金谷 悟(29)
9-①
何の変哲も無い水曜日、突如として……空に穴が開いた。
俺は妻の聡美と二人で徒歩で買い物に出かけた帰りだった。信号待ちをしていると、隣に立っていた聡美が『あっ!!』と声を上げた。何かと思ったら、雲一つ無い青空に切れ目のようなものが入っている。
何だろうと思っていたら、切れ目が赤く光り出し、まるで閉じられていた
しばらくすると、空に開いた穴からバラバラと何かが落下しているのが見えた。
ここからあの穴の真下まではまだ距離があるが、言いようのない危機感を感じた俺は、急いで聡美を連れて家に帰り、車の準備をした。
ひとまず隣の県にある俺の実家に辿り着いた俺達夫婦は、そこで、あの穴から落ちて来たものが、正体不明の生物で、その生物の攻撃によって、自分達の暮らす街が壊滅状態に陥った事をテレビのニュースで知った。
ニュースによれば、いまだに生物の数は増え続けており、もはや警察の手には負えず、自衛隊の出動が閣議決定したらしい。
火の海と化した自分達の街の映像を見ていると、 “ピロリロリン” と音が鳴って画面の上部に緊急速報のテロップが入った。どうやら街の上空に現れた裂け目が大阪にも現れたらし…
“ピロリロリン” 本日15:30 愛知県名古屋市熱田区上空に裂け目が出現しました。
“ピロリロリン” 本日15:30 長野県飯田市旭町上空に裂け目が出現しました。
“ピロリロリン” 本日15:31 福岡県春日市一の谷上空に裂け目が出現しました。
“ピロリロリン” 本日15:31 徳島県阿南市大井町上空に裂け目が出現しました。
“ピロリロリン” 本日15:32 韓国のソウル上空に裂け目の出現が確認されました。
アメリカ、中国、ウズベキスタン、イタリア、止まることのない緊急速報が、世界中にこの災厄が世界中に広がっている事を伝えている。
アレは一体何なのか? 異世界からの侵略者? 冗談のような事態だが、その冗談のような事態が現実に起きているのだ。これから世界はどうなってしまうのか?
“ぴんぽーん”
家のチャイムが鳴った。玄関の扉を開けたら、近所に住んでいる甥の亮太が、制服姿で立っていた。友達だろうか、隣にはセーラー服姿の女の子を連れている。名札には『伊藤』と書かれていた。
「亮太か、久しぶりだなぁ。あれ……今日は学校……」
言いかけて止めた。こんな事になっているんだ、きっと学校も休みだろう。
「今日はどうし……えっ?」
亮太と隣の女の子が “にぃぃぃっ” と笑ったかと思うと、皮膚が溶け落ち、中から真っ黒い怪物が現れた。ついさっきまで画面の向こうで、俺達の街を
……世界の未来より、俺は自分の命を心配しないといけないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます