EX

?? ??(26)

 知らない街で一人、俺はたたずんでいた。


「嘘やろ……何やねん、これ……」


 空が……赤黒い。人間、あまりにも理解が追い付かない状況に放り込まれた時には、洒落シャレた表現など浮かばないものらしい。


 ……まるで血のような。


 陳腐ちんぷで、しょーもない事この上ない形容だが、それが……今の自分に出来る精一杯の表現だった。


 信じられない事の連続で、俺は自分の正気を疑い始めていた。


 頭のおかしいヤバい女に、大阪から拉致されてきたと思ったら、その女に『すみません、勘違いでした』的な事を言われ、『この穴を通って帰れ』と言われて入ったらこの有様だ。


 遠くに塔が見えるが……1000%、間違いなく、絶対にあれは通天閣ではない。一体ここはどこなのか? そして何が起きているのか……


 再び、空を見上げた……血のように赤い空は果てしなく続いている。


「怖っ、引くわー……」


 その時、建物の影から人影が現れた。俺は、ここはどこで、一体何が起きているのか聞こうと一歩踏み出し、そのままの姿勢で硬直してしまった。

 現れたのは……人間ではなく、謎の生物だった。


 先程も言ったが、人間、あまりにも理解が追い付かない状況に放り込まれた時には、洒落シャレた表現など浮かばないものらしい。


 ……赤い目ぇした、黒いゲルで出来た人型のバケモン。


 それが、今の自分に出来る精一杯の表現だった。


 謎の生物と目が合った。バケモンが立ち止まってこちらをジッと見ている。この前、何気なく見ていたテレビで、『野生動物に遭遇したら、視線を逸らさず、目を合わせ続けたまま静かに後退りする』……と言っていた気がする。俺はそれを実行に移した。


 バケモンが一歩前に踏み出した。

 俺はそれに合わせて一歩後ろに下がる。


 バケモンが更に一歩前に踏み出す。

 そして俺も更に一歩後ろに下がる。


 バケモンの歩く速度が上がる。

 俺の下がる速度も上がる。


 バケモンが走り出した。

 俺は 逃げだした!


「に〒rq8m@ヌぬりふ69!!」


 バケモンが意味不明な叫びを上げながら追いかけてくる。一瞬振り返ろうかとも思ったが……無理だ、怖い、怖すぎる!!


「☆○ぬるちrlqx250!!」

「69♪iv完む#つん93!!」

「式ふ@#にひしをし月88!!」


 自分を追いかける声がどんどん増えてゆく。捕まったら殺される!!

 恐怖に駆られ、肺が破裂しそうになりながら、死に物狂いで足を動かす。


「あっ……あれは!?」


 視線の先に、このおかしな場所にやってきた時に通った穴があった。穴は徐々に縮んでいるようだ。


 殺されない為には、あの穴に飛び込むしかない。


 穴が閉じきってしまう寸前、俺は穴にヘッドダイビングで飛び込んだ。


 真っ暗な空間を手探りで進む……気配はしない……が、遠くでバケモンの声が聞こえる……気がする。これは、恐怖が生み出した幻聴なのか、それとも……


 しばらく歩き続けていると、不意に光が見えた。徐々に消えかかっているように見える。死にたくない……こんな何もない真っ暗な空間で死ぬのは嫌だ!!

 その一念で、棒のようになった両足を必死に動かし、俺は光に飛び込んだ。


 ……光の向こうは、あの女に拉致され、連れて来られた場所だった。俺を拉致したあの女もいる。



 ……戻って来てしまった、この異界に。



 俺は、果たして元の世界に帰る事ができるのか。

 

 



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