練習の成果、見てもらえますか?
「おはようございます」
「なんで俺の家知ってんの?」
「おはようございます」
「RPGのCOMじゃないんだから」
「おはようございます」
「……おはよう」
現在時刻、朝の六時。徒歩10分で着く学校に通うために、起きるような時間ではない。
お迎えさんが来てるわよ。と、母親に起こされたのは、ほんの数十秒前だ。あの子、お前の彼女か?と、父親に茶化されたのは、ほんの五秒ほど前。そして……今。
俺の目の前には、婚活部の部長、五十鈴美礼が立っている。
「何の用?俺はあと、一時間は寝ないといけないんだけど」
「ねぇ、なんでそんなこと言うの?ねぇねぇ」
五十鈴さんは目を見開いて、そんなセリフを吐く。うわ、めんどくさ。一日にして、婚活部に入ったことを後悔してます。帰りたい。いや、帰ってた。
……でも、ここでこの子を放っておくと、親に何言われるかわからないしな。
仕方ない。しばらく付き合うとしよう。
俺はサンダルを履いて、寝間着のまま、外に出た。
「わぁ。本物の喜多川がいるよ?私の喜多川……えへへ」
近くの自販機まで五十鈴さんを誘導する。ここなら大丈夫だ。
「五十鈴さん。一応聞くよ。それは何属性?」
「うさぎ属性です」
「センスのかけらもないよ」
「そんな……」
がくっとうなだれる五十鈴さん。
「あんなに練習したのに」
「あのね。それはもうただのメンヘラだから」
「け、結構恥ずかしかったんですよ?」
「そうですか」
俺の方が恥ずかしかったんですが。何普通に親と顔合わせてんだこの人。常識ないのか?なかったね。
「もっとこう、控えめなんだようさぎ属性って。今の五十鈴さんだと、ショートケーキの上に砂糖ぶっかけたみたいな感じ」
「えっ、私それ普段からやるんですけど……」
「変な属性を唐突に披露しないでくれる?」
はぁ。と、思わずため息が出てしまう。なんで起きて数分で、俺はこんな目にあってるんだ。
そんな俺の様子を見てか、さすがに五十鈴さんが、申し訳なさそうな顔をした。
「すいません。私、婚活のことになると、少しやりすぎてしまうんです」
なんでそこまで……。と、聞きたかったが、聞くと4歳から語り出すので、聞かないです。遅刻しちゃう。
「まぁ、努力するのはいいことだと思うよ。エジソンも言ってたし。天才は……」
「我輩の辞書に不可能という文字はない。ですよね?」
「うんそれそれ」
あまりにやばい知識レベルをお披露目されてしまったので、ちょっと合わせるしかなかった。しかしこの人、属性属性言うくせに、この出会ってからの短期間で、怪しいクーデレ属性と、甘党属性と、アホ属性を見せつけてきているな。もう十分じゃないのか?言わないけど。打ち切りになっちゃうから。
……まぁ、全部、婚活に向くとは、とてもじゃないけど言えない属性なのは、少し気の毒だ。
「もう、うさぎはやめたら?向いてないし。本来の自分のキャラに近い属性をやったら良いよ」
「例えば?」
「猫とか」
「わかりました」
俺がそう言うと、五十鈴さんは、地面で堂々と四つん這いに……なろうとしたのでさすがに止めた。近所で女子高生にこんなことをさせていたら、すぐ噂になる。
「なんで止めるんですか?」
「あのね、まず何でも、動物だからって、形から入るのやめてくれない?ただのモノマネだよそれ」
「モノマネ得意ですよ私」
「趣旨変わってんじゃん」
婚活において、絶対必要ないスキルだ。忘年会じゃないんだから。
「猫属性ってさ、クーデレに近いんだけど、もーちょい子供っぽい感じというか……うん。どうかな。わかる?」
「やってみます」
「すぐやりたがるよね」
五十鈴さんは、一旦目を閉じた。おそらく、キャラクターを自分の中で構築しているのだろう。
十秒ほどして、目を開く。そして、俺の方をまっすぐに見つめてきた。
「喜多川」
「……何でしょう」
「お小遣いちょうだい?」
「子供っぽいってそういう意味じゃないんだよ」
「お菓子くれなきゃイタズラするぞ?」
「それは渋谷でやってくれ」
五十鈴さんは、俺の態度が気にくわないのか、不機嫌そうに、唸りながら、地団駄を踏み始める。どこがクーデレなんですかね……。
しかし、これはもう、ちゃんと全てを、具体的に勉強させない限り、通じなさそうだ。
「ネットで、猫属性を調べてみてよ。そんなんじゃないからさ」
「ネットは使わないことにしているのです」
「なんで」
「坂下さんが昨日説明したのです。ベーシックな属性をやっても、意味がない。私たちは、相手より常に一歩先へ進まなければ」
「だからね、今君達、婚活をしている誰より遅れてるんだって」
さらに地団駄が加速した。おっかない。初めて見たよ。敬語属性のくせに、モラルが欠如してる人。
「まず、基礎の練習をしよう。応用はそれからだ」
「予備校の講師みたいなこと言わないでください」
「……あのさ、一応これでも、協力するからには、俺もちゃんとやろうと思ってるんだよ」
「……喜多川さん」
「俺は、君も知っての通り、ちゃんと経験と実績があるんだから、多少信頼してくれてもいいんじゃない?頑張るからさ」
だって、早く、喜多川さんや坂下さんに、可愛い服を着せたいからね。と、続けようとしたが、その前に、五十鈴さんに思いっきり手を握られてしまった。えっ、なんだろう。告白とかされるのかな。
「……喜多川さん!私、きっと立派なお嫁さんになります!共に、頑張りましょう!私の将来のパートナーのために!」
……えっと、フラれたようなもんでした。
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