はがきあじ

 小生が夢と現を漂いながら、炬燵という堕落の箱に下半身を喰われて居ると、不意に玄関の方から郵便配達の音がした。こんな黄昏時に一体誰からだろうか。夕闇は静かに街を包み込み、眠りという僅かな安息の時をゆっくりと運んでくる。

 炬燵から這い出し、寒空の下郵便受けを覗くと1枚の絵葉書が入っている。菫色のそれは微かに懐かしい匂いがして、まるで夢を見て居る様な錯覚に陥る。


 送り主は、


 本当に小生は夢を見ているのかもしれない。まだ白昼夢に囚われて現実を見失っているのかもしれない。だが、小生はそれでも構わない。

 身体全体に甘い衝撃が走る。柄にもなく心臓が高鳴る。歓喜の声を上げる内臓達を押さえつけて、ひとまず炬燵に戻る。絵の付いている側に短いメッセージが一つ。


「  」


 なんでもないお決まりの文章だが、小生にとってはそれだけでも大粒の真珠、もう二度とまみえる事の無いだろうと思っていた宝石箱。

 アメトリンの様な喜びは、小生をあの日々に引き戻してくれる。あの時、あの場所、あの姿に。無邪気な貴女は駄菓子屋の金平糖の様に笑っていた。綺麗だった硝子細工を壊したのは小生の方だと言うのに。未練は消え去ることも無く、内臓の奥で燻り続けている。いい加減、終わらせなければならない。

 でも今日だけは、春の麗らかな日の様な喜びを、無くし物を見つけた時の嬉しさを、愛を囁かれた時の愛しさを、味わわせてはくれないか。……どれも小生には縁のないものだけれど。それ位は想像させてくれまいか。


 愛しの貴女に、溢れるほどの感謝を。

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