ほころびあじ

「先輩のことが、好きです!」


まだ寒い下校途中、君はそう言った。2人で帰る道のりは中程で、街灯が煌々と灯っている。君は期待に満ちた目を隠せていない。


如何してこうなってしまうのだろう。クソ野郎め。10人に1人はこういうのがいるんだ。私は少女漫画のヒロインみたいにときめいたりしない。反吐が出そうだ。思えば


「もし先輩が僕に告白したらどうします?」


だの


「先輩は、素敵だと思いますよ」


だのとおかしかった。



私は女の子が好きだ。いいや、女の子しか好きになれなかった。女の子にときめく私は、必然的に女の子に話しかけられなくて。どうしても男の友人が多くなった。彼らは私のことを良く理解してくれた。彼らと性癖の話をしたり、新作ゲームの話をしたりするのは楽しかった。


だが、そんな中にも私をわかってくれない奴も現れるのだ。この後輩のように。勿論世間にはそういう輩の方が多いのはわかっている。それでもこいつはわかっていると思っていたのに。かわいい後輩。母性のような何かが呼び起こされる、人懐っこいやつだった。


君に借りた手袋は、暖かいはずなのに冷たい。そうだ、私は君にこう言ったことがある。

「恋っていうのは人間が進化の過程で手に入れた『妥協』なんだよ。」

それを聞いた君の目は悲しそうだった。その時点で、気づかないといけなかったのだろうか。ねえ君、本当に私のことが好きなの?気の所為じゃないの?ねえ、私くらいしか優しくしてくれないから勘違いしてしまっただけじゃないの?只の敬愛を取り違えてるだけじゃないの?聞きたいことは山ほどある。でも一つだけ、


「君は付き合って何がしたいの?」

「先輩と一緒に居たいんです!一緒に行きたい所もあるんです!」

「それ付き合わなくてもできるよね?」


思わず冷たい言葉をかけてしまう。


「えっと……」


一呼吸置いて。


「僕は先輩と特別な関係でありたいんです。」

「独占したいというか、、、」


嗚呼、痛いほどわかるその心!私も恋をしたことがあった。さらさらの髪の彼女は美しく、私に答えてくれることはなかった。独占したい、愛されたい!切に願うのは当たり前だろう!でも、


抗えない生理的嫌悪。私に告白されたあの子も、こんな気持ちだったのだろうか。だから私は、いやは、言わなきゃいけない。


「ごめんね、その告白を受けることはできないや。」


自己中心的で自己陶酔の激しい2人は、綻んで壊れてしまった。


注いだ友愛の愛だけ、憂哀の哀は重くなる。

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