これで全員ですか?

「たりぃ〜」


えっ、怖い。教室にヤンキーがいる。


放課後、図書委員の仕事を終えてから、婚活部の活動場所である、我がクラスへ戻ると、見覚えのないギャルが、頬杖をついていた。


……しかも、俺の席で。


「あ、あの〜」


「ん?」


今日もお仕事の時間だ。座っているのでわかりづらいが、多分身長は158センチくらい。金色の髪の毛はポニーテールで、白い肌がセクシー。パッと見高校生には見えないほど大人っぽくて、色気のある女の子。まぁその判断基準の大半は、スタイルなんですけど。


そして、そのギャルにどいてもらわないと、俺は机の中にある、置き忘れたスマホを取り出せない。


「そこ、俺の席なんですけど、ちょっといいですかね」


「あぁごめんね」


ギャルは席に座ったまま、机の中のものが取り出せるようにしてくれた。立ち上がるつもりはないらしい。


俺は、すぐにスマホを取り出す。


「ありがとうございます」


「ん」


一文字かよ……。


でも、こういう女の子の方が、それこそ結婚とか早いんだろうな。婚活部の二人に見せてやりたいくらいだ。


と、思っていたところで、ドアが開いた。相変わらず都合のいい。


「やっほー!五十鈴だよ?」


「誰だよ」


「もー。忘れちゃったの?今朝あったばかりでしょ?いーすーず!ね?」


人差し指を自分の頬に当てて、おてんば女子のように微笑む五十鈴さん。


「えっと、それは何属性?」


「スマイル属性っしょ」


答えたのは、五十鈴さんではなく、ギャルだった。


……待てよ?


確か、残りの一人の部員って、グレてるとか言ってたような。


いや、まさかな。


「当たりなのです。えっと、喜多川さん。この子は婚活部のエース、神麗花ちゃんです」


まさかでした。ていうか人の心を普通によむな。


しかし……エース?この子が?


俺は、神さんを見ながら、先ほどの会話を思い返してみる。演技しているような雰囲気ではなかったが……。あまり見ていると、睨まれるので、この辺にしておこう。


「何見てんの?」


遅かった。鋭い眼光によって、俺は身動きが取れなくなる。それを誤魔化すように、かろうじて動く首を、五十鈴さんの方へ向けた。


「じゃあ、なに。この子も属性やってんの?」


「そうですよ?神ちゃん。この人は、新しい私たちの仲間、喜多川雫くん」


「どうも」


五十鈴さんの紹介を受けたので、とりあえずお辞儀をしておく。神さんは、ジロジロと俺を見ていた。


「な、なにかな」


「……ウチ、男の子と話すの苦手なんだわ」


……わぉ。えっ、名古屋弁だ。名古屋弁。


これも属性か?と思ったが、顔を赤くして、照れているあたり、本人の姿だと思われる。


「ねぇ五十鈴さん。ウチ、男の子おったら、なんもできん。帰ってもらったらかん?」


「そうですね。さようなら喜多川さん」


「あっさりしすぎじゃない?」


俺は抗議の意を示すべく、空いている席に座った。


そして、じっくりと神さんを見る。すぐに頬を染めて、顔をそらされてしまった。


「いや、さっきあんなに俺のこと睨んでたじゃん」


「……」


神さんは、答えなかった。代わりに私が答えましょう!と言わんばかりに、五十鈴さんが、俺も神さんの間に入ってくる。


「あのですね。神ちゃんは、両親が俳優さんなので、演技が得意なのです。だから、普段は目も合わせられないくらい、男の子が苦手なのに、演技している間だけは、男の子と会話できる。そういう女の子なのですよ」


「なにその苦しいガバガバキャラ設定」


まぁでも、正直この部活自体、割と設定厳しいし、そこはスルーしておこう。細かいことは気にしないのが長生きの秘訣だ。


「正直、こんな可愛くて胸がでかくて胸がでかい胸デカ女、仲間とは認めたくなかったですが、彼女の属性力は素晴らしいです。一年生とは思えない能力を発揮してくれています」


「後半の文長くして、前半の悪口を隠そうとするのやめない?」


胸の話するとき、爪噛むのやめてほしい。生々しいから。


「……そういうこと。だからさ、アタシ、だいたい男の人の前では、こんな感じなんだよね。自分でも気に入ってんだ。サバサバギャル属性」


この五十鈴さんの、無駄な嫉妬タイムの間に回復したのか、先ほどの赤面とはうって変わって、最初会った時のギャルが、再び現れた。なるほど、こうも見事に……。


「やー遅くなったね」


開きっぱなしだったドアを閉めて、坂下さんが入ってきた。よかった。今ちょうど、場がまとまったところだったので、ベストタイミング。もう少し早かったら、とっちらかって、ヒルナンデスの終わり際みたいになるところだったからな。


「ごめんごめん。ちょっと用事があって」


「用事なんてないっしょ?友達いないのに」


「友達?ははっ。そんなものを作ってる暇、僕にはないのさ。属性研究で忙しいんだ」


と、さすが先輩と言えなくもないような、自信に満ち溢れた返事をして、坂下さんは席に座り、パソコンを開く。


「……べ、別に。友達いないわけじゃないからね?」


前言撤回、余裕全くなしでした。


その様子を見てか、神さんがニヤッと笑う。


「まっ、いいけど?ちなみにアタシは友達二億人いるから」


「なっ、二億人?すごいな。ほとんど世界中の人間と友達ってことかい?」


「そうだよ」


そうだよ。じゃあないよ。えっ、坂下さんって結構バカなのかな……。もしかして、今日遅かったのも、成績が悪いから、呼び出されていたとかだったりして……。


「ねぇ五十鈴さん。普段からこんな感じで活動してんの?」


「あなたがいなければ、神ちゃんは正常に戻ります。正直このモードのまま、活動を続けるのは難しいです。なので……」


五十鈴さんは、俺の肩に手を置いて、申し訳なさそうな顔をすると……。


「今日は、帰ってください。ほんとすいません」


真剣に謝罪されてしまった。


ので、帰ろうと思います。ややこしいキャラが出てきてしまいました。


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