのは昼をすぎる時間になってしまっていたが今日は教科が少なくて半日で終わる。
「ゆい、今日」
「ごめん、部活なんだ」
「あー部活か……」
ということは今日空いてるのはわたし、ここねん、それに杉本くんか。せっかく時間も有り余っていることだし、ただ帰るのは味気ないよね。
でも杉本くん、今まで誘っても断って来たからなあ。
まあいいか、誘うだけ誘ってみよう。
「杉本くん、今日はどこか寄り道して行かない?」
「いいよ」
いいのかい。なんでいきなりそんな態度に……ってあれか、前言ってたように無愛想を克服しようとしてるのか。
「だけど……」
「ちはっす杉本の彼女の宮里っち」
なんかチャラい人が突然会話に入ってきた。
髪の毛金髪だし、ネックレスつけてるしイヤリングまでつけてるし口調すごいし何この人。
……なんてね。
知ってるよ。学級委員ですから。
このチャラい系の男子はこの1-Bクラスメイトの香川祐介。杉本くんと真逆の性格をしているけどなぜかいつも一緒にいる。類は友を呼ぶじゃなくて正反対を呼んじゃってる。
「どうしたの香川くん」
「いやあ、今寄り道って単語が聞こえたからさ。これは聞き捨てならねえってやつだよ」
「つまり香川は暇だということだ」
「おい杉本! そこストレートに言っちゃダメだろ!?」
「ははあん、そういうことかあ……」
「宮里っちもからかう笑いやめて!」
……と、まあこんなふうによくしゃべる香川くんに杉本くんがバッサリ言う流れが漫才っぽくて男子に人気なのだ。
場が和んだところで、香川くんがわたしの後ろにいるここねんを見つけた。
「というか、そっちの子は?」
「違うクラスの寺石ここねちゃん」
「俺香川祐介。よろしくー」
その軽い挨拶に、わたしの影に隠れていたここねんは顔だけ出すとハッキリ言った。
「あなたみたいな完全ウェイ系は嫌いです」
「あれここねん!?」
いつもは誰でも愛想よく接するあのここねんが、初対面の相手にキッパリ嫌いだって……!
「あ、ううん、そうか……」
香川くんも予想外の反応で若干押され気味だよ。
「じゃあ、杉本くん行こっか」
「うん」
気まずい空気になりかけたので、わたしは強引に話題を変えた。
「二人はどうする?」
「行きます!」
「行くー」
ほぼ同時に二人が答えた。
これは……一波乱ありそうな予感!
……なんて言ってはみたけれど。
あんまり思っていたようなバチバチ火花を散らして争うような気まずい雰囲気にはならなかった。
まあファミレスにでも行こうかとわたしが提案して決まり、今ドリンクバーに杉本くんと香川くんの二人が行っている。
わたしと杉本くんが図って席を対角線上に置いたのが功を奏したのか。だけど今日のここねんはあまり楽しくなさそうに見えた。
……思い切って聞いてしまおう。
「香川くん初対面なのになんで嫌いなの?」
「いや、雰囲気的に?」
そうだよねー……あのタイプは賛否両論しっかり分かれるよねー。
「師匠とか杉本さんとかゆいさんとか、ただ普通に日常を楽しんでるリア充は好きです。だけどあんなふうな露骨なやつは見たそばからウザイが来ますよね」
「あー……わかるかも」
わからないけど。でもとりあえずはあのチャラさが嫌いってわけだね。
「じゃあここねん、早く帰りたい?」
無理してここにいる必要はないのだ。香川くんには悪いけど嫌いな人と一緒にいるのは気分が悪くなるものだろう。
わたしは気を使ってそういったつもりだったけど、ここねんは「そんなことあるはずないじゃないですか!」とムキになって否定した。
「別にあんなやつのことなんて気になりませんよ! わたしは師匠と一緒にいたいからここにいるだけですから。わたしの心配はしなくて平気です」
そうしてギューッと抱きしめてきた。たぶんこの絵柄、傍から見たら子供が「お母さん大好き!」の図だ。いやお母さんじゃないけどね。
「それならいいんだけど……」
ちょうどいい場所に頭があったのでファサファサ撫でながらわたしは思っていた。
なんか最近、ここねんとの距離が異常に近くない?
