第24話あなたにあえるだけでいい

24 病床日記(いつか青空)

P 8.20 Sunday 熱6.7

●彼女はきょうはやって来る。

●夏のおわりの灰色の空も、薄暗い風景もいっきに明るくなる。

●彼女さえ来てくれれば……。

●彼女の手をにぎって顔をみあわせる。

●それだけでいい。たったそれだけのこと。

●それだけでいい。それだけのことでいまのぼくはしあわせになれる。

●病気が病気だから。

●たとえ菌がでていないといわれても、ぼくはキスするとはひかえなければいけない。つらいけど。こらえなければいけないのだ。

●窓の外の灰色の空。

●心の中の明るい期待。

●大垣美智子様。

●ぼくは彼女への宛名だけのラブレターを書いた。

●いまのぼくの体力ではここまでだ。日記をつけるだけでせいいっぱいだ。だからこの日記は美智子さんへのラブレターだ。愛の告白だ。

●ぼくらはこの故郷鹿沼の小さな劇団の練習場で出会った。もちろんアマチュアの劇団だ。

●あの出会いがなかったらぼくは東京にもどっていた。

●あの出会いがなかったら田舎町で暮らすことはできなかった。

●あの出会いに乾杯。ぼくはあの出会いをけっして後悔しない。

●それどころか、あの出会いをつくってくれた神様に感謝。

●ありがとう。

●結婚したい。

●はやく元気になり結婚したい。

●演劇の練習。まいにちがんばったね。ぼくらの結婚は――友愛結婚。

●あなたのこと好きです。

●愛しています。

●死ぬほど好きです。

●心から愛しています。

●ああ、なんてむなしい言葉の力なのだろう。

●愛情はただふたりで、顔をみあわせているだけで、言葉以上のものを生み出す。それを思うと小説など書くのがいやになる。

●美智子さん。愛するあなたは、いまごろ食事をすませて、これからぼくのところにくる支度をしているのでしょう。まっています。

●ただあなたに会えるだけでいい。

●それだけで十分しあわせになれるぼくがまっています。

●早く来て下さい。


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