屋上、君と二人で

藍沢 紗夜

屋上、君と二人で

「ねえ、例えば、今から死ぬんだって言ったら、君は祝福してくれる?」

 屋上の殺風景の中、青空だけが痛いほどに澄んでいた放課後に、彼女は笑っていた。質問の中身と裏腹に、楽しそうに。

「しないよ、祝福なんて」

 僕は胸につかえたような苦しさを押さえてそう答える。彼女は、ふっ、と溜息混じりの哀しい微笑を漏らして、そっか、と小さく言った。そしてまた、言葉を継ぐ。

「ハリボテの希望を塗りたくって生きてきたんだ、心の奥を隠してさ。それが正常だと思い込んでたんだ」

 靴を脱いで、彼女はよっ、と屋上の塀に座った。紺色の靴下を穿いた華奢な脚を揺らしながら、彼女は話し続ける。

「でもね、どうやら勘違いだったみたい。そうして壊れた私が此処に居るんだ」

 彼女は空を見上げた。彼女の瞳は、何処か遠くを見つめているように凪いでいた。

 僕は何とも応えられなくて、ただその光景を見ていた。

 彼女は、只々、美しかった。


 それから少しの沈黙が流れ、居た堪れなくなった僕は、重たい口を開いた。

「君は、死ぬの?」

 恐る恐る問いかけると、彼女は少し考えるように間を空けてから、こう答えた。

「死なないよ。だって、祝福してくれないんでしょ」

「なんで僕の答えを気にするの」

 なんでって、そりゃ、と君は笑った。

「君が私の生きる唯一の理由だから」

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屋上、君と二人で 藍沢 紗夜 @EdamameKoeda

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