ついこのあいだお泊まりさせたし。一緒にお風呂入るまでしたし。ベタベタしすぎな気が……。
いや、ここねんが近づいてくるからなんだけど、なんかこう、わたし自身も受け入れているような、手持ち無沙汰にちょうどいいというような……。
「ふへへ……やっぱり師匠柔らかい……」
「離れなさい。そして変態っぽいこと言わない」
「てへ☆」
うーん、待ってよ、手持ち無沙汰ってなんだ。ベタベタするのに無沙汰とかあるかな、いや、でもたしかに持て余している感じはあるよね。
なんだろう、ベタベタを持て余す……。
「おまたせしました。トロピカルフルーツパフェです」
考えているあいだに注文した品が到着した。
「ありがとうございます」
まあいいか、一口食べちゃおう。
そう思ってスプーンを手に取り、まずはクリームを一口、パクと食べた時だった。
ハッ、とわたしの頭に思い当たるところがあった。
「……そうか」
そうだったんだ。
わたしがここねんとベタベタし始めたのは、ここねんが可愛くて仕方ないっていうことだけじゃなくて、他にも理由があったんだ。
つまり、わたしは杉本くんとはまだイチャイチャできないから、その欲求をここねんで満たしている、というわけだ。
我ながら何を言っているかわからないけどそれなら最近杉本くん依存症が発症しなくなったのにも説明がつく。溜まる欲求不満がいい感じにここねんで解消されていると考えれば。
となるとああいうことを杉本くんとしたい、ということになるのかな。ベタベタしたりギュッてしたりお泊まりしたりお風呂に入ったり……って、無理無理! やったらわたしの方が恥ずかしさで死んじゃう!
「師匠? どうかしたんですか一口食べただけで赤くなって。アヤシイ薬でも入ってたんですか?」
一人で妄想を膨らませていたらここねんに注意された。顔に出てしまっていたらしい。それにしてもアヤシイ薬が入っているという発想はどこから来たのか。
「ち、違うの。なんでもないから。あ、そうだ、ここねんも食べる?」
わたしは気をそらそうともう一口分スプーンですくい、ここねんへ向けた。
「いいんですか! もらいます!」
「はい、あーん」
「あーん」
ここねんはカプリとスプーンを食べた。……言い間違えた。ここねんはスプーンですくったものを食べた。
……あれ、よく考えてみると今あーんしたんだよなわたし。すごく自然に。
「ま、女の子だからね!」
「何がですか?」
そうして自分を納得させると杉本くんと香川くんが帰ってきた。
「いやあ、やっぱりドリンクバーといったら合成だよねー」
香川くんはもとが何かもわからない黒と緑とオレンジとかを混ぜた色のグラスをテーブルに置いて言った。
「ただの馬鹿だな」
対して杉本くんは普通の紅茶だった。無駄のないシンプル。性格でてるなあ。しかもドリンクバーでジュースとかじゃなくて紅茶っていうのは中々にかっこいい。
「なんだとー?」
「あ、そうだ杉本さん!」
杉本くんと香川くんが小競り合いしている中に割り込んでここねんが言った。
「師匠のパフェ食べさせてもらいましたけど、美味しかったですよ!」
「え、まじ。食いたい」
そっかー、たしか杉本くんはスイーツ系男子だったね。食いつくのも無理はない。
「じゃあはい」
わたしはまたスプーンでパフェをすくうと今度は杉本くんに差し出した。
「サンキュ」
と杉本くんはパクと一口で食べきった。
「たしかに美味い」
「でしょ。わたしここに来るといつもこれ頼むんだー」
そうして何事もなかったかのように自分のパフェを自分ですくって自分の口で食べた時だった。
……あれ?
これって、まさか?
間・接・キスでは?
いやそれ以前にさっきナチュラルに杉本くんへあーんしたよね?
え、やばい。ここねんにやったノリでやっちゃった。
やばいよやばいよ。でも今の誰も気づいてないっぽいし。当の杉本くんは何も思うところがない表情してるし。あ、それはいつもか。
これは進展したって言っていいのかな、それともただの事故?
ああ心臓がバクバクし始めたよ張り裂けそう――!
「宮里っち、俺にもちょうだい」
「それはいや」
「ええ!?」
ありがとう香川くん。あなたのおかげで一気にクールダウンできた。
そのあと店を出る時に、「俺って女子に嫌われやすいのかな……」なんて本気でへこんでいたのでいたたまれなくなったけど、頑張って! わたしは応援してるよ!
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