にくせいあじ
小生は騒々しい教室に座り、目の前のくじを見詰める。この狭く臭く煩く生暖かい教室では「小生」も「僕」に化けていなければならない。
貴女の近くを夢見ながら、運命の女神に跪く。さあ番号は。
「16」
なんてことだ。教室の中央ではないか。僕はこれからしばらく騒音の中心で暮らさなければいけない事実に気が滅入った。今までのように日の傾く野辺を眺めることも、冷たい風の手を握ることもできないのだ。
まあいい。運命の女神は残酷だ。そんなことより貴女の席は?
……おや、どうやらくじの数が違ったみたいだ。誰かが言う。
「●●ちゃん、15と27どっちがいい?」
15、僕の隣だ。貴女の選択は?そういえば、貴女はとても優柔不断だった。幾らでも待とう。待雪草さながらに。
「15は絶対嫌」
そうだろう、そうだろう、当たり前のことだ。クラスで1番気持ち悪い僕の隣なんて嫌だろう。その上僕は貴女を目で追いかけた。貴女に話し掛けた。貴女の教科書を間違えて拾った。貴女とたまたまぶつかった!
どんなに気持ち悪いと周りに言われても、僕は貴女を愛していた!
いいや、この思いは冥王星の海よりも深く火星の火山より熱くこの胸に燻り続けている!
金平糖の様な貴女に恋をしたあの日に感じた絶望よりも、世界の何よりも凍てついた絶望が、僕にのしかかりその氷は身体中を貫いた!
なんでもないふと零れた言葉、僕にとってはそれだけでも大粒の弾丸、二度と味わいたくない苦い水。
あの日の葉書を思い出し、今日の肉声を思う。諦め時だろう。未練に塗れた僕の姿は、道端の吸殻より汚いはずだ。
でも今日だけは、冬の凍える寒さの様な悲しみを、二度と戻らない命を失った様な絶望を、噛み締めさせてはくれないか。二度と間違いを犯さぬように。……僕にはお似合いの物じゃないか。嗚呼、最後に一つだけ。
愛しの貴女に、
溢れるほどの「ごめんなさい」を。
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