ステータス
そういえば、わたしの情報について何も公開してなかった。
わたし、宮里ひかりはクラス1-Bの学級委員。まあ基本的に真面目系の人間だよね。
部活には所属してない。あんまりそういう熱いのは好きじゃない。
そんなわけで交友関係はクラスだけだ。でも上手くやってるから安心してほしい。
「あんたたち、付き合ってる、のよね?」
ほら、しっかり一緒にお昼食べる友達もいる。
って、聞き捨てならないなそれ。
「そうだよ。しっかり正式にね」
「なら、なんで一緒にいないで私とごはん食べてるわけよ」
「う……だって恥ずかしいし……」
「そんなピュアぶってないで堂々としてなさいよ。もう周知の事実なんだから」
むっとなってわたしは友達のゆいを睨んだ。
そう、なぜかわたしと杉本くんが付き合い始めたという情報は瞬く間に拡散され、クラスはおろか学年にまで広まっている。と、ゆいが言っていた。
「あんまりそういう行動してないのになんで知られてるんだろ」
でもよく考えたら杉本くんの無愛想のせいでろくにイチャイチャすらしてないのにおかしいよね。なに、みんな察すレベル高くなりすぎちゃった? あの関係から付き合ってるって考えるのはもはや悟り開いてるよ。
「ああ、それ杉本くん本人から広まってるらしいよ」
まさかの身内からだった。
「ええ!?」
「男子での話で恋愛関係の話になって、彼女いるって話になって杉本くんが一人『うん』って言ったのが始まりみたい」
「おおう……」
わたしは頭を抱えた。
絶対杉本くんのことだから『誰?』っていう質問にしっかり一言『宮里』って答えたんだろうなあ。すごい想像しやすい。
「まあそれが発端なんだけどさ。ひかりもひかりで有名人だから広まるのが早かったんだと思う」
「でもわたし他クラスと交流ないけど」
「あんたね……。それでも顔は広いのよ。ほら、ひかりは容姿端麗、才色兼備、成績優秀とかその他もろもろ最強のスペックしてるじゃない。テストの順位はいつも一位でよく前でスピーチしてればそりゃあ有名人よ」
「そうなの? わたしの顔見たってなんにもならないし人の成績なんて興味ないだろうしスピーチだってよく聞かない方が普通なんじゃないの?」
「ひかりはもうちょっと人の感性を磨こうね」
はあ、とゆいはなぜか深くため息をついた。
「知らないだろうけどひかりのファン、結構いるのよ。今回のはスキャンダルとしてブワッと広まっていったって感じね」
「へー」
「ひかりはそういうの本当に興味なさそうね……。でも考えてみると学校でイチャイチャしないのはいいのかもね。おかげで嫉妬したりする輩がいなくて済んでるんだし……(もっとも、そんなやつがいたら真っ先に潰しにいくんだけど)」
「ん?」
「いや、なんでもない。昼休みも終わることだし早く教室戻ろ」
「うん」
席を立って教室へ向かうゆいにわたしも続いた。
「……帰る?」
「あ、ごめん。今日先生に頼まれてたことやんなきゃなの」
嬉しい杉本くんのお誘いにわたしは泣く泣く断らなければならなかった。学級委員だと、どうしてもやらなきゃいけないことがあるから面倒だ。今日は荷物を運んで、書類を作って整理までしなければならない。
ちなみにこの学級委員、もちろんわたしは立候補したわけじゃない。推薦というか満場一致で無理やりといっていいくらいに強引にやるはめになってしまったのだ。
「じゃあ手伝う」
「いいよ、一人で大丈夫。それと今日はたぶん遅くなっちゃうから先に帰ってて」
「……うん」
声も顔も一定すぎて掴めなかったけど、肩を竦めたところから見て残念がっているんだと思う。
そんな杉本くんを教室に残し、わたしは荷物を持って職員室まで運んだ。
……そういえば、杉本くんも部活入ってないんだっけ。まあいつも一緒に帰れてるってことはそういうことだよね。
ゆいにはああ言われたけど、どちらかというと杉本くんの方が有名人な気がする。
顔はイケメンだし、スラッとしたモデル体型。外見のスペックは最高レベルだと思う。
それだけじゃない。運動もそこらの運動部と肩を並べることができそうな実力を持ってるし、勉強だって学年二位をキープしていたはずだ。……あ、人の順位、わたしが興味持ってた。
そして極めつけはその表情だ。いつも無表情だけどそこにクールさとそこはかとない哀愁を感じる。しかも最近では顔に出ないだけで内心は結構ピュアだって知ったし、もう最強じゃん。
なんで彼、女子の評判悪いんだろ。愛想悪いのって逆によくない?
