第25話文学的には絶望だ、絶望だ!!

25 病床日記(いつか青空)

P 8.21 Monday

●書くのをわすれていた。

さくやは彼女がボードレールの詩集「悪の華」をもってきてくれた。

うれしかった。

●ぼくにはimageを凝縮する力がない。

ぼくにはイメージを煮詰めるこころのユトリがない。

だから、詩は書けない。

せめてボードレールの詩を読もう。

せめて田村隆一の詩を読もう。

●ああ、はやく元気になって、シナリオを書きたい。

小説を書きたい。

どうしてこんな病気になってしまったのだ。

●大垣さんがいなかったらどうなっていただろう。

毎日のbedの中だけの閉ざされた生活。

格子なき牢獄みたいな病院生活は灰色。

詩を思うのではなく、死を想っていたろう。

よかった。

彼女ができてから病気になって。

病気になったことが、よかったのではない。

彼女がいて。よかったのだ。

これからの生活を彼女とともに切り拓いていくと思えば勇気がわく。

●はやく小説を書きたい。

シナリオを書きたい。

東京の文学の友は、がんばっているのだろうな。

恥ずかしくて、病気になったなんて連絡できない。

松元力くん元気ですか。

野口恭一郎くんげんきですか。

板坂義彦くん元気ですか。

ともだちのことばかりかんがえた。

みんなシナリオ研究所で一緒だったともだちだ。

●ぼくはじぶんがひどく田舎者になってしまったようで寂しい。

ぼくはじぶんが文学の道から外れていくようでとても寂しい。

●こんなに気弱になったぼくを彼女にはみせたくない。

●文学的には絶望だ。絶望だ。

●泣いた。


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