第6話 病床日記-夏
6 病床日記/1961.8.3 木曜日
●あさ、6時30分起床。体が重苦しい。じぶんの体なのに、砂袋だ。重い。そろりそろりと歩いて、トイレに行く。またbedに横になる。
●自己反省にはおそろしいほど適当な時間と場所。
●さくじつのように不安はやってこなかった。
●ここにいる間に、いい作品を書きたい。ぼくは病気だ。でもそれはこの体が病気なのだ。頭は病んでいないのだから。どんなに苦しくても、いい小説を書きたい。だらけていたら、東京に残って精進している松元、野口、板坂の諸兄に笑われるだろう。「木村もかわいそうに、都落ちした。文学の道はあきらめたらしい」と
●熱、あさ。6.1度.
熱、午後。7度。
●午後になって雨。低く垂れこめた乳白色の空から雨が降りだした。
●大垣さんはまだ来てくれない。こちらから連絡することはできない。ぼくが病気になったと知ったら親に交際を止められるだろう。悲しい結末がまっているようで、怖い。
●雨が強くなった。雨滴が窓をよこぎる。数条の雨滴の流れの合間に街の灯りが見える。
●少しずつではあるが、余裕をもって窓の外の風景に視線を向けることができるようになった。
●あれが東小学校。あのあたりが、大垣美智子さんの家。ぼくはまだ彼女をなんと呼んでいいのか迷っている。大垣さん。美智子さん。やはり美智子さん、がいいのだろうか?
●あの辺の屋根の下に、彼女が存在しているのだ。愛らしく。
N
○Yちゃんに借りた「恋空」の上を読み終わった。中高校生の目線で書いてある。同時代の作者、同じ空の下で生きている読者。うらやましい。わたしたちの時代は、外国文学、日本の古典。場所も時代もちがった。作者と読者の目線が同じ。同じ空を見あげ、同じ地平線を見つめている。うらやましかった。ものすごい共感をもってむかえられた「恋空」の秘密がわかったような気がした。
Pと●は過去の作品。Nと○は現在のことを表しています。
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