しゅわしゅわあじ

美しい化け物は微睡む。


んー...むにゃむにゃ、まだねむたいな。

「...さん...きなさい...」

なにかな、とってもうるさいや。

「...しさん...小鳥遊さん!起きなさい!授業中ですよ!」

そんなのしらないよ。でも、こんなにうるさいと寝られないからなぁ。よいしょ。

「...まったく、ちゃんと聞いてくださいよ。」

りょーかーい。きょうのごはんでも考えよーっと。昨日はしっかり焼いたから、今日は生がいいな。でもそれだと皮が硬そうだな。どうしよう...

「はいでは小鳥遊さん!これを答えてください!」

ん...なにもう、えーっと、硫酸の性質?

「えーっと、硫酸の性質は濃度と温度によって大きく異なります。質量パーセント濃度が約90%未満の水溶液を希硫酸と言います。希硫酸は強酸性ですが酸化力や脱水作用はありません。質量パーセント濃度が約90%以上の水溶液を濃硫酸といいます。これは強力な酸化力や脱水作用を有し、濃硫酸のハメットの酸度関数は96%では H0 = −9.88 であり、98%では H0 = −10.27 の強酸性媒体です。」

「...はい。正解です。」

答えられないとでも思ったか〜。残念。ちゃーんと答えられるよ。それにしても、硫酸かあ...そうだ!いいこと思いついた!放課後が楽しみだな〜。


放課後。私は歩いていた。今日の夕飯は何にしようか?あっ、LINEだ。彼氏は作らないって決めてるのにどいつもこいつもうるさいな。

「ねえ由花子ちゃん!こっちむいて!」

目の前に、ツインテールの少女が姿を現した。同じクラスの小鳥遊るるだ。どうしたのだろう。

「由花子ちゃん由花子ちゃん!ボクと一緒に遊ぼうよ!」

「遊ぶって、今から?」

「そうだよ、はやくはやく!」

私は半ば引き摺られるように、るるについて行った。

「あっ、これから行くところは内緒の内緒だから、目隠しを付けるね!」

一体どこへ行くのだろう。随分歩いた気がする。目隠しを取られると、そこは小さな部屋で、真ん中に小さなプールがあった。

「さぁ、由花子ちゃん、服を脱いでここに入って。」

「えっ?」

「ほらほらー、はやく脱いで、全部だよ!」

るるが私の服に手をかける。そしてびりりと引き裂いた。制服はかなり丈夫なはずだ。どこにそんな力があるのだろう。その前になぜ破る必要が?呆気に取られている間にも、服はどんどん引きちぎられていく。ついに下着だけになってしまった。

「わーっ!由花子ちゃん、おっぱい大きい!さあさ、これも取っちゃおう!」

必死の抵抗も虚しく、下着だった布きれが散らばった。

「わぁ...綺麗な身体...勿体ないくらいだよ...」

何を言っているのだろう。じっと見つめられていると、なんだか恥ずかしい。身体が火照ってくる。いや、そんな場合じゃない。こんなことになるなんて。軽率について行った私が馬鹿だった。強く言って帰して貰おう。

「えっ..と、何考えてるかわからないけど、家に返してくれる?こんな所いられないわ。それと、帰りの服を貸して?これじゃ帰るに帰れない。」

「えっ?なにいってるの?帰れるわけないじゃん。はやく、そのプールに入ってよ。」

「プールに入ったら、帰してくれるの?」

「もう、うるさいな、とにかく入ってよ!」

「わかったわ。入ればいいのね。」

人1人が丁度入れる位の小さなプールに、私は足を少しつけた。その瞬間、足に鋭い痛みが走った。見ると、足先が真っ黒に爛れている。なにこれ。ただのプールじゃない!

「何よこれ!こんなものに入れって言うの?死んじゃうじゃない!」

「そうだよ。はいってね。もしかして一緒に入りたいの?仕方ないなあ。」

るるはするすると服を脱ぎ始める。なんだこいつ。狂っている。逃げ出したいが、さっきつけた足が痛くて立ち上がれない。頭が真っ白になる。

「ほら、入っても大丈夫だよ。気のせいだったんじゃない?」

嘘だ。るるはすっかりプールに入っているが、白く無傷のままだ。本当に大丈夫なのかもしれないという気さえ起こってくる。

「じゃあ、お姫様抱っこしてあげるから、一緒に入ろう?」

私はるるにひょいっと抱き上げられ、プールに浸かった。

その瞬間

痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!身体が焼け付くように痛い!溶ける!無我夢中で暴れると、身体のあちこちに液体がかかって余計に痛い!

「もう、暴れないでよ。綺麗な顔が溶けちゃうよ?じっとして。」

何を言っているんだこいつは!なんでお前は無事なんだ?ここから出して!そんな声さえもう出ない。

「ねえ由花子ちゃん?痛い?身体が溶けていくってどんな感じ?ねえ?とっても綺麗だった身体、こんなに汚くなっちゃったよ?でも顔は大丈夫。とっても綺麗だね。どうしよう、ボク興奮してきちゃったぁ♡」

苦しい、痛い、もう感覚がない...私の意識は、黒く落ちていった。そして二度と目覚めることはなかった。


「ふふ~ん♡できたかな?」

由花子ちゃんの身体をずるりとプールからあげる。すっかり皮膚は溶けている。濃硫酸100パーセントのプールは大成功を収めた。綺麗だった身体は黒焦げになり、所々にある肉色の裂け目だけが、それが人間の身体だったと語る。対して顔はひとつの傷もなく、最期の絶望の表情を留めている。嗚呼、なんて美しい食物なんだろう。今日のご飯も最高だなあ。

「やったあ!いただきます!」

ばり、ぶち...っ、ばきばき...ぐちゃっ...

「しゅわしゅわしてておいし~♡たまにはこういうのもありかもね。」


美しい化け物は、歪んだ笑顔で笑った。


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