そりゃあわたしはあともう少しくっつきたかったりするんだけど……。彼の素があれだと考えるとそれができないのもしょうがないというか。
だけどほんの少しずつ、だけど距離は縮まっている気はするのだ。このまま一日一日重ねていけばきっと一年生が終わる頃には……って長すぎか。
「いいんだよ、別に漫画みたいな関係じゃなくたって。十人十色だよ、だから杉本くんとは一緒にいれさえすれば……」
いや、やっぱりもう少しベタベタしたい!
これがわたしの欲求不満なのか杉本くんの欲求がないだけなのかはわからないけど、せっかくだからもうそろそろ恋人らしいことがしたい!
「……あーダメだ、さっきから杉本くん関連のことばっかり考えちゃう……」
首を振ってその考えを取り払いながら書類の作成と整理をした。だけどまたすぐに杉本くんのことが……。
ハッ。
これってまさか杉本くん依存症なのでは?
無愛想で程よく満たされない気持ちを無理やり埋めようとしてさらに杉本くんに固執してしまうあの?
ああーっ! なんじゃそりゃ聞いたことないよ。とか考えてるあいだにまた……もう! 集中できないじゃん!
頭の中で終わりのない戦いをしながらやったので予定より大幅に遅くなってわたしはやるべきことを終えた。いつもより疲れた気もした。
そうしてもう夕も暮れ、薄暗くなり始めた頃にわたしは自分の荷物を取りに教室に戻った。
んだけど。
「え……?」
「どうしたの、早く帰ろう」
教室には出ていったときと同じ場所に杉本くんがいた。
「待っててくれたの? 帰ってもいいっていったのに……」
素直に嬉しくて飛び跳ねたいところだけど、長いあいだ待たせてしまったことへの罪悪感でそれははばかられた。
だけど杉本くんはその無表情のままこっちに近づいてきて言うのだった。
「俺、宮里と帰りたいから」
「……へ」
なにそれ。簡潔だからこそストレートでわたしに突き刺さる言葉なんだけど。
「別に待つのは嫌いじゃないし」
彼は変な方を向いてそう付け足した。ってことは恥ずかしがってながらもここまでアピールを?
「〜〜〜〜〜っ!」
やばい、なにこれ、体が火照ってきた。恥ずかしい、嬉しい、ずっと一緒にいたい。
「ひぇっ!?」
そうして悶えていたら、いきなり杉本くんに手を掴まれた。思わず変な声が出てしまった。
「ほら、帰ろ」
「……うん」
もうわたしの顔すら見ないでいう杉本くんにわたしも頷くしかなかった。
そうして帰るわたしの幸せゲージは振り切れてもうそのあたりの記憶が飛んでしまっていた。もう少しベタベタしたいと思ってるその時に手を繋いでくれるなんて。もう幸せすぎて……。
そのあとの数日間は、ずっと口もとが緩みっぱなしだったという。(ゆいの証言)
「なんか、とろけてる感じだったんだって」
「そ、そんなにやばかった?」
「うん。でもわからなくはないよ」
「え、なにが?」
「そりゃあいつも無関心そうな付き合ってる男子にいきなり手を繋がれたら、ねえ?」
「えっ」
なんでゆいに知られてるの!?
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