第10話 病床日記ーいつか晴れるか。

10 病床日記(いつか晴れるか)

1961.8.7月曜日 

●熱6.7(朝)~7.3(午後)

●ストマイ打つ。

●美智子さんは今夜、料理を習いに行っている。

●多分遅くなるので、こられないだろう。

●あるいは? と期待してみたりして一日を過ごす。

●まだ、彼女の御両親にあっていない。挨拶に行く前に病気になってしまった。

●なんといって、夜、出でくるのだろうか。事務員をしている。毎日、疲れるだろうな。ぼくと交際していることはいってないだろうな。疲れているのに、よく会いに来てくれるな。さいわい彼女の家が近くてよかった。

●原稿書きたいのだが。自重している。

●御菓子など、すこし食べてみた。

●美智子さんには会えなかった。寂しい。

N 2008.10.13 月曜日

○きょうから、「いつか晴れるか」というサブタイトルをつけることにした。過去の日記をタイピングしていると胸が苦しくなる。咳まで出てきてしまう。なぜあのとき、病気になってしまったのだ。悲しくなる。わが家の事情なので、フルタイムの作家として成功できなかったら、このまま書かずにあの世までもっていく。悲しい青春だった。

○美智子さんと知り合わなければ、どうなっていたろうか。

○少女よ。乙女よ。恋をしてください。恋のない青春なんて青春ではない。

○いまの若い人にはそんなこと、いうことありませんよね。六年生のA子ちゃんがデートしている。たのしそうだ。平和だな。だいたい平和だな、といっても戦争体験のない親たちの子どもの世代だ。平和なんて死語だ。

○わたしたちの大恋愛も老成期にはいっている。

○カミサンのお腹が大きくなったとき心配の余。わたしも想像妊娠した。男の想像妊娠なんてあるのだろうか。ただ肥っただけだ。下腹部が脂肪でつきだしただけかもしれない。でも胎動までした。赤ちゃんが生まれたら、こちらもぺそっとした。どうだ。

○先月上部内視鏡の検診をうけた。まつたくピロル菌もいないきれいな胃だとほめられた。

○ただいくぶん逆流性胃炎がみられますねといわれた。

○カミサンがその病気で苦しんでいる。どうだ。

○この調子だと、死ぬときも同時。ガンバコに重なって入れるぞ。どうだ。

注。ガンバコとは棺のことです。

○究極の愛とは、こんなものだ。どうだ。「また、つまらないことをいってしまった」ゴメン。


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