第7話 病床日記ー夏

7 病床日記/1961.8.4 金曜日

●熱。あさ、6.5度

●6時起床。起床というより、bedで目を覚ましたといったところ。ぼんやりと彼女のことばかりかんがえた。はやく、元気になってふたりで街を歩きたい。少し声を出すと息切れがするいま、彼女がきても話ができないのではないか。そんなぼくを見たら、彼女はなんというだろうか。ぼくをきらいになってしまうのではないか。心配になった。

●まだ彼女はぼくのことを両親に、ちゃんと話していないだろう。「肋膜の男となどつきあうな」と話せば、叱られてしまうかもしれない。それでも、ひるまずぼくとつきあいつづけてくれるだろうか。

●どうして、こんな病気になってしまったのだ。

●ぼくは祭祀場の生贄のように身じろぎもせず、bedに横たわっていた。

●どうしたら背筋に痛みを感じないで起き上がれるかぼんやりかんがえた。

●朝から雨。街も静か。納豆売り声がひびいてくる。

●ガソリンスタンドでの同僚が見舞いに来てくれた。案内してきた父はぼくと一言も口をきかずに帰って行った。

●廊下を油雑巾でこする音がする。

●久根間先生の回診を初めて受ける。「トイレにいく以外は絶対安静」とのこと。その他、病状について聞いたがショックが大きすぎてなになも頭にのこらなかった。

●ストマイうつ。初回。

●病名。滲出性胸膜炎兼肝臓障害。

N

○あのとき、父が一言も話さずに帰った理由がいまもってわからない。

○心配かけつづけだった不肖の息子としては、いまだに気がかりだ。

○全く意見に合わない悲しい親子だった。

○でも、わたしは文学の道に進んだことをいちども後悔したことはない。

○病室から去る父の背を思い出すと、いまでも涙ぐむのはどうしてだろう。



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